ピアス

「ピアス開けようと思う」


突然思いついたかのような軽い言い方で先輩が唐突にそう言い放った。


「ピアスですか?…まあ、いいと思いますよ。似合うでしょうし」


「いや、見えるところに開けるつもり無いよ」


見える所以外のピアスなんてあるの…?

ピアスについての知識が乏しい私は耳以外の場所なんてほとんど知らない。辛うじて唇とかその周辺に開けるピアスがあることを知っているくらいだ。


「舌に開けようと思ってね」


舌?舌ってあの舌?口の中にある味覚を感じ取る機能が備わってるあの舌?


「…穴開けれるんですか?死んだりしません?」


「全然大丈夫らしいよ」


そう言われても、舌にピアスなんて想像もつかない。だいたいなんで急にピアスなんて……


「なんで急にピアス開けるなんて言うんですか?」


「陽菜ちゃんに私のピアスを開けさせてみたいなって思って」


私が、ピアスを、先輩に開ける……?


無理無理無理無理無理!!

人の体の一部に穴を開けること自体怖いのに舌!?無理に決まってるでしょ!


「舌ならインパクトも大きいし、陽菜ちゃんの中に私に舌ピを開けたっていう記憶が残り続けるから、良いなって思ってさ」


そんな理由で…!?

悪趣味すぎる


「それにさ、舌ピ開いた人とするキス。めっちゃ気持ちいいらしいよ……?」


「……それ、ほんとですか?」


「ほんとほんと」


……ほんとかな。ちょっと、気になる、かも


今でも十分過ぎるくらい気持ちいいキスに上があるの?嘘でしょ?


「気になってきたでしょ?ほらほら、開けてみよ?」


いつの間にか私の手にはピアスを開けるための道具であろう、ニードルとピアスが持たされていた。


「それじゃ、開ける場所だけ印付けてくるから待ってて」


そう言い残し鏡のある場所へと向かっていく先輩の後ろ姿を呆然と見守りながら私は、盛大に焦っていた。


どうしよどうしよ!?なんかキスの話に乗せられて開ける方向に向かってるよね!?

そんな度胸ないし、開け方もわかんないって!

しかもこれじゃ、気持ちいいキスがしたくて開けることにしたみたいじゃんか!


「印つけてきたぁ」


舌を出してマーカーで点をつけたのであろう場所を見せてくる先輩。


「ほら、覚悟決まった?」


「き、決まってないです」


「じゃあ準備だけしとくね」


目の前で準備がちゃくちゃくと進められていく。舌を消毒し、何処から持ってきたのか分からない新品の消しゴムを舌の下に添え膝立ちで私を見上げている。


「あぁ、もう!やりますからね!痛くても文句言わないでくださいよ!」


恐る恐る印がつけてある場所に針の先を合わせ少しづつ力を入れて針を刺した。


少し顔を顰める先輩が目に入り手が震えそうになるのを必死で耐えて、針を進める。


やっとの思いで貫通させた針にピアスを接続し、ようやく針を引き抜くことが出来た。

ピアスのキャッチをしっかり締めて作業が終わった。


「あああ〜。結構痛かった」


「文句は受け付けませんからね…」


「誰が開けたって痛いだろうし大丈夫〜」


ちろっと舌をだす先輩の舌の中央より、少し先寄りの場所で銀色に輝くピアスが目に映る。


私が、開けたのか……


「暫くは出来ないけどキス、楽しみだね?」


そう言った先輩の顔に無性に惹かれてしまった私はもう手遅れなのだろうか。


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百合ゲー転生!ヒロインになったので主人公とのフラグ回避してたらもう1人の先輩ヒロインに迫られています! 暴走天使アリス @mahosama

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