11 鷹城秀一 ――記憶――



「いやだな、橿原さん」

鷹城が綺麗に笑うのに、橿原が唯応えずに視線を置いている。

「そこまで忘れてたら、本当に僕危ないですよ」

病院着の薄い青が白い鷹城の顔をより整った人形のようにみせていた。

「―…と、いいたいんですけど、僕本当に危ないみたいですね。―――――――――あそこに行こうと思ったのは憶えてるんですが、どうしてなのか、…。誰を訪ねていったのか、思い出せないんです」

言葉を切って途中でぼんやりと何かを探すように宙をみて。

それからあきらめたように笑って鷹城がいう。






「橿原さん」

「何ですか?関さん」

「…あれは、鷹城の証言は本当ですか?あれは本当に憶えてないんですか?」

車を運転して山道を登りながら関が問い掛ける。

「そうですね。君は、あの鷹城君の証言を疑う何か根拠を持っているのですか?もっといえば、関さん。君も」

「何です?橿原さん」

集落の見える道の一角に車を止めて関が答える。

「すべてを証言していないのではありませんか?君は鷹城君が話していた相手は見えなかったといったそうですが」

「そうでしたか?」

橿原が正面を向いたままでいう。

「本当に、君にはその相手が見えてはいませんでしたか?」

無言のまま青い山麗を関が睨む。

「そして、君を今回鷹城君救出に向かわせた根拠は何です?」

橿原がしずかに関を見る。淡々とした感情のみえない瞳で。

「君は、何を見たのですか?」

関が沈黙したまま目を閉じる。

「関さん」

橿原が静かにいうのに。

「…橿原さん、…その前に、お話する前に、確かめたいことがあるんですが」

無言で橿原が関を見る。





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