第38話
源頼朝、君臨
その瞬間、空の光と影が交錯し、山田と平将門の首の対峙が一層激しさを増す中、突如として大地が震え、異変が起こった。空の奥深くから、まるで時間を遡るような気配が漂い、山田の周囲に不思議な力が集まり始めた。祠の奥から聞こえてきたのは、平将門の怒りに満ちた声ではなく、どこか冷徹で威厳に満ちた、もう一つの声だった。
「将門よ、そこまでだ」
その声を発したのは、源頼朝だった。
突如として現れたその姿に、山田は驚愕する。目の前に立つのは、鎌倉幕府の初代将軍、源頼朝その人。彼の姿は、まるで歴史の中から飛び出してきたように、威風堂々としていた。頼朝はまっすぐに平将門の首を見据え、冷静に語りかける。
「お前の怒りと復讐の魂は、もはや歴史の中に葬られたものだ。お前が求めている戦乱は、今ここで終わりにしなければならん」
平将門の首は、それを聞いて怒りの表情をさらに強める。
「頼朝…お前が何を言おうと、俺の魂は未だこの地に縛られている! 戦いを求めるこの心は消えぬ!」
しかし、頼朝は微動だにせず、冷徹な眼差しを平将門に向け続けた。
「お前の戦いは、すでに過去のものだ。今の時代では、力だけでは何も解決しない。お前が求める復讐は、もう誰も望んではいない」
その言葉に、平将門の首は一瞬、動きを止めた。だが、すぐに怒りに満ちた叫び声が響き渡る。
「頼朝よ…お前は、何もわかっていない! この怒りをどうして解放すれば良いのか、誰も理解しない!」
その言葉が山田の心に響いた。彼は芹沢多摩雄の冷徹さを持ちながらも、平将門の憤怒に共鳴する部分があることを自覚していた。だが、源頼朝の言葉にも何か確信を持った。
「頼朝、将門の怒りは…過去のものではない。彼の復讐心は、今も生きている」山田は、ついにその言葉を口にした。
「だが、俺たちが今ここで戦っても、何も得るものはない。平将門が求めるものは、ただの力ではない。彼が求めているのは、真の解放だ」
頼朝はその言葉にうなずき、平将門に向かって再度言った。
「将門、お前の復讐の炎を消すためには、ただ力をぶつけ合うのではなく、お前の魂を解き放つことが必要だ」
平将門の首は、しばらく黙っていた。空の中で輝く光が、少しずつ弱まり、やがてその光景は静けさを取り戻す。
山田はその静寂の中で、次第に心を決めた。彼は芹沢多摩雄の冷徹な戦士として、そして平将門の影の力を受け継いだ者として、この戦いをどう終わらせるべきかを考えていた。
「将門…」山田は再びその首に向かって言葉を投げかける。「お前が求めるものは、復讐ではない。お前の魂を救うのは、俺の力だ」
その言葉が空間を震わせ、平将門の首は、ふっと静かになった。
「…本当に…そうなのか…?」
その問いかけに、山田は深くうなずいた。
「お前の怒りを、俺が引き受ける。だが、そのためには、俺が全てを受け止めなければならない」
頼朝は静かに見守る中、山田は決意を固めて、その場に膝をついた。芹沢多摩雄の冷徹さと、平将門の力を併せ持ったその姿は、まさに「影の力」を使いこなす者のものだった。
「俺が、お前を鎮める」
山田はそう言って、深く息を吸い込むと、全身に力を込めて立ち上がった。その瞬間、空が再び揺れ、平将門の首がその場に舞い戻り、山田の前に浮かび上がる。だが、今度はその目に怒りではなく、何か解き放たれたような静けさが宿っていた。
「…お前が、俺を解放するのか…?」
その問いに、山田は静かにうなずいた。
「そうだ。お前の戦いは、もう終わりだ」
そして、山田の手のひらから放たれた「影の力」が、平将門の首を包み込む。怒りと復讐の魂が、ゆっくりとその力から解き放たれていくのを、山田はただ静かに見守った。
新たなる時代の幕開け
その後、平将門の魂は、ついに解放された。彼の力は、もはや世界に災いをもたらすことはなかった。そして、山田はその場に立ち尽くし、静かに息を吐きながら、心の中で一つの誓いを立てる。
「これで、全てが終わった」
だが、その言葉の意味がどれほど深いものであるのか、山田自身にはわからなかった。彼が関わった「影の力」の物語は、まだ完全に終わったわけではない。だが、この瞬間、平将門の魂はようやく平穏を得た。
そして、新たな時代が静かに幕を開けるのだった。
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