第39話

 桔梗の前(長澤まさみ)は、平安時代の動乱の中で命運を賭けた女性でした。彼女の伝説は、単なる愛憎劇にとどまらず、時代の流れと共に成り行き、裏切り、悲劇を交えた壮絶な物語を織り成します。


 桔梗の前は、元々京都の白拍子として知られていました。芸妓としての名声を得ていた彼女は、ある日、上洛していた平将門に出会います。将門はその美しさに心奪われ、桔梗を見初めますが、桔梗は将門に惹かれつつも、その背後にある政治的陰謀や命運の流れに対して自らの立場を強く意識していました。


 将門の強大な権力を得るべく、秀郷(松坂桃李)の策により、桔梗は将門の妾となります。将門の側室となった桔梗の心は次第に彼に引き寄せられていきましたが、将門が戦乱に明け暮れ、戦況が厳しくなる中で彼女は次第に秀郷の陰謀に巻き込まれ、命をかけた選択を迫られます。桔梗は将門に対して情を抱くようになり、秀郷の意図に反して将門に味方し、最終的には秀郷の命令に逆らうこととなりました。


 秀郷は怒り、桔梗の裏切りを許さず、彼女を討つ命を下しました。桔梗は逃れようとしましたが、捕えられ、最後は将門が討たれたと聞き、その悲しみに沈みながら、絶望の中で命を絶ったという伝説が伝わっています。彼女の死後、その場所には桔梗塚が建てられ、村人たちがその霊を鎮めるために、祈りを捧げました。


 その後も、桔梗の怨念はあちこちで語り継がれます。茨城県取手市や千葉県市原市では、桔梗の前の悲劇を伝える場所が今も残り、彼女の霊が祟りを成したと語られることがあります。また、彼女が最期を迎えたとされる場所では、水田が広がり、村人たちの間で恐れと共に管理されています。伝承によれば、桔梗の霊魂は鮫となり、村の周囲で恐ろしい事件を引き起こしたとも言われています。


 他の地方では、桔梗の前の出自についても異なる説が伝えられています。江戸時代末期に記された「利根川図志」には、桔梗の前が佐原の隣村、牧野村の牧野庄司の娘であると記されています。将門が牧野の家に宿泊した際に彼女を見初め、そこから妾となったという物語です。このように、桔梗の前の出生や背景には様々なバリエーションがあり、その謎めいた人物像はますます魅力的な伝説として残っています。


 桔梗の前の物語は、愛と裏切り、そして悲劇的な結末を描いたもので、彼女の生涯と死後の霊的な活動がいくつもの地方に伝承されており、今もなおその足跡は日本各地に残っているのです。


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