ススキノクィーンを探れ
【前回までのあらすじ】
前回行われたクィーンズ・ナイトシルバーランクの闘技において、アメリカ出身のカウガール、マーガレット・ワシントンと、クィーンズ・ナイトに併設されているカジノのディーラーでトランプを駆使する格闘術【カードアーツ】の使い手、長谷川ダイヤが激突した。試合序盤、長谷川ダイヤは巧みな技でマーガレット・ワシントンを追い詰めたが、マーガレット・ワシントンは持ち前のパワーで反撃。最後は必殺技スーパーワシントンタックルでダイヤを打ち破り、勝利を収めた。技巧と力の壮絶な戦いに観客たちは熱狂するのであった。
◆
「ふう、なんとか勝てたわね」
長谷川ダイヤとの激闘を制したマーガレット・ワシントンはクィーンズ・ナイト関係者用の通路を歩きながら、大きく息を吐いた。
「それにしても、あのダイヤって子、強かったわね、地下格闘の世界っていうのも中々侮れないわね」
「そうだろう?ここをあまり甘く見ない方がいい……」
「……誰かしら?」
マーガレットが声のした方を振り返るとそこには青をベースにした忍者装束を来た少女がいた。
「私の名は服部シノブだ」
「オゥ!!ジャパニーズニンジャね!!次はあなたが私の相手になってくれるのかしら?」
「……申し訳ないが、あなたの正体は既に分かっている、アメリカ合衆国特殊捜査局【GBM】の捜査官、それがあなたの正体だろう」
それを聞いたマーガレットは笑顔を崩さずに言った。
「あらあら、何を勘違いしてるのかしら?私はここの賞金目当てで戦っているただのカウガールよ?捜査官とかよく分からないこと言わないでくれるかしら?」
「……とぼけても無駄だ、この写真を見ろ」
シノブがマーガレットに見せた写真はマーガレットがクィーンズ・ナイトの立ち入り禁止区間に潜入している時の写真だった。
「……いつこんな写真を撮ったのかしら?」
「偶然あなたが立ち入り禁止区間に入ろうとしているところを目撃してしまってね、申し訳ないが写真を撮らせてもらった」
「あら、そうなの、それで私をどうしようって言うのかしら?」
マーガレットは戦闘態勢をとりながらシノブに問う。それに対してシノブは警戒はするなと言わんばかりに両手を上げて言った。
「私もあなたと志しを共にするものさ、所属は違うがね」
「……あなたもクィーンズ・ナイトの裏にあるものを探っているということかしら?」
「まあそんなところだ、だから私はあなたには危害を加えるつもりはない、むしろあなたに協力したいと思っている」
「……そう、分かったわ、とりあえずその言葉を信じましょう」
マーガレットは戦闘態勢をといて、シノブに握手を求めた。
「なんだいそれは?」
「日本じゃこういう時に握手っていうのをするんでしょう?違うの?」
「……いいや、違わないさ」
シノブとマーガレットは互いに握手を交わした。
◆
次の日、マーガレットはシノブに呼ばれ札幌大通にあるカフェにやって来た。
「あの子、自分から呼んでおいて先に待ち合わせ場所に来てないだなんて、日本人はマナーがいいって聞いたんだけどね」
マーガレットはそう言いながらコーヒーを注文した。今日のマーガレットはスーツ姿だ。すると、待ち合わせをしている相手はすぐにやって来た。
「済まない、急に任務が入ってしまってね、遅れてしまった」
「ふぅん、まぁいいけど、あなた中々可愛い私服着てるのね」
マーガレットはそう言いながらシノブの服装を褒める。彼女が今着ている服は少しゴスロリ要素の入った服だった。
「それはどうも、こんなところにも忍者装束を着てくると思ったかい?」
「流石にそうは思ってないけど、ところであなた私に見せたいものがあるって言ってたわよね?それって何かしら?」
「ああそうだな、これを見てくれ」
シノブはそう言うと1枚の写真を取り出した。そこには1人の派手な衣装を来た女性が写っていた。
「これは……」
「これはあなたが正体を追っているクィーンズ・ナイトの主催者【ススキノクィーン】の写真だ」
「ええ……でも何故あなたが彼女の写真を?私でさえ彼女のことはほぼ何も分かってないのに……」
マーガレットはススキノクィーンの写真を見ながら言う。シノブはそれに答えた。
「私の情報網を舐めないで貰いたい……と言いたいところだけど、これは数多く出回っているフェイク画像の1つ、ススキノクィーンは正体不明でね、クィーンズ・ナイトの会場にも姿を現さない、だからこの写真が本当にクィーンなのかも分からない」
「……そんなフェイク画像を見せるために私を呼んだのかしら?だとしたら感心しないわね」
マーガレットはシノブをギロリと睨む。しかしシノブは全く動じずに言った。
「いや、本題はここからだよ、この写真の背景をよく見て見るんだ」
「背景?これは……このカフェか?」
そう、写真の背景をよく見て見ると、今2人がいるカフェの内装が写っていた。
「そう、この写真はどうやらここで撮られたもののようなんだ」
「なるほど……でもだからといって今更ここで新しい情報を手に入れられるとも思えないんだけど?」
「そうでもないさ……そろそろ来る時間だ」
「来るって一体何が……」
マーガレットが言いかけたその時である、カフェの扉が豪快に開き、そこから緑色のスーツを着た1人の男が入って来た。
「けひぁー!!何やらススキノクィーン様を探る不届きものがいたから備考してみたら、なんかもう1人いるじゃねぇーか!!コイツらを捕まえたらクィーンも大喜びするだろう!!」
「きゃー!!」
突然の襲来にカフェの店員は悲鳴を上げ逃げる。
「ちょっとシノブ!!何よコイツ!!いきなり入ってきて!!」
「コイツはススキノクィーンの部下さ、このゴスロリ変装でクィーンを探っているところを敢えて大っぴらに見せて尾行をさせたんだ」
「そうだったのね!!私もスーツ姿でよかったわ!!」
「けひぁー!!俺の名はゴブリン!!てめぇらが誰かは分からないが俺様がとっ捕まえてやる!!覚悟しやがれ!!」
ゴブリンはそう叫びながらマーガレットとシノブに襲いかかって来た。
「仕方ないわね、やるしかないわ!!シノブ!!」
「ああ、そうだな、行くぞ!!」
「けひぁー!!2人まとめてぶっ潰してやるぜ!!」
ゴブリンはそう叫ぶと2人にラリアットを食らわせようとしてきた。
「はっ!!そんなもの喰らうわけないでしょ!!」
マーガレットはそう言うとラリアットを掴んだ。
「なっ……俺様のラリアットを受け止めただと!?」
「ハアッ!!」
マーガレットはそう言うとゴブリンを糸に絡めて投げ飛ばした。
「うおおおお!?」
ゴブリンは派手にテーブルや椅子を倒しながら壁に激突し、そのまま糸に絡まって動けなくなった。
「くっ……放しやがれ!!この!!」
「悪いけど、私たちはあなたに聞きたいことがあってねぇ……」
「くっ!!放さねぇとどうなるか……」
「ハアッ!!」
シノブは気合いを入れるとゴブリンを糸で締め上げた。
「ぎゃあああああああ!!千切れるううう!!言う!!言うからやめろ!!」
「そうね……ならススキノクィーンがアメリカに違法な武器を輸出してるっていう情報は本当なのかしら?」
「知らねぇ!!俺は何も知らねぇ!!」
「嘘ついても無駄だぞ」
シノブはゴブリンの糸をさらに強く締め上げた。
「ぐわああ!!いや本当にしらねぇんだ!!くる俺はただの用心棒にすぎねぇ!!ススキノクィーン様に直接会ったことすらねぇ!!」
ゴブリンのその言葉を聞いたシノブはゴブリンを締め上げていた糸の拘束を緩めた。
「なるほど、どうやら本当みたいだな……所詮はただの下っ端に過ぎなかったか……」
「けひぁー!!油断したな!!糸を簡単に緩めるとはよぉー!!俺様の必殺技を喰らいやがれ!!」
「俊足蹴!!」
「ぎゃー!!」
ゴブリンはシノブの蹴りを喰らってそのまま気絶した。
「どうやら、なんの情報も得られなかったようね……また振り出しに戻るって感じかしら?」
「そうだな……とりあえずコイツは後から札幌国際警察が身柄を確保しに来るはずだ、私たちはこの場から離れよう」
「ええ、そうね」
こうしてゴブリンとの戦闘を終えたマーガレットとシノブはその場から去り、ススキノクィーンの秘密を探るため次なる行動を模索するのであった。
◆
その頃、北海道某所、そこには件の人物、ススキノクィーンがいた。
「それで、ゴブリンは結局どうなったのかしら?」
「ゴブリンは侵入者を追いかけ、そのまま戦闘に突入、そして敗北して札幌国際警察に身柄を確保されたようです」
「はぁ……やっぱりあんな汚らわしい男に警備なんてやらせたのが間違いだったわね……まぁいいわ、どうせ奴は何も知らない、取り調べされたところで私のところまでは辿り着かないでしょう」
ススキノクィーンは側近の女性にそう呟く。側近の女性は彼女の呟きを聞くと不思議そうに言った。
「ススキノクィーン様、今回の件はつまり、あなた様を探っている者がいたということになりますが、その者の正体を探らなくて宜しいのですか?」
「私のことを探ろうとする奴がいるって言うのは今の始まったことではないわ、それにどんな奴が私を探ったところで無駄なのよ、だから精々クィーンズ・ナイトを盛り上がる糧になってもらいましょう」
「はぁ……まぁ貴方様がそう言うのなら……」
側近の女性はそう言うと、ススキノクィーンの前から去った。
「さてと……私も次の計画を進めるとしますか」
ススキノクィーンの目の前には一つの棺があった……。
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