ハッカーのお仕事

 猫田タマキ、彼女はクィーンズ・ナイトブロンズランク所属の格闘女王である。クィーンズ・ナイトにおいてはスピードを活かした軽快な動きで相手を翻弄し、着実に相手を削っていくスタイルを得意としているが、そんな彼女にはもう一つの顔が存在する。それはハッカーとしての顔である。今日はそんな彼女の1日の様子をお届けしよう。



「ぐああああ……朝だああああ……朝だあああ……」

 

 猫田タマキの朝は決まって遅い。彼女は基本的に夜遅くまで活動をしているため、どうしても睡眠時間が不規則になってしまうのだ。


「今日は大学も休みだし、闘技も今日はないからぁ……スマホ……スマホはどこッスかー」


 タマキは眠気まなこをこすりながら、スマホを探す。しかしなかなか見つからない。


「んもー、どこいったッスかー」


 タマキはベッドから起き上がる、するとスマホのバイブが鳴っていることに気づいた。


「あー、昨日パソコンの横にスマホ置いてたッスねー、危ない危ない」


 タマキがスマホを起動すると、そこには【パヴォ・リー】という名前が表示されていた。


「パヴォさんッスかー、またお仕事の依頼ッスかねー」


 パヴォ・リーはススキノを拠点に活動する情報屋である。彼は独自のネットワークを築いており、タマキもパヴォ・リーが持つ情報源の一つとして、たまに仕事を依頼を貰っているのだった。


「もしもし、パヴォさんッスかー?」

「そうだ、クィーンズ・ナイトでは中々活躍しているようじゃないか?」

「勝ったり負けたりって感じッスけどねー、それで?今日はどんな依頼ッスか?」

「ああ……ギガントテックという企業を知っているか?」


 ギガントテックは札幌市白石区にあるロボット生産企業である。主に警備用のロボットを作っているが裏では違法な戦闘用ロボットを作っていると噂されている。


「まぁ知ってますけど、あそこって確か少し前に実験中の事故か何かで本社が廃墟になったって聞いてるッスよ?」

「ああ……だが実際には本当に実験中の事故なのか疑問に思っている奴らがいる、そこでお前にはギガントテック崩壊の真相を暴いて欲しい」

「崩壊の真相ッスか……なんだか難しそうな依頼ッスね」

「そうだな……依頼料は成功報酬1000万……いや、2000万でどうだ?」

「2000万ッスか!?……なんかやたら気前いいッスね、裏を感じるッスよー?」

「それだけ今回の仕事が重要ということだ、引き受けてくれるか?」

「まぁここのところ金欠気味でしたしー、引き受けるッスよー」

「そうか、助かる。では何かしら進展があったらこの番号に連絡をいれてくれ」

「了解ッス、進展があったら連絡しますねー」


 タマキは電話を切った、この依頼には怪しさもあるが2000万という大金は魅力的である。タマキは早速パソコンの前に座り、早速調査を開始するのであった。


「まずはギガントテックの情報をネットの海から拾い集めるッスかー」


 タマキはネットでギガントテックについて調べ始めた、しかし結果としてはパヴォ・リーが電話で喋った情報と大差ない情報ばかりがヒットする。


「流石にただのネットサーフィンだけじゃ限界あるッスねー、でもここからが私の真骨頂ッスよー」


 そう言うとタマキはパソコンを操作し始めた。画面に出ているのは札幌国際警察のホームページである。


「札幌国際警察のセキュリティも私の手にかかれば綿あめのように軽いッスよー」


 タマキは不敵に笑うと、慣れた手つきでキーボードを高速タイピングする。そして5分もしないうちに札幌国際警察のデータベースへの侵入に成功した。


「さて、ギガントテックについて調べるッスかー」


 タマキはデータベースからギガントテックに関する情報を検索した、するとギガントテックの崩壊には札幌国際警察の協力者が関わっていることが書かれていた。


「うーん……協力者とやらの名前が黒塗りになっていて読めないッスねー……まぁただの事故ではないってことは分かったんでとりあえずパヴォさんに連絡ッスねー」


 タマキはスマホを起動し、再度パヴォ・リーに電話をかけた。


「タマキか、思ったよりも早かったな、進展があったのか?」

「まー色々と調べて見たんスけど、ギガントテックの崩壊は人為的なものってことが分かっただけッスねー」

「人為的なもの?どういうことだ?」

「ギガントテックの崩壊には札幌国際警察及びその協力者が関わっているみたいッス」

「札幌国際警察か……その協力者の名前は分かるか?」

「いや、それは分からなかったッスねー」

「……そうか……では追加依頼だ、ギガントテック廃墟に乗り込みローカルデータからギガントテックに関する情報を吸い出すだけ吸い出してこい」

「りょーかいッス、ところで追加報酬はー?」

「ただでさえ2000万も払うんだ、我慢しろ」

「ちぇー、けちー」


 タマキは不服そうにそう言うと、電話を切った。


「まぁ、これもお仕事ッスからねー、夜になったら侵入開始ッスかねー」


 そう言うとタマキはベッドに横になり、仮眠をとるのであった。



 札幌市白石区ギガントテック前、そこに猫耳がついた帽子を被った少女が1人いた。タマキである。


「うーん、どうやら今は誰もいないみたいッスねー……侵入するには都合がいいッスけどー」


そういいながらタマキはギガントテックエントランスの中に入っていく。


「うーん……中は荒れ果ててる感じッスねー、これはサーバー室を探し出すのは大変そうッスねー」


 タマキは警戒しながらもギガントテックのサーバー室を探す。しかしそこでタマキは殺気を感知した。


「っ!」


 タマキはとっさに身を屈める、すると足元を弾丸が駆け抜けた。


「ギガントテックヲ探ル愚カ者メ!!コノ【ライノガンナー】ガ排除スル!!」


 ギガントテックの通路の奥から、5メートルを優に超える巨体のロボットが飛び出してきた。


「ギガントテックの警備ロボットッスか……これは厄介なのに見つかったッスねー」

「サァ!今スグ散レ!!愚カ者メガ!!」

「そうは行かないッスよ!!」


 タマキは戦闘の構えを取り、ライノガンナーへと突進する。


「私ニ突進スルトハ愚カナリ!!ガンナーシュートヲ喰ラエ!!」

「っ!」


 タマキは間一髪ライノガンナーの銃撃を避ける。しかし……。


「マダマダ!!ガンナーシュートハマダ続クゾ!!」

「しつこい男は嫌われるッスよ!!あんたに性別の設定があるかは知らないッスけど!!」


 そう言いながらもタマキは攻撃を避ける、しかしこのままでは埒が明かない。タマキの得意なスピードも、ライノガンナーの巨体が壁となり活かせない。


「くっ……流石に部が悪いッスね……!」

「ハハハ!!スバシッコイ猫チャンダ!!ダガ!!」

「っ!」


 ライノガンナーの突進にタマキは遂に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「ウグゥ!」

「トドメダ!!ガンナーシュート!!」


 ライノガンナーがタマキにトドメを喰らわせようとしたその時である。突如としてライノガンナーの巨体が動かなくなた。

「ナ……何ガオコッタ!?私ノ体ガ動カナイ!?」

「はぁはぁ……危なかったッスけど間にあったすね」


 そういいながらタマキは自分のスマホをライノガンナーに見せる。そこにはライノガンナーをハッキングした画面が写っていた。


「何ダコレハ!?私ノ体ガ乗っ取ラレテ行ク!?」


 ライノガンナーはタマキに反撃しようとするが、身動き一つ取れない。


「そのままガラクタになって朽ち果てるッスよ」

「ガガーッ!!ピピーッ!!」


 ライノガンナーはそのまま完全に機能を停止し、そのままただのガラクタへと姿を変えた。


「ふぅ……とりあえずなんとかなったッスけど、こんなのが他にもいるかもしれないと考えたら気が気じゃないッスねー、これ以上なんもなければいいッスけどー」

 タマキはやれやれといった感じでそうつぶやいた。



「さて、やっと見つけたッスよ、サーバー室」


 結局のところライノガンナー以降タマキの前に警備ロボットが出てくることはなかった。


「後はサーバー室からデータをぶっこぬけばお仕事完了ッスねー」


 そんなことを言いながらタマキはサーバー室に入ろうとする。しかしその時、タマキの後ろから声がした。


「あなたがライノガンナーを倒した侵入者?」

「っ!?」


 タマキは突然声をかけられたことに驚きつつも、声の方を振り返る。


「誰ッスか!?」

「私の名前は【アルテミス】ギガントテックが作り上げた新世代型ロボットよ」


 アルテミスはまるで人間かと見紛うような姿をしていた。しかし身体に纏ったアーマーやどこか作り物のような雰囲気からロボットであることが見て取れた。


「新世代型ロボット……あんたはなんなんスか?」

「私は神のよう強くというコンセプトで作られた新世代型ロボットのプロトタイプ……でも私が作られた直後にここにアイツがやってきて……許せないわ!!この憂さ晴らしはさせて貰うわ!!」


 そういうとアルテミスはタマキに向かって突進してきた。


「うおっ!!なんすか!!」

「あなたライノガンナーを倒したんでしょう?だったら私の相手として不足はないはずよ!!」


 そう言いながらアルテミスは更に攻撃を加えようとする、タマキをスマホを操作しアルテミスをハッキングしようとするが……。


「無駄よ!!私の身体はそんなチャチな電波でハッキングされるほど甘くないわ!!」

「なるほど……正攻法で倒すしかないってことスか……」


 タマキは冷や汗をかきながらも戦闘態勢を取る。アルテミスはそんなタマキを見て不敵に笑う。


「なるほどね……曲がりなりにもあの旧型を倒しただけのことはありそうね、それじゃあ行くわよ!!」


 アルテミスはそう叫ぶとタマキに向かって突進をする。


「っ!速いッスね!!」


 しかし、タマキは間一髪のところでアルテミスの突進をかわす。


「あら、今のを避けるのね……それじゃあこれはどう!!」


 そう言うとアルテミスは両手をロケットパンチの要領で発射し、タマキを攻撃する。


「がっ!!ぐうっ!!」


 ロケットパンチの攻撃をモロに食らったタマキはそのままサーバー室の中に吹き飛ばされる。


「げほっ!!くっ!!不意打ちとはやるっすね……」

「あら、今のをモロに食らって立ち上がるのね……いいわ!私を楽しませなさい!!」


 そういうとアルテミスは更に攻撃を仕掛ける、タマキはそれを何とか避けながら反撃の機会を伺っていた。


(何か……使えそうなものは……)

「ほらほら!!逃げ回ってばっかりじゃ私には勝てないわよ!!」

「くっ!!うるさいッスね!!」


 タマキは反撃のチャンスを伺っている、しかし中々チャンスが訪れない。アルテミスの攻撃は激しさを増すばかりである、このままではこちらの体力が尽きてしまう。


「はぁはぁ……このままじゃマズいッスね……」

「ほら!!これで終わりよ!!」


 タマキが消耗している隙をアルテミスは見逃さなかった、そのままの勢いで突進をする。その時である、タマキは異常に電流を発生させているサーバーを一つ見つける。


(むっ!!あのサーバー故障してるッスね、これは使えるかも!!)


 タマキはアルテミスの突進をギリギリで避けた。


「ほほほーっ!!避けても無駄よ!!あなたに体力が残ってないことは分かってるのよ!!」

「いや、この勝負はもう終わりッス」

「なんですって!?そんなハッタリで私に勝てるとでも思ってるの!?」

「ええ、思っているッスよ、前を見てみるッスよ」

「前?一体何を言っているの?」


 タマキに言われた通りアルテミスは前を見る、するとそこには過剰電流を放出しているサーバーが一台あった。


「まさか!!あなたが狙っていたのは!!」

「そうッスよ!!そのサーバーをショートさせればあんたもタダでは済まないッスよね!!」

「や……やめなさい!!この私がこんなところで!!いや!!」

「もう遅いッスよ!!じゃあなッス!!」

「いやああああああああああああ!!!」


 タマキはサーバーをハッキングし、過剰電流サーバーをショートさせた。するとサーバーから大量の電気が放出され、近くにいたアルテミスはそれに感電してしまう。


「あがががっ!!あ……ああ……ああああああ!!」


 アルテミスは電流に触れ打ち上げられたマグロのようにビクビクと痙攣をしている。そしてしばらく立つと動かなくなった。


「ふぅ……何とかなったッスね」


 タマキはアルテミスが完全に動かなくなったことを確認すると再度サーバーにハッキングをする。


「さて、今度こそデータを吸い出すッスよ……ってあれ?」


 タマキはある異変に気づいた、どうやら彼女よりも前にこのサーバーにハッキングをした人物がいたらしい。


「これは……まぁデータを吸い出すだけ吸い出して帰るとしますかね」


 そう言い、タマキはハッキングを始めるのだった。



「なるほど、タマキよりも前にハッキングをした人物が……」

「そうッス、誰かまでは分かんなかったすけど」


 次の日、タマキはパヴォ・リーに連絡を入れていた。


「まぁ私の他にもギガントテックの情報を欲しがっているものは多い、おそらくその中の誰かだろう、それよりもサーバー室の情報、見させて貰ったぞ、なかなか有意義だった」

「そうッスか、ところで報酬はー?」

「それはきちんと支払わさせてもらう、ご苦労だった、ではまた」


 そう言うとパヴォ・リーは電話を切った。タマキ大きくのびをする。


「さーてと、2000万は何に使いましょうかねー」


 もう既に思考がお金の使い道でいっぱいになっているタマキであった。



 同時刻、某所にて。


「さて、ギガントテックから吸い出したこのデータ、中々いいものが取れましたね」


 薄暗い部屋の中で1人の少女がいた。


「特にこのアルテミスのデータ、これを上手いこと使えば新たなアーマーを作ることができるです」


 少女はそういうと不気味な笑みを浮かべる。


「今度は負けませんよ……ふふ……」

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