シルバーランクマッチ 服部シノブVS谷地頭アリサ

 クィーンズ・ナイト、それはススキノの地下の地下闘技場、ここでは格闘女王と呼ばれる女性格闘家たちが日々命を賭して戦っている。

 ところでクィーンズ・ナイトには階級制度が存在している。主にブロンズ、シルバー、ゴールドの三つのクラスに別れており、階級が上がれば上がるほど格闘女王の強さが上がっていき、観戦をするための条件も上がっていく。

 今日はそんなクィーンズ・ナイトのシルバーランクの闘技を見ていくことにしよう。



 谷地頭財閥、それは日本有数の財閥である日本六大財閥の一つでありその中でも特に頭ひとつ抜けた大きな力を持っていると言われている。

 そして今回フォーカスが当たるのはそんな谷地頭財閥のお嬢様【谷地頭アリサ】である。


「ユイ、紅茶を持ってきて、少し休憩をしましょう」

「畏まりました。お嬢様」


 ロングの黒髪に全身真っ黒のゴスロリ衣装に身を包んだ財閥お嬢様、谷地頭アリサはお付きのメイドである【須崎ユイ】に紅茶を入れさせる。ここは北海道函館市にある谷地頭財閥の屋敷の中にある道場だ。アリサは谷地頭財閥の令嬢として数々の英才教育を受けてきたが、その中でも特に彼女が興味を持ったのは格闘術、特に柔術は彼女の興味を大いに引くことになった。


「さてと、紅茶を飲みながらクィーンズ・ナイトの闘技でもみましょうかしら、ユイ、タブレットを持ってきてちょうだい」

「はい、お嬢様」


 アリサは紅茶の入ったカップをソーサーの上に置き、自分の斜め後ろに控えているメイドのユイからタブレットを受けとる。そこには【クィーンズ・ネットワーク】と書かれたサイトが表示されていた。


「ふふ、クィーンズ・ナイトのシルバーランクのトップファイターの1人であるこの私の目に止まる格闘女王はいるかしら?」


 そう、何を隠そうアリサはクィーンズ・ナイトの格闘女王であった。柔術の極意を英才教育で学んできたアリサにとって表の世界の大会は言ってしまえばつまらないものであったのだ。彼女の興味は地下格闘技にいくのも無理はない話であった。


「ふふん、この私と戦えそうな子はいるかしら? いないならいないでかまわないけれど、どうなのかしら?」

「はいお嬢様、この【服部シノブ】という格闘女王はどうでしょうか?最近頭角を現わしてきた格闘女王で、どうやら忍者らしいですが」

「忍者? それは中々面白そうね。ユイ、タブレットを操作して」

「畏まりました、お嬢様」


 ユイはアリサに言われた通りにタブレットを動かし、映像を見せる。そこにはショートカットのグレーの髪の露出度高めの忍者装束に身を包んだ少女が圧倒的な体術で対戦相手を圧倒している光景が表示されていた。


「は、服部シノブ……中々やるわね……ユイ!!今すぐヘリコプターを用意して!!ススキノまで行くわよ!!」

「畏まりました、お嬢様。今すぐ準備をいたします」

「ふふふ、これはなかなか楽しめそうじゃないの……待ってなさい服部シノブ!!この私が相手になってあげるわ!!」

「お嬢様、お紅茶がこぼれております」

「あら失礼……とにかく!!ユイ!! 早くヘリコプターの準備をしてちょうだい!!」


 こうしてアリサとユイはススキノまで行くことになった。



 3時間後、クィーンズ・ナイトでは服部シノブが闘技を行っていた。


「ぎゃあああああああああああ!!」

「おおおーっ!!たった10秒服部シノブが鎌瀬イヌミをKOしたぞーっ!!」

「ふん……他愛もない……」


 彼女は忍者の名に恥じない圧倒的な強さを魅せつけ、鎌瀬イヌミはKOされた。しかしその時である。突如として闘技場の扉が何者かによって蹴り開けられた。

「ほーっほっほっ!!10秒で闘技終了なんてつまらないわ!! この谷地頭アリサが次の対戦相手になってあげる!!」


 そう言いながら登場したのは谷地頭アリサである。


「なっ!!あれはシルバークラストップファイターの1人の谷地頭アリサじゃないか!?」

「いつゴールドに上がってもおかしくないという?」

「だが今日のスケジュールに彼女のことは何も書いてなかったはず……これはいったいどういうことだ?」


 観客は突然のアリサの乱入に驚きを隠せない。そんな観客たちの動揺となんのその、実況担当のDJドグマはマイクに叫ぶ。


「これはまさかの乱入だーっ!!谷地頭アリサが突如乱入してきた!!戦いの気配に釣られてやって来たのかーっ!?」

「ほーっほっほっ!!こんな塩試合じゃ観客の皆様も満足しないことでしょう……だからこの私が今すぐそこの忍者と戦ってあげると言っているのよ!!」

「なんだってー!!これは意外な展開だ!!シノブ!!あんたはこの挑戦状を受け取るのかい!!」

 

 DJドグマはシノブに向けそう質問する。


「ふん、面白い……その挑戦受けてたとう……」

「これは面白い展開だー!!急遽開催!!服部シノブVS谷地頭アリサのクィーンズ・ナイト シルバーランクマッチ!!実況は引き続きDJドグマでお送りするぜっ!!」


 これには最初ポカーンとしていた観客たちも大興奮である。


「これはとんでもないことになってきたぞー!!」

「いけーっ!!谷地頭アリサ!!服部シノブを倒せーっ!!」

「これは熱い試合になりそうだぜー!!」


 観客は思い思いにアリサとシノブに声援を送る。そんな中2人は向かい合わせになって立つ。


「ふふ、服部シノブ……私はこの闘技場のシルバーランクのトップファイターと呼ばれているわ、そんな私に勝てるかしら?」

「ふん、やってみなければ分かるまい」


 そして2人は構える。お互いに隙は見せず、真剣な表情だ。そしてDJドグマが叫ぶ。


「さぁ!!いよいよ始まるぞーっ!!ススキノクィーンズ・ナイトシルバーランクマッチ……開始っ!!」

「ふふ、服部シノブ……この私を楽しませなさい!!」


 2人は同時に動く、お互いの手と手を握り合い力比べの体勢だ。


「ほーっほっほっ!!この私と力比べとは……なかなかやるじゃない!!」

「忍者の握力をあまり見ないことだ……谷地頭アリサ!!」

「ふーん、なるほど……ねっ!!」


 アリサを手の力を少し緩め、シノブを自分の方向に引っ張る。

「なっ!?」

「甘いわね!!いつまでも力比べなんてやってやるわけがないでしょ!!」


そしてアリサは体勢を崩したシノブに回し蹴りを放つ、しかしそれをシノブは錐揉み回転をしながらギリギリで回避する。


「ふぅん、今のを躱すなんて……なかなかやるじゃない」

「あなたこそ、口だけじゃない強さを持っているようだ、ここからは本気で行く……!!」


 そう言いながらシノブは自分の手と手をあわせる。その瞬間、辺りが静まり帰る。

「おおーっとこれは!!シノブの忍法が発動するのかーっ!?」

「なるほど、映像で見てはいたけど、忍者というのは本当のようね……!!」

「忍法!!影分身の術!!」


 シノブがそう叫んだ瞬間、辺り一面が煙に包まれ、シノブが3人に分身する。


「ふふ、面白いじゃない……いいわ、全員相手してあげる!!」

「いつまでその余裕が保つかな……谷地頭アリサ!!」


 3人のシノブが同時にアリサに襲いかかる。


「ふふ、はあああっ!!」


 しかしそれをアリサは華麗に全て回避する。


「くっ、さすがだな……谷地頭アリサ」

「あなたが使っている影分身の術、どういう原理かは知らないけど言葉通り分身に実態はないみたいね……」

「ほう……今の一瞬で見破るとはな……」

「なら対処は簡単!!本体を倒せばいいだけよ!!」


 そう言いながらアリサはシノブのうちの1人の足を掴み、ぶん投げ地に叩きつける。

「ぐあっ……なっ!?なぜ本体が私だと!?」

「ほーっほっほっ!!この私に小細工なんて通用しないのよ!!あなたの分身にはあるはずの影がないじゃない!!」

「本当だーっ!!シノブの分身には影がない!!」


 DJドグマの実況が響く、観客はそれにつられ皆その映像に注目する。


「おいおいマジで影がないぜ」

「こりゃ服部シノブ敗れたりだな」


 観客たちがざわつく中、アリサはシノブの耳元に近づき、そっと囁く。


「ふふ、これからあなたには私の必殺技【谷地頭流地獄固め】をお見舞いしてあげるわ……覚悟はできているかしら?」

「くっ……この程度で私は……負けん!!」

「いつまでその態度が続くか楽しみね、いくわよ!!」


 アリサはシノブの片腕と片足を捕えると彼女の身体全体を巻き込むようにして、足を絡める。そしてそのまま大きくシノブの身体を回転させるように巻き込むと、そのままシノブの身体に圧力をかけ始める。


「うっ……ぐっ……あああああっ!!」

「ほーっほっほっ!!これが私の必殺技【谷地頭流地獄固め】よ!!存分に味わいなさい!!」

「ぐっ……ううっ……うわあああああ!!」

「これは勝負決まったかーっ!?」


 DJドグマが叫ぶ、観客もそれにつられ、アリサの勝ちを確信する。


「ふふ……この技に捕らえられて、脱出できたものはいないわ!! これで私の勝ちよ!!」

「うぐっ……谷地頭アリサ……」

「ふふ、服部シノブ、なかなかの腕前だったわ、でも私の方が強かったようね!!」

「がぁ!!……あぐぐっ!!うあああっ!!」

「もっと苦しみなさい!!ほーっほっほっ!!」


 アリサがさらにシノブの身体に圧力をかける。


「ううっ!!……ああっ!!」

「これでフィニッシュよ!!ほーっほっほっ!!」

「ぐっ……ぐああああーっ!!」


 シノブの悲痛な叫び声が響き渡った。


「おおーっと!!これは決まったかーっ!?」

「これで終わりね、楽しかったけど、これで終わりよ」


 そう言ってシノブにかけていた締め技を解くアリサ、その時である。


「油断したな!!谷地頭アリサ!!」

「なっ!?これは」


 なんということであろうか、先ほどまでアリサの締め技に苦しんでいたはずのシノブが急に立ち上がり、アリサに攻撃を仕掛けてきたのだ。


「これは一体どういうことだーっ!?服部シノブはもうまともに戦えない状態に思えたが、これはどういうことなんだーっ!?」


 これにはDJドグマも驚きを隠せない。観客たちもざわつき始める。


「くっ、これはいったいどういうことか、説明してもらおうかしら服部シノブ」

「ふん……簡単な話だ、あなたの谷地頭流地獄固めはあなたが持つ技の中でも最高級の技であるらしい、ならばそれに苦しんでいるふりをしておけば、必ず油断するだろうと思ったのさ」

「なるほど……あなたたち忍者は物陰から攻撃を仕掛けることが得意……こういう戦術はお手のものってところかしら?」

「褒め言葉として受け取っておこう……ては谷地頭アリサ!!私のとっておきの忍法であなたを倒そう!!忍法……【雷撃掌】」


 服部シノブが叫ぶと彼女の手に電撃が迸る。それを見たDJドグマは叫ぶ。


「おーっとっ!!これは服部シノブの【雷撃掌】だーっ!!彼女の手に電撃が迸る!!この手で掌打されたら一たまりもないだろうーっ!!これは勝負あったかー!?」

「くっ!!私をそんなちゃちなトリックで倒そうというの!?」

「これで終わりだ谷地頭アリサ!!くらえ!!」


 そう言ってシノブはアリサに向かって雷撃掌を繰り出す。


「あぎっ……あがあああああああああ!!」


 その掌打を受け、絶叫をあげながらアリサはその場に倒れる。


「う……あ……ああっ……」

「勝負あり!!勝者は服部シノブだー!!」


 DJドグマの実況が響く、観客たちはアリサの敗北に驚きを隠せない。


「谷地頭アリサが負けただと!?」

「あの谷地頭アリサが!?」

「これはとんでもないことになってきたぞーっ!!服部シノブ!!次注目の女王は彼女で決まりかー!?」


 観客は大盛り上がりである。そんな中アリサをビクンビクンと身体を痙攣させ続けていた……。



 次の日谷地頭財閥の屋敷にて、アリサが大暴れしていた。


「うがあああ!!認めませんわーっ!!あんなの無効よーっ!!」

「お嬢様、落ち着いてください!!」


 アリサの大暴れを必死に止めようとするメイドのユイ。しかし今のアリサを止めることはできない。


「何が痛がってるフリをしてたよ!!あんなの卑怯じゃない!!」

「お嬢様!!お気を確かに!!」


 アリサの大暴れは夜通し続いたという……。

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