第6話

部屋に着くなり、さいとうサンは小さめのため息をついた。


「ごめんね、さくらの相手させて、」


「全然。さくらちゃん元気いっぱいで面白い子だね」


ローソファーに座ってからそう言うと、さいとうサンは少しむっとした。


「…さかぐちクン、わたしのなまえ、しってる?」


「知ってるよ、さいとう あか…」


と、言いかけて、むっとした理由を察した。


思わずふふっと笑うと、さいとうサンは更にむっとした。


「あかり、こっちおいで」


自分が座っている隣をポンポンと叩くと、さいとうサンは、むすっとしながら素直にそこに座った。


可愛くて思わず抱きしめた。


「あかりー?あかりちゃん?あかりんー?」


「もー!」


髪が少し乱れたので、優しく手で直すと、さいとうサンはまた、ごめんね、と言った。


「心配してたんじゃない?」


どこまで踏み込んでいいのか分からなかったから、当たり障りなく聞いてみた。


「わかんない、そうなの、かな、」


「うーん。」


空気が重くなりかけたので、少しだけトーンをあげた。


「あーあ、知らなかったなー、さいとうサンに妹がいたなんて。自分のこと話さないにも程があるんじゃないですかー?」


そう言いながら脇腹をツンツンすると、さいとうサンは、あはは、と笑いながら、また、ごめんごめん、と謝った。


「さくらは、おかあさんが再婚してからの、妹」


「そうなんだ」


「家族仲は、いいほうだと、おもう。けど、やっぱり、おもっちゃうんだよね、」


さいとうサンは、少し俯いた。


「わたしがいないほうが、ちゃんと“家族”なんじゃないかって、」


さいとうサンと、さくらちゃんは、確かに見た目は似ていた。


だけど、どうしても、違いすぎる性格に違和感を持たざるを得なかった。


「やっぱり、おとうさんも、おかあさんも、1番愛してるのは、わたしじゃないと、おもうんだ。」


そんなことないよ、とは、簡単には言えない。


彼女の心情は、深いところまでは分からない。


だけど、今までの破滅的な行動の背景には、そういう感情が伴っていたのかもしれない。


「ん、そっか。話してくれてありがとう」


重い空気にさせないように、出来るだけ穏やかな表情でさいとうサンの頭を撫でた。


「でも…、」


「ん?」


「こんど、帰ってみよーかな、」


最近のさいとうサンは、よく笑うようになった。


思ってることを、なるべく口に出すようになった。


「そしたら、答えをだせる気がするの、」


「なんの?」


さいとうサンは、ふふっと笑った。


「さかぐちクンとのこと。」


彼女が変わろうと頑張ってる姿を、


心から愛しいと思った。

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