第1話

セミが鳴きはじめて、


大学生活3回目のなつやすみが、はじまった。


とくに予定もなく、


課題と、アイスと、クーラーの日々をすごしていた。


あつい日がつづいた、なつのよるのこと、


「〜〜♪〜〜♪」


「さかぐちクンから…」


電話なんて、めずらしい、


たしか、3日前から、実家に帰省するっていってたような、


「もしもし」


「あ、さいとうサン、今、家の前にいるんだけど」


「え?」


いきなり、どうしたのかな、


たしかに、いえまで送ってくれたことはあるから、


場所はしってるはずだけど、


「ちょ、ちょっとまって、」


いそいで電話をきって、


キャミソールの山をかたづけて、最低限のコロコロだけかけた。


とびらをあけると、たしかに、さかぐちクンがいた、


見慣れないスーツと、かすかな、線香のにおい。


「ごめん、急に」


なんだか、げんきが、ない気がした、


「ううん、よかったら、はいる?」


「ありがとう」


はじめて、うちにくるから、


なんだか、照れくさいけど、


「あ、麦茶、のむ?ジャケットも、よかったら、これつかって、」


ハンガーをさしだす手を、


さかぐちクンは、そのままひっぱって、


やさしく、わたしをだきしめた。


「…ごめん、ちょっとだけこうしてていい?」


さかぐちクンのこえは、きえそうなくらい、ちいさかった。


「…うん、」


そとは、あつかったはずなのに、


さかぐちクンの手は、すごくつめたかった、


セミのこえと、あせの匂い、


さかぐちクンは、まるで、息をしてないみたいにかんじた。


「さかぐちクン、」


さかぐちクンの、すこしのびたかみのけを、やさしくなでた。


「なにか、あった?」


クーラーのおとが、へやにひびく、


「…少し、疲れただけ。」


さかぐちクンは、そういって、身体をはなして、


さみしそうに、わらった。

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