第9話 美熟女を口説く。そしてメンヘラパパ活地雷系女子を拾う。(中)

 シルバーピンクの髪の美少女は俺のことを抱きしめながら、優し気に子守唄を歌っている。なんだろう。ちょっと癒される。だけどそれよりも重要なことがある。二度あることは三度ある。実際にあった。じゃあ四度目は?俺は布団を恐る恐るめくる。レッド!レッド!レッドなしみぃ!!ちがうこれはあれだ。マニュキュアの赤だよ!きっとそう。だけど俺を抱く女の子の爪は黒のジェルネイルで染まっている…。


「あたし。自分がおんなだってことがいやだった。だって女の体って自分のためじゃなくて他人が使えるようにできているところが多いわよね。おっぱいは赤ちゃんのためのものだし、お腹も女性器も赤ちゃんって他人を産むためのものだし、男たちは女の体を使って性欲を満たそうとしてて気持ち悪いし。でも他人を体の中に受け入れるとこんなに世界が甘く優しく感じられるのね」


 にゅあんすぅ!ニュアンスになんかうぶい何かが見え隠れしてるぅ!そんなはずない!今思い出したけど、こいつはパパ活やってる地雷系女子だ!それでうぶいわけないんだよ!


「お前がいつもしゃぶって咥え込んでるパパたちのしょぼしょぼ蛇口と違って俺のはバキバキ象さんだからね」


「え?あなたはあたしがパパたちのあれをしゃぶって咥えて諭吉さんを絞ってるとおもってたの?!あたし、大人はやってなかったんだけど!てかさっきまで処女だったんだけど!」


 パパ活してんのに大人してないとか甘えてんじゃねよ!パパたちが可哀そうだと思わねーのかよ!ヴァージンでパパ活とか条例で禁止しろよ!そのせいで勘違いしちゃったじゃん!うわぁやっちまったよぅ…。


「ねぇ。今度は上に乗ってみていい?あなたは楽にしてて。あたしが頑張るからね」


 そう言って地雷ちゃんは俺の上に跨って俺を責め始めた。どうしてこうなったんだ?俺はイトハを抱くはずじゃなかったのか?揺れるおっぱいを見ながら俺は何があったのかを思い出していく。












 相席居酒屋で俺たちのグループはけっこう話が盛り上がっていた。そして途中から俺とイトハさん、オシャボ君とイトハさんの連れのマリちゃんのペアでおしゃべりするようになっていた。


「それでね。娘は可愛いんだけど、でも父親がいないからなんかどうにも拗ねちゃってね。私は仕事のキャリアを大事にし過ぎてあんまりかまってあげられなくてね。最近は家出しちゃったわ。大学の近くに部屋を借りて私の家にはちっとも寄らなくなっちゃった」


「そうなんですか。でも傍にいただけましですよ。俺の母は俺の傍にいませんでしたよ。だからイトハさんはちゃんとお母さんやってる方です。全然いいっすよ」


「そう?不思議ね。自分の息子位の年の子に励まされるなんてね。あなた聞き上手ね」


「うん。イトハさんの話なら何でも聞きたいね。もちろん俺の話もいっぱい聞いて欲しい」


「うふふ。なんだろう。同僚のお局様がホストとかにハマっちゃう理由とかわかるかも。若い男の子と喋るだけで気持ちが若返るみたい。いやね。吸血鬼みたいになんか精気でも吸ってるのかしら?」


「それならもっと吸いますか?こうやって近づいたらどう?」


 俺は立ち上がってイトハさんの隣に座りなおす。彼女の両手を握って肩をくっつける。


「だめよ。初対面の女にこんなに近づいたら…いけないんだから」


 イトハさんは少し頬を赤く染めているが、口元は緩くやわらかな笑みを浮かべている。そして彼女の方からもっと体を寄せてきた。


「いけないことならますますしたくなっちゃうなぁ。イトハさんかわいいよ」


 俺はイトハさんとおでこを重ねる。彼女の瞳が濡れて輝いているのがわかった。俺は彼女の腰に手を回して、深く見つめ合う。なおオシャボ君とマリさんは俺たちを見て恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「これお会計。俺たちはもう行くから。お二人さんもここは高いから別の店に行った方がいいよ。じゃあね」


 俺は万札を数枚ほどテーブルに置いてイトハと寄り添いながら席を立ち店を出ていった。そしてサンシャインの通りを二人でイチャイチャしながら歩き、裏通りのラブホへ行こうと思ったその時だった。


「え?リルハ?!」


「うそ?!なんでママがここに?!」


 目の前にシルバーピンクの髪の地雷系女子とお腹の出たうすら禿げのおっさんが腕を組んで立っていた。どうやら地雷系女子ちゃん、イトハさんの娘らしい。よく見ると顔も似ているな。てかこの地雷系女子、キャンパスで見たことあるな。


「そこのあなた。どういうつもり!?いい大人が若い子に何しているのよ?!」


 イトハさんは俺から体を話して、地雷系女子の隣のおっさんにものすごい剣幕で食って掛かった。その顔はまるで般若のように恐ろしいものだった。だけど。それは同時にどこか俺には羨ましい光景にも思えた。


「いや。そのこれは…」


 おっさんはたじたじになっている。パパ活を咎められることは普通はない。誰だってこんな風に責められたら困惑するだろう。


「ちょっと!ママ!やめてよ!この人はあたしのパパで」


「ふざけた言葉を使うのはやめなさい!!何がパパよ!ただの下品な男でしょう!こんなのは!」


 イトハさんは地雷系女子に大声で怒鳴った。周りの視線が俺たちに集まる。


「そ、それじゃあ俺はこれで失礼します…」


 いたたまれなさに負けておっさんは逃げ出した。


「ああ?!まだお金貰ってないのに!!」


璃寵羽リルハ?!どういうこと?!あなたは何をしているの?!」


 地雷系女子にイトハさんはメッチャ怒っている。そりゃ娘さんがパパ活なんてやってたらまともな母親ならキレるだろう。


「ママには関係ない!あたしは一人で生きていくためにお金を稼いでいるだけ!」


「子供が何を馬鹿なことを言ってるの?!そんなのはお金を稼ぐ方法として間違ってるわ!いますぐに家に帰るわよ!」


「いや!絶対に帰らない!」


 そう言ってリルハは走り出す。


「こら!待ちなさい!きゃ!!」


 イトハさんも走って追いかけようとしたけど、ハイヒールだったためコケそうになって、俺が倒れそうになった体を支えた。


「レイジ君!追いかけて捕まえて!」


「わかりました!」


 正直こんな修羅場に巻き込むなよって思いながらも俺はイトハさんの指示を大人しく聞いて地雷系女子を追いかけた。彼女はあっさりと俺に捕まった。


「放して!!放して!じゃないと警察に痴漢って言ってやる!」


「やってみろよこの野郎。そしたらこっちはお前がパパ活やってるって税務署にタレこんでやる。税務署は怖いぞー。稼いだら稼いだ分だけもってくからなぁ。いくら取られちゃうかなぁ?どうせ申告もしてないんだろう?」


「くっ…あたしは間違ったことはしてないわ」


「あっそ。そんなん知らん。ほらついてこい」


 俺は地雷系女子をイトハさんのところまで連行してきた。イトハさんはすごく厳しい顔をしている。


「家出してやってることがこれ?心配してた。でもこんなの裏切りでしょう?なんでよりにもよってこんなことを…」


 イトハはぽろぽろと涙を流しだす。


「お金ならいくらでもあげてたでしょ。なんで?それでも足りない?それならなんで言わないの?」


「あなたから貰ったお金で生きてくなんてまっぴらよ!あたしは自分の稼いだお金で生きていくの!もう大人なの!もう子供じゃない!」


「そんな…それで馬鹿なことやって責任とれるの?取れるわけないでしょ。あなたはまだ子供なのに…」


「あたしは大人なの!もうあなたの子供じゃない!」


 この葛藤はなかなか根深いのかもしれない。でもとりあえずここで解決するような問題ではないのは確かだ。イトハはぽろぽろ泣いているし、地雷系女子はオラついてるし、俺は関係ないのに周りからまるで犯人のような目で見られてるし、いろんな意味で散々だ。


「イトハさん。とりあえず今日はもうやめておいた方が良いと思うよ。けっこうショッキングなものを見たと思うし、今のあなたは冷静じゃないもの。今すぐに帰った方が良い」


「でもこの子は放っておけないわ…」


「はぁ?!余計なお世話よ!」


「オラつくな鬱陶しい」


 俺は心情的にはイトハさんの味方だ。


「イトハさん。とりあえず解散しよう。この子ももう今日は客なんか取らないだろうしね。明日にでも席を設けよう」


「…そうね…ごめんねレイジ君。こんなことに巻き込んでしまったのに、冷静に対処してくれてありがとう」


「別にいいですよ。今日はあなたと過ごせて楽しかった。だからかまいませんよ」


 そこに嘘はない。ここ最近の女運はひどかった。イトハさんとの時間はマジで癒しのひと時だったのだ。


「はっ!なんだ。やっぱりあなたはいざってときはピーピー泣いてこんな顔だけの男に縋るような情けない女なのね」


 俺は思わず舌打ちをしたくなった。地雷系女子のオラつきは正直に言って目に余る。イトハも涙を流しながら、娘の地雷系女子を睨んでいる。


「リルハ!レイジ君は優しい子よ!あなたが男嫌いなのはいいけど、レイジ君への侮辱は許さないわ!」


「っち!そうやっていつもいつもあたしよりも男を贔屓してぇ!!」


「贔屓なんてしたことないわ。なんでわかってくれないの…」


「はいはい!ストップストップ!もう二人ともやめてまじで。というかそろそろ二人とも終電じゃない?」


 もうとりあえず終電で強制解散させてやりたい。そう思ったが。


「あたしの終電ならもう過ぎてるわ。パパと朝まで過ごすつもりだったし」


 がっつりコースだなぁ。あのおっさんとセックスとかするって考えると気持ち悪いな。


「朝まで?…レイジ君ごめんなさい。お願いがあるわ」


 地雷系女子のイキリに反応したイトハさんは涙をぬぐいながら俺に真剣な目でお願いをしてくる。すごく断りづらい空気だ。


「なんですか?」


「その子を朝まで面倒見てあげて。これお金」


 イトハさんは俺に五万円もの大金を渡してきた。


「リルハ。生きていくためにお金稼いでいるんでしょう?」


「そうよ!それがなに!?」


「だったら今日のパパはレイジ君よ」


「は?いやなんだけど!」


「へぇ客を選ぶの?何様なの?客を選り好みするってことは所詮はその程度の覚悟ってこと?なら私と一緒に帰りなさい」


「っち!屁理屈を!」


 だけど地雷系女子は図星を突かれたような顔をしている。イキッた以上は吐いた言葉は飲み込めない。俺は五万円を地雷系女子に渡した。


「これで俺がお前の今日のパパでいいな?」


「…っち。わかったわ。いいわよ」


 それを聞いてイトハさんはほっと安心したような顔をした。


「レイジ君ごめんね。ほんとうにありがとう。このお礼はまた今度ちゃんとさせてね」


「いいえ。別に」


「まだ連絡先交換してなかったわね。これ私の名刺。ここにあとで連絡頂戴ね」


 立派な名刺にはなんと弁護士 小鳥遊絃羽と書いてあった。所属事務所の名前も俺でも知ってる大手の弁護士事務所のものだった。立派なキャリア持ってるぁ。この母親の何が気に入らんのやら。そしてイトハさんは俺に一礼してタクシーを拾って帰っていった。そして俺と地雷系女子が池袋の街に残された。


「で?あんたどうするの?あたしをラブホにでも連れてくつもり?」


「金で女を買う趣味はないんだよ」


 金で女買ったらきっと同じバンドメンバーにモテないやつっていじられて俺は傷ついちゃうだろう。冗談じゃないよ。


「とりあえず朝まで粘れる店まで行くか」


「店代とかデートの諸経費はパパ側で持つのがあたしのルールよ」


「うぜぇ。勝手に言ってろ守銭奴。いいから黙ってついてこい」


 そして俺たちは通りを後にして店に向かった。






 とりあえず俺の隣で荒い息を吐いている地雷系女子の名前は思い出せた。それと出会い方も。ああ、イトハさん。なんで彼女は俺の隣にいないんだろう…。


「はぁはぁ…ズルいよ…あたしが気持ちよくさせるはずだったのに…」


 まあ経験値の差があるからね。ちょっと前までヴァージンだった女がイキっても俺に勝てるわけもなし。


「でもお前のそういう気持ちは嬉しいよ。うん。すごく嬉しい」


 俺はリルハの髪の毛を撫でる。派手な色だけど、不思議とこの子には良く似合っている。ピンク色が優しく見えるのだ。


「うふふ。やっぱり独りよがりはだめなのね。いっしょがいいのね。一緒にいるから気持ちよくなれる…」


「そうだよ。一人だと気持ちよくなれないだから。誰かと一緒にいなきゃダメなんだよ俺たちはね」


 俺たちは抱き合ってお互いを優しく撫で合う。誰かがそばにいるって実感が欲しくて。寂しいのは嫌いだから愛撫はやめられないのだ。そしてさらに俺は思い出す。ここまで俺たちが来てしまったわけを探すために。



---作者のひとり言---

イキリ地雷系女子。ウザ可愛い気がするぞ。


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ではまた次回よろしくお願いします。

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