第4話 オタクに優しいギャルのキミを、無垢さもピュアさもゼロのオレが、経験済みにするお話(後)

 ギャルはオタクに優しい。それは事実と逆だからこそ流行るミームである。実際のギャルは弱きを虐め、強きに媚びるどうしようもない生き物である。


「へぇ。マンガ書いてるんだ。面白いねぇ」


「うん。そうなの!最近はネットでも人気出てきてくれて呼んでくれる人が沢山出来てほんと嬉しい!あ、ビール入れるね」


 田村・わからせられギャル・妙子は俺の空のグラスにビールを丁寧に注いでくれた。言わずとも俺へ気を利かせられるようになったようで何よりである。でもマンガ書くギャルかぁ。なんか元カレとかセフレとか出てきて狭い世界でちっせーしょうもないリアル(笑)恋愛マンガとか書いてそう。これがリアルきりりりぃ!って作者のエゴでイキってみせて、オタクにぼろくそ叩かれてコケそう。偏見?もちろん偏見だよ。


「妙子をこんなに素直にさせられる男が他にいるなんておどろきましたわぁ。世界は広いんやね」


「え?これが素直?いやぁ。どうなんだろう…」


 ミカとオシャボ君は素直になった妙子に関心しているやら引いているやら複雑そうな顔で見ている。


「これわたしの描いたヒロインなんだぁ。可愛いでしょ!」


「うん。可愛いね。上手だね」


 スマホを見せてくる妙子は本当に楽しそうな笑みを浮かべている。マンガを描くのが好きなのは本気のようだ。そういう輝ける趣味があることはいいことだと思う。


「でねでね!このヒロインは主人公とマジラブでガチ恋で推して推されてのてぇてぇ関係でぇ」


「あ、すまん。ちょっとトイレ」


 なんかガチのオタ臭が妙子から感じられたので、俺は一旦中座する。俺自身もベーシストという名のベースオタクだし、そういう話になると鬱陶しくなるのがわかるのでできればスルーしたい。


「あ、うん。待ってるね」


 妙子は俺が席を離れることにしゅんとする。話を聞いてもらえなかったことへか、それとも。まあどっちでもいいけどね。トイレへ行く途中、かちゃんと小さな音が耳に入ってきた。そちらへ目を向けると胸元が深いカットになってるニットワンピースを着たとても可愛らしい茶髪の女子がグラスをテーブルの上で倒していた。グラスからこぼれた酒はその女子の隣に座る目つきのぎょろっとした陰キャ男子の太ももへと垂れていた。


「あ、ごめんねぇ。うっかりやっちゃった」


「いいよ。気にしなくてもこれくらい大したことないって」


 女子は可愛らしくてへぺろりんな謝罪をしている。あぞとい。とってもあぞとい。実際隣に座っている男子は照れ笑いをしている。


「だめだよそんなのぉ。シミになっちゃうよぉ。拭いてあげるね」


 あざとい女子はハンカチをポケットから取り出して、隣の男子の太ももをポンポンと優しくたたく。そのときに、身をかがめているもんだから隣の男子から見たらきっと胸の谷間、それどころかブラちらしていることだろう。


「あ、ああ!」


「ん?どうかしたの?」


「な、な、なんでもないよ!」


 とても可愛い女子に太ももを撫でられているという状況にきっと隣の男子くんは頬を赤く染めてなんかを堪えている。ああ、きっとあれが膨らむのを必死に耐えているんだろうなぁ…。若いなぁ…。まあどーでもええわ。そして俺はトイレへ行って、座敷に戻ってきた。するとさっきまで俺の座っていたところになんか繊細さが売りそうな陰キャ男子が座っていた。田村・俺がわからせたわきまえたギャル・妙子と楽し気に話している。妙子がスマホを片手になにかを見せながらすげぇガンギマリな目で語っているからきっとマンガトークだろう。繊細そうな男子はそれを実によく傾聴しているようだった。あそこに戻るのは嫌だな。オシャボ君はもうミカと気兼ねなく喋れてそうだし、俺はお役目ごめんだよね。そう思った時だった。


「はーい!一次会はこれで〆まーす!二次会はビリヤードやダーツなんかが楽しめるバーを貸し切りました!ぜひ参加してくださーい!」


 なかなかおシャンティな二次会が待っているようだ。だけどカラオケじゃないのか。しらふの時は歌いたくないけど、酒が入っているときはカラオケとかがしたくなる俺にはいまいちな二次会だ。だけど空気感的にはけっこうな人たちがそっちに流れていきそうだ。


「てかカラオケ…ニコのこと思い出しちゃった。凹むぅ…」


 ニコは美人だしスタイルもよかったし、控えめなのにどこか淫靡な雰囲気もあってデートやセックスだけなら本当に楽しかった。まあフラれたんですけどね。


「あーくっそ。はらたつわー」


 二次会へと向かって人の足が向かう中で俺は一人イラついていた。座敷の柱に背中を預けて一人天井を睨んでいた。何かでこのうっぷんを解消したい。ならどうするべきか?自ずと答えは出てきた。


「あの。二次会行かない?」


 誰もいなくなったお座敷で俺に声をかけてくる奴がいた。顔を上げるとそこにいたのは妙子だった。


「レイジのこと、友達に紹介したいんだけど。だから二次会行かない?」


 妙子は明るい笑顔でそう言った。ギャルは一度慣れ合うとすぐに勘違いする。うちらずっともだよ!うちらまじむてき!たぴおーか!きゃぴきゃぴうぇいうぇい。なかまなかま!人の輪は何処までも広がっていくと思ってる。自分が好きな人同士も仲良くなれるとすぐに勘違いする。


「俺はお前の友達よりも、お前のことをもっと深く知りたい」


「え?それって、どういうこと」


 俺は妙子の手を握り少し強い力で引っ張る。立っていた妙子はお座敷に膝立ちになり、俺の元へと引き寄せられた。妙子の綺麗な顔が俺のすぐ目の前にある。隙だらけだ。だからギャルはいい。


「あ、あの…!レイジ…え?…っあ…」


 俺は妙子の唇を奪う。舌は絡めない。ただただ唇を強く押しつけるキス。唇を話すと妙子が顔を真っ赤に染めていた。そして目を見開いて口元を両手で抑えている。


「もう意味わかっただろ?」


 妙子の手を取って、俺は立ち上がる。そして靴を履いて彼女を引っ張っていく。


「お前のこともっともっと俺に教えろよ」


 そして二人で店を出て俺は道玄坂の坂を上っていく。


「…それは…嬉しいけど…でもどこへ行くの?」


「お前をもっと知れるところ」


 そして俺らは道玄坂から裏道に入る。クラブやバーが立ち並ぶ通りを超える。途中ミカとオシャボ君たちがいるグループがバーに入って行くのが見えた。


「ねぇ二次会の場所すぎちゃったよ…」


「ああ。それはいいね。やっとお前と二人きりになれた」


 俺は通りのど真ん中で妙子を抱きしめて、深く深く口づけて激しく舌を絡める。


「ん!っん!レイジぃ!っあ…ちゅ…。っ…。う…ちゅ…はぁはぁ…」


 妙子はとろんとした濡れた瞳で俺を見詰めている。もう言葉はいらなかった。俺は彼女の肩を抱いて近くにあるラブホテルに入ったのであった。





 すべてを思い出した時、すでに時計の針は十二時を回っていた。妙子とはずっとたわいもないお喋りとセックスばかりしていた。さすがにもういい時間なので俺たちは外へ出た。裏通りにいる間、妙子は俺の手に絡みついていた。だけど表通りに出た時、彼女は俺から手を放して立ち止まった。


「どうしたの?」


 妙子は道玄坂の歩道のど真ん中に突っ立っていた。ぶっちゃけ周りの迷惑だからやめてほしい。


「…ごめんねぇ…本当にごめんねぇ…うう。あああ」


 妙子は周りの人の視線など気にせずに突如ボロボロと大粒の涙を流しだす。え?なに?メンヘラ?元気くらいがとりえのギャルがメンヘラしてるの?誰得?


「レイジに欲しいって思われてすごく嬉しかった…ぐす…でもぉ!でもぉ!裏切っちゃったようぅ…マツゴローの気持ち知ってたのに…うち、さいてーだよぅ」


 だれやねんマツゴローって?


「さいあくなうちのままでレイジと一緒にいられないよぅ…ううぇええん。…ぐすっ…サヨナラ…!」


 なんか勝手に自己完結して妙子は、駅の方へと走っていた。追いかけようとしたけど、人ごみにさえぎられ、さらにはスクランブル交差点に阻まれて彼女に追いつくことはできなかった。


「またフラれた?!はぁ?!ぎゃあああ!!」


 こうして俺は再びお持ち帰り→蛙化のコンボを喰らったのである。そして仕方なく俺は部屋に帰ったのだった。







 そして部屋に帰って、悔しみに燃えるソロベース弾きをしていた時だった。スマホが鳴って、またも知らない番号から電話がかかってきた。


「もしもし綾木です。どのようなご用件でしょうか?」


「だからなんで敬語なんだよ!俺だよ俺」


 俺俺詐欺かなっておもったけどこの声はオシャボ君だ。また飲み会?


「俺さぁ今度こそ酒断ちしたいんだよ。もう飲み会ぜってーいかねー。ナンパの手伝いなら他所を当たれ!」


「は?いやそんなんじゃなくてさ。忘れてんのか?今日はグループ実習の相談で集まる予定だったろう?お前遅刻だぞ。他のみんな全員来てるのに」


「うん?…あ?!やべ!忘れてた!」


「あーあーまったくもう。集合場所は覚えてるよな?六本木だぞ!」


「わかってる!すぐ行く!」


 俺は速攻着替えて六本木に向かった。そして喫茶店に先に集合していたグループ実習の班員たちと合流した。というか班員さえ忘れていた。そこにいたのはオシャボ君と昨日の飲み会にいたあざとい女子とその隣の男子くんだった。


「すまん。ここ奢るから許してくれ」


「え?おごってくれるんですかせんぱい!きゃは!じゃあわたしぃこのパンケーキにクリーム盛り盛り盛りにタピオカ盛り盛り盛りで!」


 あざとい女子は俺のことを先輩と呼んだ。はて?


「はぁ?なんで俺のこと先輩って呼ぶの?」


「え?だって先輩は先輩でしょ。あー。もしかしてわたしたちのこと覚えてないんですか?同じ高校だったじゃないですかぁ!まあ先輩とは少ししか話してないけど」


 それを聞いて俺は記憶を辿る。確かにうろ覚えだけど、目の前のこのかわいい顔がブレザー姿だったころをうっすらと思い出した。


「あ?同じ学校出身で先輩ってことはレイジって浪人だったの?」


「やめて。浪人って言われるの傷つくの。俺は君たちと心だけは同年代のままだよ!きゃぴ!」


「うわー先輩の若作りだせぇー。うふふ」


 あざとい女子ちゃんと隣の男子くんは俺の後輩だったらしい。はぁやってらんねぇなぁ!現役生とかみんな禿げればいいのに!


「あーあ。で?グループ実習だっけ?なにすんの?」


「アンケート調査の分析」


 おしゃぼくんがノートPCになんかグラフを表示させて俺に見せつけてくる。


「なにそれめんどい。すみませーん!モヒートくださーい!」


「お前何酒飲もうとしてんだよ!まじめにやれ!」


「ハイ。じゃあ借り返してくださーい。ミカちゃん上手くいったんでしょー?」


「うっ!それを言われるときつい…。まあミカちゃんとはデート決まりました。はい。俺はレイジに借りがあります」


「じゃあ俺の代わりにレポート頑張って!」


 そして俺は店員さんが持ってきたモヒートをぐびぐびやってすっきり爽やかな気持ちでグループ実習の作業に参加したのであった。そしてそこから先のことはよく思い出せない。気がついたときには。


「せんぱぁい♡ちゅー」


 しっとりとしたムーディーな内装。隣にははだかんぼうのあざとい後輩女子。またしてもラブホによく知らん女の子と来てしまったらしい。頭痛がいたたたたたぁ!!



---作者のひとり言---

次回「お隣の小悪魔後輩様をいつの間にかダメビッチにしていた件」


BSSで脳が破壊された人は★を入れてくださいお願いしますm(__)m

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