※ 第24話 新たな仲間(?)


リアは昨日から続くこの甘い悲鳴に自身の理性を抑えるのに精一杯だった。

嬌声もそうだが、何より愛するレオノーラが時折熱っぽい視線を向けてくる。

そして同衾した際には切なそうに太ももをモジモジと擦り合わせているのだ。

その行為が何を意味しているのかは分かっている。

自分もレオノーラと触れ合いたい気持ちでいっぱいなのだから、と。

しかしまだ予断を許さぬ状況で、その上警護の為にメイドも増員した。

流石に人に見られている状態で手を出す訳にもいかない。



(あぁ、もうっ!)



リアは心の中で叫ぶ。

何もかもをかなぐり捨ててレオノーラを愛したい。

そんな欲望が鎌首をもたげて来るのを必死に耐え忍んでいた。



「あっあっあっ、そこっ! そこはちが……っ!?」



「な、何が違うのかしら……?」


「え⁉︎ さ、さぁ……」



気不味さに耐えられなかったのか、レオノーラが顔を赤くしながら聞いてきたが、リアの方も答えるのは憚られる。



「言うっ! 全部言います! だから……むぐっ⁉︎ んー! んんーー!」



「え、な、何が起こったのかしら……⁉︎」


「恐らく猿轡を噛ませたのかと……」


「尋問してるのに口を塞いだの……?」


「私に聞かれても……」



自分の師であるミルラは最早この尋問を楽しんでいるのではないか?

そんな疑問が頭に過ぎるリアであった。





「報告致します。昨夜の襲撃者は黒の牙の構成員です。

ですが捕らえた者はあくまで部隊の1メンバーでしかなく、それが黒の牙単独の犯行なのか、背後関係があるのかは分かっていません。そうよね、ヘルタ?」


「その通りです♡ お姉様っ♡」


「そう……あの、彼女は大丈夫なの?」



あれからどれ程の時間が経ったか……地下倉庫から出てきたミルラから報告を受けたレオノーラは神妙な顔をしてはいるが……どうしてもミルラの腕にしがみつき、しなだれ掛かっている少女が気になってしまう。

服装こそメイド服に代わっているが、どう見ても先程まで尋問されていた少女だ。



「御心配無く、徹底的に折りましたので。もう私に逆らいませんよ。

良い事ヘルタ。あのお方はレオノーラ・フォン・ヴェールバルド様。

私の主人である、という事は必然的に貴女の主人でもあるの。

今後は私だけでなく、レオノーラ様の命令にも絶対服従するのよ?」


「はい、お姉様っ♡ このヘルタ・クリシュラーネ、お姉様とレオノーラ様の為に全身全霊を尽くしてお仕え致しますっ♡」



ヘルタと呼ばれた少女はミルラに抱き着きながら、その豊満な胸に埋もれて幸せそうにしている。

そんな様子は先程まで尋問されていたとは思えない程だ。



「え、えぇ……よろしくね?」


「俺も一歩間違えてたらこんな風になってたんだろうか……」



引き気味に応えたレオノーラと、もしかしたらの未来に身体を震わせるリアであった。



「報告の続きですが……計画としてはやはり姫様を亡き者にするのが目的だったようです。

同時に鉱山の爆破も計画に入っていたらしく、既に爆破魔法用の魔法陣は刻み終えているとの事です。

もっとも、起動役の魔法使いは昨夜死亡したので直ぐにどうこうとはならないかと」


「それでも看過は出来ないわね。ラピズ、怪我をしているところ申し訳ないけど、各鉱山の監督に使いを出してちょうだい。

魔法陣は削って線を途切れさせてしまえば無効化出来るから」


「承知致しました」


「それにしても国にとって最重要且つ唯一と言っても良い収入源である鉱山まで狙うなんて……

背後関係は不明とは言え、国の重役という線は薄くなったかしら?」


「常識的に考えれば……そうですね。貧乏国家の実権を握った所で旨みは少ないですから」


「だとすると、社会の混乱を求める黒の牙。もしくは敵対国であるガルアーク……」


「属国や同盟国という線もあります」


「それは……」


「有り得るのです。属国は勿論、同盟国ですら実態は属国に近い扱いなのですから。

重要なエネルギー源である魔鉱石を握っている事。

それによる経済力を背景にした武力を有している事。

それらの“力”を持ってヴェールバルドは周辺の国々を圧倒し平定したのです。

逆に言えば力の根源たる魔鉱石を失ってしまえば……」


「ヴェールバルドは間違いなく弱体化するわね……」


「……」



リアは難しい政治の話をする2人に圧倒されていた。

最近文字の読み書きを習い、絵本から学習を始めてはいるが……まだ歴史だとか政治の本には手を出せていない。

自分の役割は別にあると分かってはいるが、それでも戦闘から諜報、政治関連の相談等あらゆる面でレオノーラから頼りにされているミルラに羨望の眼差しを向けてしまう。



「リア」


「っ、は、はい……!?」


「驚かせちゃった?」


「い、いえ、気を抜いておりました! 申し訳ございませんっ……!!」


「ふふ、良いのよ? それでね、一度城に戻ろうと思うの」


「城、ですか?」


「そろそろ王城会議の時期だし、襲撃の事もあるしね。

それに新しく報告しないといけない事もあるし……」



気は進まないけれど……と、レオノーラは溜息一つ。



「それに関してリアにお願いがあるの」


「何なりとお申し付けください」


「ありがとう。まずは通常の業務。私の世話と護衛。

城の関係者の線が薄くなったとはいえ、疑いが0になった訳じゃないから今まで以上に警戒する必要があるわ」


「はい、お任せください」


「頼りにしているわ。もう一つはヘルタの事。

一応彼女も襲撃者ではあるけれど……ミルラが手元に起きたがっているの。

襲撃者の一味とは報告してないから大丈夫だとは思うけど……もしもの時は貴女を例に出して各々を説得する必要が出てくるかもしれないわ」


「私の名も身体も、どうぞお好きにお使いください!」


「ありがとう。それと最後に……これはお仕事とかじゃなくてね?」


「……? はい」



レオノーラは急に頬を赤く染めながら、背伸びしてリアの耳元に口を寄せる。



「時間を見つけて、愛して欲しいの」


「……! は、はい!喜んで……っ!」



リアもレオノーラも、尋問によるヘルタの嬌声で昂らされていた。

比較的平和でプライベートも保証されている王城で解放させたいと思うのはある種必然だった。



「お盛んですね」


「誰のせいだと……!」



そんな元凶であるミルラの言葉にレオノーラは赤くなりながら反論した。

弟子であるリアは自制はしたが……その瞳は分かりやすく抗議の色を湛えていた。

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