※ 第23話 絆


「レオノーラ様、お怪我は?」


「大丈夫よ、リア。おかげさまで傷一つ無いわ。それよりラピズの治療をしないと……」


「私が処置しておきます。姫様は彼等に説明を。まだ予断を許さぬ状況ですのでリアから離れませんよう」


「えぇ、お願いね? さて……」



レオノーラはふぅ……と一息吐いてから、心配そうにこちらを見つめている鉱夫達に向き直った。



「皆さん、助けて頂いて本当にありがとうございました!」


「良いって事よ!」


「姫さんには世話になってるからなぁ!」


「また何かあったら俺達を頼れよ!」



レオノーラが感謝の言葉を伝えると、鉱夫達は豪快に笑って応えた。

その想いには感謝しているし、嬉しく思っている。

しかし、彼等が暗殺者に立ち向かうという危険な行為をしたのもまた事実だ。

何故この事態に気付けたのか? という疑問もあるので、取り敢えずモーサに話を聞いてみる。



「モーサさん、何故私が危機に陥っていると分かったのかしら?」


「あぁ、バーラムと飲みの帰りだったんだが、黒ずくめの集団がコソコソと姫さん家に向かってくのが見えたからな。

俺ぁ、ちょいと前までは禄に明かりもない鉱山で働かされてたからな。結構夜目は効くんだ。

んで、バーラムと寝てる奴等を叩き起こしてここまで来たって訳だ」



モーサは黒霧の魔法もアイツに掛けてもらったんだぜ、と親指で後ろを指差した。

見るとバーラムやバルコを始めとした同行魔法使い達が控えていた。

どうやら鉱夫達が勢いで突入してきたものの、彼等も戦う腹積もりではあったらしい。

レオノーラは「こんな時間まで飲んでいたの?」とお小言を言いたくなったが……それで助けられたのもまた事実だ。

それに「姫さん、無事で良かったな!」と安堵する彼等の表情を見ては、何も言えなくなってしまった。



(本当に……私は恵まれているのね)



そんな事を思いつつ、レオノーラは鉱夫達に頭を下げた。



「皆さん、本当にありがとう。でも、もう夜も遅いし、家に戻ってゆっくり休んでくださいな。このお礼はまた後日に。ただ一つ言わせて貰うと……」



レオノーラはそこでゆっくりと見渡して



「もし何かあったら皆さんの仕事を監督しているメイドに報告してちょうだい。

彼女達も訓練は受けているので荒事には対応出来るから」


「おっと、そうだったか? 慌ててたからよ」 


「その心遣いは嬉しいの。でも皆さんは鉱夫なんだから無理をしなくても大丈夫。自分の身を大切にしてね?」


「おう、そうさせて貰うぜ。覚えてたらな!」


「もうっ!」



レオノーラがプリプリを怒る仕草に鉱夫達は再び豪快に笑う。

その後解散を促すと、皆最後までレオノーラを心配しながら各々の居場所に帰っていった。



「それで、この人達はどうするの?」


「衛兵を呼びます。拘束しておいて引き渡しましょう。既に使いの者は出しているので明日には到着するかと」


「それが良いわね」



まさか今になって命を狙われるなんて……とレオノーラは重い重い溜め息を吐いた。






「ではご報告の通り、襲撃者4名、死体2つですね。確かに引き取りました」


「態々ご苦労様です。道中どうかお気を付けて」


「はっ! では失礼致します!」



衛兵は敬礼して馬車に乗り込み、王城への帰路に付く。

移動牢車の周りは騎兵が見張っていて警護も万全の態勢だ。



「はぁ〜……」


「お疲れ様です、レオノーラ様」


「えぇ、ありがとうリア。拠点に戻って休めれば良いのだけれどね」


「それは……師匠と奴次第ですね」



レオノーラはリアを伴い拠点に戻る。

そのドアを潜った瞬間……



「ふあぁぁぁぁぁあぁぁんっ!? や、やらっ、もっ…やめ……あぁぁぁぁっ!?

あ、あふっ……いぃぃ! だ、ダメッ……おねがっ、たすけっ……ひゃあああぁあっ!?」


「まだ続いていますね……」


「うぅ……」



僅かに洩れ聞こえる嬌声にレオノーラは顔を赤らめる。

声の出所は地下倉庫。

シーツの替えや有事の際の食糧等をコツコツと集めて保管している。


そこに襲撃者の7人……その内のレオノーラが拘束魔法で捕らえた者。

素顔を見るとレオノーラとそう歳の変わらない少女であり……ミルラが地下倉庫にて尋問を行っていた。


本来なら全員を衛兵に引き渡すのが筋なのだろうが、レオノーラの敵はスラムの地下組織、黒の牙だけでは無い。

鉱山の前オーナーに、自業自得とはいえ失脚させられたユークレッド。

命を狙う、とまで行くとは思えないが予算を取り合う相手も居る。

もし襲撃者に城の者の息が掛かっているのなら、引き渡した所で有耶無耶にされる可能性もある。

なので1人を手元に置いて情報を引き出そう、という結論に達したのだが……


いったいミルラは何をしているのか。

いや、何をしているのかは想像が付く。

地下なのである程度は遮音性はある筈なのだが、それでも突き抜けるように嬌声が漏れ聞こえてくるのだ。


確かに暗殺者ならば下手な拷問よりは効果的なのかもしれない。

事実、あの少女は昨日から絶えず喘ぎ続けているのだから。

問題は……その声を聞かされ続けて、レオノーラが悶々としている事だった。

状況が状況だけにリアと愛し合う訳にも行かず、かと言って護衛も兼ねた同衾も続いているのでレオノーラはまともに寝られなかったのだ。

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