第25話 守る為に


「以上が襲撃事件の概要です。また各鉱山に爆破魔法用魔法陣の存在も確認されました。

今回は未然に防ぐ事が出来ましたが、万が一鉱山が閉鎖してしまったら我がヴェールバルドは確実に大打撃を受けていたでしょう」



王城会議にて。

レオノーラは先日の襲撃事件のあらましを王や議員達に向けて説明していた。



「うむ。我が国の魔鉱石は正に国の根幹である。それだけは何としても守らねばならぬ」


「仰る通りです、お父様。つきましては、この件に対し徹底的な調査をお願いしたく」


「目下全力で調査中だ。吉報を待つが良い」


「はい」


「他に報告は?」


「二つ程ございます。一つ、私に新たな従者が加わったので一応ご報告致します」


「? 従者の一人や二人増えた所で態々言う事でも無かろうに」



「それはそうなのですが……襲撃事件もありましたので、ご心配をお掛けしないように、と」


「ミルラの目も入っているのならこちらから言う事は無い」


「ありがとうございます」


「して、もう一つは?」


「魔鉱石による兵器開発、及びその研究です」



レオノーラのその発言に、議員達はおろか王であるダールトンでさえも息を呑んだ。

レオノーラは聡明ではあるが、率先して兵器開発を進言する程好戦的では無い事は周知の事実だからだ。



「説明を」 


「はっ! やはり焦点となるのは先日の襲撃事件です。

私一人ならいざ知らず、鉱山まで狙うとなると完全にヴェールバルドその物にダメージを与えんとする勢力がいる事は明白。

それは黒の牙か諸外国の何処かか……未だに全容は掴めていませんが、備えておくに越したことはありません」


「何が必要なのだ?」


「研究費用。及び、研究用に魔鉱石の配分を見直したく思います」


「失礼ながら!」



そう手を上げて抗議の意を示したのは騎士団長のジール。

レオノーラのスラム改革に予算と取られ、危機感を覚えていたジールにはこれ以上の予算増加は看過出来ない問題だった。



「果たしてその不確実な研究に資金を注ぎ込む価値はあるのでしょうか?

それよりは兵士にたらふく飯を食わせ、頑強な戦士に育てる方が優先ではないかと。

また、その研究もどれだけの年月を要するか不明。その間に攻められた場合どうなさるおつもりでしょうか?」


「だからこそです。先日の魔鉱銃を思い返してください。

まだ改善の余地はあるものの、ガルアークでは既に魔鉱兵器が作られているのですよ」


「あの程度、我等騎士団の敵ではありませぬ」


「その攻撃がプレートアーマーを貫通した事をお忘れですか!」


「魔法で強化すれば済む事です! 我々はそうやって矢降り注ぐ戦場を生き抜いてきたのですぞ!」


「その防護魔法すら貫く威力の兵器が開発されない保証が何処にありますか?

……いいえ、正確にはもう始まっているのです」


「なんですと?」


「他国では既に魔鉱銃よりも更に大きな……それこそ攻城兵器とも呼ぶべき大型の魔鉱兵器の開発に着手しているのです。

確かに優秀で勇敢な兵士ならば耐えられるかもしれません。

ですが建設されてから何百年も経とうとしているヴェールバルドの防壁や城壁は果たして耐えられるのでしょうか?」


「そのような物が開発されている証拠でも……」


「あるのです! 大き過ぎるのでこの場に持ってくる事は叶いませんでしたが、私は既に研究サンプルとして大型魔鉱兵器を入手しています。

お望みならば何時でもお見せしましょう」


「ぐぬぬ……っ」


「皆様どうかご一考を! 我が国に巣食う黒の牙は魔鉱銃を開発したガルアークと繋がっていました!

それは即ち、我らの懐に何時でも殺傷出来る武器を持つ不穏分子が存在すると同義!

ですがもし奴等が攻城兵器すらをも手に入れたら?

内側から城を破壊しますか? 内側から門を壊し、敵軍の侵攻を手助けしますか?

我々は自分を、家族を、国を守る為に一刻も早く対策を講じるべきなのです!」


「落ち着け、レオノーラ」


「っ、お父様……」


「お前の話は分かった。研究費用を組む事も吝かではない。

しかし、研究用の魔鉱石はどうやって用意するつもりだ?」


「王城や城下町で使われている物の一部を研究用に回します。

経済力を保つ為に輸出量を減らす事なく研究するにはそれが……」


「ならぬ」


「……はい?」


「王城、城下町。何れからも魔鉱石を奪う事は許さぬ」


「ですがお父様! 城下の街灯は過剰な程に設置されています!

王城にしても、外壁を明るく照らす必要など無いではありませんか!

別に生活に直結する設備を止めようとは言っていません。

ただ過剰に使われている物、飾り立てる為だけに使われている物を研究用に回したいと言っているのです」


「魔鉱石は我等の誇りである。無駄に、華美に、贅沢に使う事によって我等の力の証明となるのだ。

これは過去何百年も変わらぬ事実。他国の使者がヴェールバルドへ訪れる度にその力に畏怖し、自ら牙を折る……そうして悠久の平和を保ってきたのだ」


「その威光が通じなくなっているから他国は兵器の開発を進めているのです!」


「余の答えは変わらん。城や町の魔鉱石を使う事は許さぬ。

どうしてもと言うのであれば魔鉱石の採掘量を増やす事だ。

もしくはスラムに持っていった物を使えば良かろう」


「それは不可能です! 坑道の灯りに入浴施設……仕事や生活に必要な物なのです。

採掘量にしても今が最効率であると自負しています。

五つの鉱山全てが24時間稼働し続けての結果が今なのです!」


「ならば諦めよ」


「……私には魔鉱石に関する全ての権限がある筈ですが?」


「余はお前をその椅子から降ろす権限がある」


「……っ、承知、致しました」


「話は終わりだ。これにて会議は終わり。解散とする」



ダールトンの宣言により議員達は談笑しながら席を立つ。

レオノーラにはただ一人、目の前のテーブルを見つめる事しか出来なかった。

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