※ 第18話 愛してる
リアは熱いシャワーを浴びながら今日の会議を思い返す。
レオノーラはプレッシャーを跳ね除けて、見事魔鉱石に関する権限とスラム改革の予算を勝ち取った。
これでスラムは文化的な生活を得られる。
魔鉱石を用いた施設だって建てられるかもしれない。
本当に凄い事をしてくれた……とリアはレオノーラを誇りに思った。
だから、まぁ、アレだ。
約束というかご褒美というか……今日、この後。
レオノーラと、肌を重ねるのだ。
思えば自分の人生はなんと数奇な事か、と半生の記憶が蘇る。
スラムに生まれ、物心付く頃には捨てられ、泥水を啜り腐った残飯を喰らい、盗みとゴミ漁りで生き延びてきた。
常に生きるか死ぬかの瀬戸際、希望なんて抱いた事すらない人生。
そして、そんな人間はスラムにはごまんと居る。
リアが他の住民と違う所と言えば、運悪く黒の牙に目を付けられて利用された事。
そして、幸運にも唯一狙えた王族がレオノーラだった事。
レオノーラの慈悲によって生かされ、レオノーラが真偽を確かめると自らに意志でスラムを訪れた。
その後、王族襲撃及び誘拐の罪で処刑の危機に陥り……そんなリアを救う為にレオノーラはリアを妻にする、と。そう宣言した。
同情心もあっただろうが、レオノーラは好意あっての判断だと言ってくれたし、リア自身もレオノーラの事は大切に感じ初めていた。
お互いを妻とし、妻として接するようになってからは本当に、どうしようもなく愛おしく感じる様になった。
せめてレオノーラの隣に立つに相応しい存在になりたいとミルラに師事し、メイドと護衛の技能を学び、公の場では従者として接した。
これがイケなかった。
レオノーラの様子を見るに、完全に“受け”の体勢だった。
(従者である俺が抱く側なのか……!)
リアもまた、胸の高鳴りを抑え切れないでいた。
座学によって知識は見に付けたものの、お互いに忙しかったり覚悟が決まらなかったりでキスや同衾止まりだった。
入浴だって普段ならリアがレオノーラの背中を流していたが、今日に限っては別々に……という事でレオノーラは先に済ませている。
「……よし! やるぞ、俺っ!!」
お湯を止め、頬をパンと叩いて気合いを入れる。
リアの覚悟は決まった。
レオノーラの私室までは距離があるのでこの段階で薄着にはなれないが、それでも普段のメイド服と比べたら随分と軽装だ。
髪を乾かして、身体を拭いて、今更どうしようも無いのに鏡で自分を見返して……
「よし……行くか」
そして、リアは浴室を出た。
「お待たせ、レオノーラ」
「あ!? い、いえ、大丈夫よリア!」
扉を開いて声を描けると、ベッドの縁に腰掛けていたレオノーラが慌てふためきながら両手を振った。
リアが部屋に入り扉を閉めると、レオノーラは顔を赤くしながら俯いてしまう。
「この匂いは……」
「ミルラが焚いてくれたの。その、気分を盛り上げるお香ですって」
「そ、そうか……!」
妙に声が上擦ってしまう。
プライベートなので素の自分を出してはいるが、興奮しすぎてぶっきらぼうになっていないだろうか。
「じゃあ……する、か?」
「え、えぇ……っ!」
リアがレオノーラの隣に腰掛けると、レオノーラは身体を硬直させた。
「緊張……してる?」
「それは、まぁ……だってその、初めて……なんだもの」
「俺も」
「そうよね……」
お互いに初体験。
幾らお互いに身体を見慣れていても、今の雰囲気はお互いをより強く意識させる。
「レオノーラ」
リアが名前を呼んで、そっとレオノーラの肩を抱いた。
「あ……」
レオノーラは抵抗しない。
そのままリアは、ゆっくりとレオノーラをベッドに押し倒した。
「リア……っ」
「……怖いか?」
「そ、そうじゃないけど……その……」
「ん?」
「……キス、して……?」
「……あぁ」
リアが顔を近付けると、レオノーラもそれを受け入れるようにそっと瞳と閉じる。
キスだって何度もしてきた。
スキンシップとしての、軽い物ではあるが。
それでも、今までと全く違う。
ドキドキと心臓は高鳴り、手に汗を握ってしまう。
ゆっくりとレオノーラの唇へと自分の唇を重ねるリア。
柔らかな感触と熱を感じながら、リアはレオノーラを抱き寄せる様にして彼女の背中を撫でた。
「……んっ」
その吐息だけでリアはクラクラと目眩を起こしそうになる。
レオノーラのこんな声、聞いた事が無い。
「……脱がして?」
「あぁ……」
肩の紐を引く。
薄い絹で出来たソレは滑るようにレオノーラの肌から離れ、彼女の身体が露になる。
「綺麗だ……」
華奢で色白な身体が月光に照らされる。
心労のせいか少し痩せてきたのは気になるな、と肋骨の浮いた脇腹を摩った。
スラム住民の手前、甘味を我慢しているのも影響しているのだろうか。
「ね、リアも脱いで……?」
「ん……」
そう言われて、少し照れる気持ちもありつつ。
それでもリアは、自分の服をゆっくりと脱ぎ去った。
あぁ、同じ女なのにこうも違うのか。
鍛えられ、薄い筋肉を纏った自分の身体。
しかしレオノーラを羨んだり、嫉妬する気持ちは微塵も湧かない。
禄に食べられず、不健康に痩せ細った自分がここまで強靭な身体を得られたのはレオノーラのおかげだ。
そして、レオノーラを守る為に厳しい鍛錬に耐えて得た身体だ。
それに何より……
「綺麗だわ、リア……」
愛するレオノーラが、そう言ってくれるのだから。
「レオノーラ……」
「んん……っ」
リアはレオノーラの首筋にキスを落とす。
次は鎖骨。
胸
腹
へそ
下腹部と下がっていく。
そして……
「リア……っ、好き! 愛してる……!」
「俺も、愛してる」
この日、ヴェールバルド王国第一王女、レオノーラ・フォン・レオノーラとその妻、リアは……一線を越えて愛し合った。
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