#愛犬の死#

私が20歳の時の話だ。

私にはテンという可愛い犬がいた。

私の母も祖母も生きていた頃の父も、テンの事をそれはそれは可愛がっていた。


親戚の家に生まれたまだテンになる前の子犬の頃、子供の私は

「この子がいい」

私がそう言って、両親に強請った記憶がある。


テンは雑種の柴犬の血が強く残ったたくましい男の子だった。

おもちゃが大好きで、よく私のラッキーと名付けた犬の人形を噛んでは私と取り合いをしていた。


テンももう12歳。

シニアの仲間入りを果たした頃だった。


少し元気のないテンを軽い気持ちで動物病院へ連れて行くと、膀胱に腫瘍が見つかった。


その後は早かった。

血尿が出て、苦しそうなテン。

私と母と祖母は、沢山介護をして、テンの好きな物を沢山与えた。


そうしてある桜の舞う季節に、テンはゆっくりと穏やかに目を閉じた。


私も母も祖母も、それはそれは泣いた。


きっと、幸せだっただろう。そう思う他私達の心は救われない。




それからしばらくしたある日、私は昔の友人、カナちゃんと電話をしていた。


『久しぶりだねー!元気だった?』

『久々!カナちゃんこそ元気?』


お互い久々の電話ではしゃいでいた。

学校の事や、昔好きだった人の話などで盛り上がっていた時だった。


『テンも元気だねーー!!もう何歳?』

『え?あー…テンは亡くなったよ。膀胱に腫瘍ができてね。最後は穏やかだったよ』

『あ、そうなんだ…。テン可愛かったね……。じゃあ新しい子飼ったの?』

『飼ってないよ?』


『だってずっとギャンギャンウーウー怒ってるみたいに鳴いてる声聞こえるけど』



テンが帰ってきていたのか、と私は思い、電話中にも関わらず泣いてしまった。

そんな私をカナちゃんはごめんと言って申し訳無さそうにしていたので、また掛けると話し、電話を切った。



帰ってきた。帰ってきたのだ、テンが。


ベッドでうずくまる私の視界に、またかつらのようなものが見えた。

それは、耳まで出ていた。



気のせい、気のせい。

テンがいるから大丈夫。


私は自分にそう言い聞かせ、目を瞑った。

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