#動物病院#

それから10年以上が経った。

私は動物病院で働いていた。その動物病院は毎日沢山の犬や猫が診察に来ていた。

とても忙しい毎日を送っていて、プライベートも疎かになっていた時の事だ。


昼休みに院長の知り合いで霊感のある方が遊びにきていた。その方は私をみて、


「貴女は苦労する。苦労してきたのにね」


と急に言ってきた。私は苦笑いをしていると、院長に病院を案内するように言われた。


どうやら院長は幽霊の類を信じてはおらず、面白半分でその方に病院を見せてみることにしたらしい。



「ここが診察室です、ここで動物を軽く診察して、奥の部屋で詳しく診ます」

「へー。大丈夫そう」

「良かったです。ではこちらがオペ室、こちらが第二オペ室、最後にこちらがレントゲン室です」

「あとは?」

「はい?」

「もう一つ案内してない部屋がありますよね?そこから声が聞こえるの」



院長を見ると、院長は頷きました。

私はそれをみて、もう一つの隠れた地下室を案内しました。

その地下室はもう使われていないが、昔は隔離室として使っていたそう。今では危険物、例えば注射針などを集めて白いケースに入れていた。それに入れないと捨てられないのだそうだ。



「ここが、隔離室です」


その方は周りを見る事なく、ただ一つのケージをじっと眺めていた。


「悲しいのがあそこに固まっている。すごい悲しいのが。ごめんなさい、もう帰りますね」

「あ、はい、大丈夫ですか…?」


その方は泣いていたように見えた。

そのまま院長への挨拶もそこそこに帰宅された。




その後は特に院長は何も言わなかった。

ただ信じてはいないといった雰囲気を全面に醸し出しながら、午後の診療が始まった。






家に帰り、夕食の時にその事を母に告げると母は『悲しいのが固まってるって可哀想ねぇ』なんて言いながらコロッケを食べていた。


私の目の片隅には、あのかつらのような、旋毛のある髪の毛の塊がキッチンに向かうのが見えたが、気にしない事にした。



ちゃんと見てもいい事なんてない、と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る