第10話


ショックだった。

まさか先輩に誘われるなんて思ってなかった。


先輩後輩として今まで仲良くしてもらってると思ってた。


友達みたいに仲良くなれそう、友達みたいに仲良くなれたと思ってたのに。



信号が赤になりゆっくり停まる車。


先輩が煙草に火を点けるとジッポの油のいい香りが広がった。


私の手を握った先輩の指の動きが急にいやらしく感じる。



「いいじゃん、行こうよ」


「えーホテルってなんですか~?ホテル行って何するんですか~?」


ぐちゃぐちゃになった気持ちを誤魔化すようにバカみたいにふざけた事しか言えない。


「さあ?知らね」


「えーなんですかそれ」


「バカかよ」


先輩は笑いながら私の方を見た。


「イヤでーす」


「はあー?今更そんな女じゃないくせによく言うよ」


先輩はハハッと笑って煙を吐き出した。


「あ、ひどーい」


確かに私はもうそんな純情可憐な女ではない。



信号が青に変わり動き出した車。



「行くぞ」



やっぱり先輩もただの男なんだ。



「あ、先輩。コンビニ寄ってもらえますか?」


「うん」



ただヤリたいだけなんだ。



「ゴム付けて下さいね」


「あー、うん」



適当にヤレそうな女がいればこうやっていつもホテルに誘ってるんだ。



相手は誰だっていいんだ。



先輩にキスされて驚いて目を開けていた私が、もうそんな女ではないとわかったから、だから誘ってきたんだ。




途中で寄ったコンビニで、先輩は煙草とコーラとガムとゴムを買っていた。


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