初詣①

目を覚ますとすぐ横に


「うわ!」


ばあちゃんがどアップで寝てた。



「なんだい巧実…」zzz


ビックリした…ドキドキ

そうだった。一緒に寝たんだった。


俺の部屋はとっくの昔に撤去され拓郎の部屋になっていたし、ばあちゃんの部屋は、なぜかそれぞれの趣味を持ち寄った個展みたいになっていた。

アウトドアで撮った写真とか、捨てられない思い出の道具、拓郎の背番号とか由奈のゴーグルとか。

「巧実も何か飾ってよ~」と、もう訳わからない。

ばあちゃんは推しの写真を飾っていた。

だから俺とばあちゃんは仏間で寝たんだ。

先祖代々に見守られながら。


ばあちゃんが起き上がる。

「もう起きる?」

チーーン

仏壇に手を合わせる。

「初詣行かんと」

「まだ5時」

「スーたんちゃんと行かんの?」

「うん」

「あ、ご実家に帰られとるか」

違うけど。

「どこね?」

「九州」

「九州?!ま~っ!ご挨拶行かんとね!

 鈍行で行こうか!何泊ね!」

「旅行したいだけじゃん」


ばあちゃんに早早に起こされ、まだ冷たいキッチンでコーヒーをいれた。

「巧実、握りまんま食べるね?」

「おにぎりって言って」

「まぁーー大人のごと」

「大人です」

ばあちゃんは昨日の残りご飯を温めておにぎりを作った。


懐かしい味がした。


「巧実これどこね?」

「あ、イオン?」

大量の初売りのチラシを見るばあちゃん。

「ばあちゃんこたつの温度上げて、寒い」

「ついとらんもん」

「え!」

寒いと思った。


窓の外が明るくなった頃、お母さんが起きてきた。

「わ、おにぎり美味しそう~」

「コーヒー飲む?」

「飲む飲む」

特に嫁姑はない。

俺が気付いてないだけではなく、恐らくない。

「お母さん初詣どうします?」

「明治神宮」

「ウソでしょ」

「このイオンに行きたい」

「あぁいいね

 巧実車出してよ」

記憶している頃からずっとこんな感じだ。


コーヒーに湯を回し入れる。

「あ、巧実そこの棚見て」

「え?」

チラッ

「うわ!鉄瓶買ってる!」

「いいでしょ~」

「いい形だ」

「貧血によさそうだからね」

「ちゃんと病院行ってんの?」

「薬もらったり、飲まなくてもよかったり」

「由奈ちゃんにも飲ませてるのかい?」

「由奈はむしろ血が余り余ってるの

 この前も学校で男の子と喧嘩して」

アハハハハハ

ばあちゃんは笑う。

「誰に似たんだろうね」

「お母さんでしょ」

「うん、ばあちゃんだと思う」


「あ、巧実スマホ鳴ってる」

「ライン?」

「下田?だって」

「下田か」

ふつうにあけおめのラインだった。

何故か天城の寝顔付き。

二人で飲んでたのか。


8時。

もう起きたかな。


『明けましておめでとう』送信


『カウントダウン見れた?』送信


毎年ジャニーズで年を越すと言っていたスーたん。

朝霧と見たかな。

てかバイト終われたのか、それまでに。


「巧実、餅食べる?」

「食べる~てか雑煮は?」


『ギリ見れたよ!

 しかも年越し蕎麦食べながら!

 一人で年越しとか大人みたい!』

うさぎが羽子板してるスタンプがピョンピョンと跳ね、あけおめの文字が飛び出る。


「……」


「巧実作ってよ」

「じゃんけんで決めようか」

「お母さんじゃんけん強いし」



「え?」



「「え?」」



一人…?

だって朝霧…

え、本当に友達だった?

うそだろ。

「……」


まさかああ言えば俺が行くと思った…?


「…ったく」


遠慮しあってなにやってんだろ。


「ごめん、帰る」


「「え?」」






RRRRR RRRRR RRRRR

『はーいもしもし』

「スーたんお出かけしよ」

『え?』

「何か予定あった?」

『ない…』

「下の道にいるから用意しておいで」


『うん!』


降りて来るのは早かった。

本当に、着替えて荷物持って降りて来た感じだった。


ガチャ


「拓実さん!」


うん


ばあちゃん、やっぱ可愛いとしか思えないよ。



「おはよ、早かったね」

「お化粧してない」

手には化粧ポーチ。

「そんな急がなくてよかったのに

 ここ駐禁じゃないし」

「だって〜」

シートベルトをはめ、スーたんは笑う。

エヘヘと、得意の上目遣いで。


「嬉しかったんだもん!

 今日も一人かと思った〜」


言葉に詰まってしまった。


本当は昨日の夜、寂しかったんじゃないか。

一人で年を越して。


「あ、一人で頑張るんだった

 今の無しね!聞かなかったことにして!」



朝霧が来るのを待っていたか




「スーたんごめんね」


「え?何が?」




俺がスマホを鳴らすのを



待っていたかもしれない。




「初詣行く?」

「神社?」

「あーでも車だしな

 有名どころは無理かもしれない」

「じゃあ有名じゃないとこで」

「ドライブしながら考えよ」

「あ、拓実さんコンビニ行きたい

 お腹すいちゃった」

「朝ごはんは?」

「コーヒー飲んだだけ」


朝ご飯、作って食べさせてやりたい。

冷蔵庫にある野菜と豆腐でみそ汁にして、スーたんの好きな明太子の玉子焼きで。


だけど家に連れて帰るわけにいかない。


「拓実さんは朝ごはん食べた?」

「うん、ばあちゃんがおにぎり作ってくれて」

「おばあちゃん?」

「実家に行ってた、昨日あの後」

「そうなんだ〜よかったね」


コンビニで朝ご飯と、温かい飲み物を買い車を走らせた。


「でね、一番ピークで忙しい時に忠信くんがね

 トイレ行っちゃったの!」

「まぁ生理現象は我慢できないし」アハハ

「で、永山さんに

 休み時間にトイレ行きなさいって怒られてた」

「小学校じゃん」

アハハ

昨日の話を聞いたりしたり。

「で、ばあちゃんの推しのコンサートにね」

「あ、これ?この人たち?」

ググった画面を向ける。

「そうそう

 あ、スーたんピアノで弾いて欲しいらしいよ」

「え!本当に?聞いてみよ〜」


ばあちゃんの推しの歌を聞きながら日光に入った。

一曲を決めたスーたんは、それをリピートし口ずさみながら膝を弾く。

スーたんの頭の中には鍵盤があって、音が流れているんだと思う。

そして何度も聞くうちに俺も口ずさむ。


「すごい人多いね、ここどこ?」

「日光、東照宮って知らない?」

「日光?あ!修学旅行で来たとこだ!」


修学旅行


ふと蘇るのは、泣きながら本社ビルを見上げるセーラ服の女の子。



あの時、好きでたまらないんだろうなと思った。



諦めようと

諦めるしかないと。



「そうだったね

 今度パンケーキ行こうか」

「うん!」



だけど運命だったと



スキーで出会って、パンケーキを食べて、


乗りで入った居酒屋もカラオケオールも


『拓実さん』


暮らした日々も




運命だと思いたい。





「到着〜」

「ごめん、時間かかったね」

「拓実さんこそ運転疲れたよね」

「さ!神様にご挨拶しなきゃ」

「何お願いしような〜」

「え、お願い?

 初詣って神様に誓うんじゃないの?!

 頑張るから見守っててねって」


「え」


ん?あれ?違う?

一般的に違うのか?!


「そっか!そうだよね!

 5円で神様が叶えてくれたら

 私なんにも頑張らないかもしれない!」


「や、ごめん違う違う

 こういうのは信仰上自由だと思うから

 俺の戯言は忘れて!」

「ううん、納得いったし私もそうする!」


「そっか〜そうだよね〜」キラキラ

非常にキラキラと感動しながら車を降り、ピッとロックがかかるとスーたんは自然と俺の腕に手をかけた。

「今年は100円入れちゃおう」

いいのだろうか。

スーたんはきっとなんの意識もないんだと思う。

今までそうしていたからそうするだけ。

そんな意識すらないんだろう。

「奮発するね〜」

「あ!拓実さん見てプリンだって〜」

スーたんがいいなら、スーたんがそうしたいなら俺は構わない。

「食べちゃう?」

「食べちゃう食べちゃう〜」


だけどどうしても朝霧がよぎってしまう。


「ね、拓実さんなに味?」


「ノーマル」

「私いちご〜」


ん?待てよ。



あーーーそっか

俺はこんな色々とシリアスにもやもや悩んでるけど、スーたんにとってこの状況は…




友達や。




友達宣言なんかするから、俺はただの友達なんや。



スーたんにとってなんの意識もいらない友達やないかーーーい

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