可愛い人
こういうのもいいかもしれないと思った。
楽しいじゃないか。
こんなメンバーで出かけるなんて。
2人が手を繋いで歩くのを見るのは、まだ少しだけ痛むけど、きっとそのうち慣れる。
スーたんが幸せそうに笑っているなら、それでいい。
そこに俺もいれるんなら最高。
スーたんの幸せ要素になれるんだろ。
「うわ、こんなでっけえイオンあったんだ」
朝霧がイオンで感動するなんて。
「ね、すごいよね!
馬由が浜のショッピングモールなんてさ」
「あれはモールじゃねぇな」
「だよね!」
どこだよそれ。
車の鍵がピッと鳴る。
建物に向かいながら俺は仕方なく静香ちゃんの横に…
朝霧がいる。
スーたんと歩けよ。
遠慮はしない約束。
「スズ〜車来るからな」
「わかってる〜」
「そうだったわね、飛び出した前科があった」クスクス
「あれは本当にビビった」
「拓実さん!あのTシャツ買ったお店どこだっけ」
「スズちゃん先にトイレ行こ〜」
「うん!」
静香がスーたんを追いかけた。
「朝霧、なんか遠慮してない?」
「全然してない」
「ならいいけどさ」
「お前こそ遠慮してない?」
「してない」
「静香が気を使ってる気がするけど」
「それは確かに」アハハ
「こういうのもいいのかもな」
「だな」
静香が見たいと言っていたプチプラなショップをひたすら回った。
「プチプラっていくらまでがプチプラなんだ?」
「定義がわかんね」
「神田見て」
平積みされていたニットを広げる朝霧。
「これ2990円」
「お買い得ですわね」
「これ、19900円」
広げたニットを下ろし、着ていたニットを見せる。
「プチプラでいいです」
「どうせ週6はスーツ着てんだからな俺たち」
「下手したら週12くらいの時もあるし」
ニットを畳んで戻し、二人が熱心に見ているレディースの方へ。
なんかひらひらしたシャツとか、すけすけレースのワンピみたいなのを合わせて、見立てているのはスーたん。
「え、可愛い」
「静香さん似合う!
髪アップにしてもいいかも!
抜け感出ていいよ!」
「抜け感ってなんだ」
「何が抜けるんだ」
「変な想像するな」
「お前がな」
「あ、ねぇ見て二人とも!可愛いでしょ!」
普段スーたんがしているような格好。
パーカーにひらひらした物を合わせたり、ひらひらにスニーカー合わせたり。
静香はしないような格好。
「意外と似合うな」
朝霧が珍しく素直。
「うん、可愛いかも
静香ちゃんにしては」
普段はスーツだし、私服でもカジュアルではないから新鮮。
「いいじゃんカジュアル」
ご満悦な静香お嬢さん。
「楽ちんすぎるーーー」
「楽を取ったのか」
そしてスーたんが手に持っていたのは黒のボアジャケット。
「スズそれ買う?」
「大丈夫自分で買うから!」
「や、いいから」
「今月けっこう稼いだの!」
「俺スポンサーだろ、貸して」
「いいの!大丈夫だって!しつこいね!」
口を挟んでいいだろうか。
うーーーん…
あ、これが遠慮してんだよな。
遠慮しないとか宣言しておきながら。
「お取り込み中スミマセン」
買う買わないの意地の張り合い中な二人が止まる。
「スーたん、パタゴニアのジャケットある」
「え?何が?」
「クリスマスプレゼントに買ってたんだ
スーたん用に白のやつ」
「なんだよかったじゃんスズ」
「でも…」
「もらってくれないと
sサイズなんて俺どうするの」
クイクイ
なんか上着を引っ張られる
「あたちもSサイズ」
「よし、じゃあそれ置いてこい」
「昼ご飯食おう、腹減った」
「俺マックがいい」
「ここ丸亀入ってたっけ」
とまぁこんな感じで、楽しいショッピングをした。
スーたんは相変わらず自分でお金出したけど。
「じゃあねスズちゃん
東京来たらラインするから」
「うん!絶対ね!」
今からバイトのスーたんを渋谷で降ろした。
「可愛いわね〜」
かけて行くスーたんを見る眼差しは
「親戚のおばさんみたい」
「いとこのお姉さんよ!」
「気持ちは母親だろ」
「なーんかさ、昔に戻った感じがする」
「「え?」」
「なんとなく…
昔の無邪気で天然丸出しのスズちゃんと
重なった感じがしたの、今日」
静香の言わんとすることはわかる。
美来と切れた時、俺もそう思ったことがあった。
「朝霧食いに行かないの?夕飯」
「東京の友達と会う
集まってカウントダウンだって」
「友達いたんだあんた」
「いるし、100人いるし」
「静香ちゃん家でいい?」
「や、ここでいいわ
神田んち正反対じゃない」
「そ?」
「俺も~」
遠慮してんだろうな。
ウソだろ、友達と会うとか。
今日は邪魔しません。
一度家に戻り一泊する荷物を持ってまた車を走らせた。
「ただーーい」
「たくにぃ!!」
リビングからいの一番由奈が出てきて、その後ろからお母様。
「お帰り」
「いい匂いすんね」
「泊まれるの?飲む?」
「いただきます」
「由奈がついであげるね」
「離れろし」
そしてリビングに入ると
「巧実!」
「ばあちゃん!」
あぐれっしぶばぁちゃんが抱擁。
子供の頃から対応が変っていない。
学校から帰って抱擁だった。
「元気そうじゃん
韓国の空気が合ってんの?」
「生きがいの推しがいるからだろ」
父ちゃんがボソッと言う。
「はい、巧実に土産」
ドンッ
「多くね?」
紙袋の中にはハングルなパッケージが沢山。
「そしてえらい可愛いな、カラフルで」
「そんなのお前…」
「「スーたんちゃんによ」」
あ、言ってなかった。
「てかスーたんちゃんは?」
「てっきり一緒に来ると思ってたけど」
「や…バイト…」
理由バイトじゃないっつうの。
「実は」
「たくにぃビールでいいのか?これ?」
「由奈がつぐ!」
「あ、拓郎刺身も出して」
「由美さん肉はもうないの?」
「ありますあります、待って」
「お母さん甘エビまだあったろ」
「えびっカニっえびっカニっ!」
「由奈うるさい」
なんか言いそびれた。
いつも通り賑やかで。
「巧実、そのスーたんちゃんはピアニストなんだろ?」
「あ…うん、まだ学生だけど」
「ビートゥービー弾いてくれんかな」
「言っとく」
久々にばあちゃんが来て、こんな年末の楽しいときに言わなくていいか。
折を見て別れたと話そう。
今日は楽しい雰囲気を大事にしたい。
「ばあちゃんそれ韓国?」
「そ!推し友ちゃんに見立ててもらって」
スーたんが着ててもおかしくない、パステルピンクのスウェットにだぼっとしたデニム。
ハングルの文字が確かに可愛い。
「ばあちゃんが楽しそうでなにより」
ニコッと笑ったばぁちゃんは俺とグラスを合わせる。相変わらずの酒豪。
「巧実も楽しいか?」
「うん」
「人生はね、つらいことなんてない。
何でも楽しいんだ、楽しめばな」
じいちゃんが早くに死んで、少なからず苦労したはずのばあちゃんは、超ポジティブ人間。
「くよくよして過ごすのは勿体ないけん!」
「はーい」
「お母さん飲み過ぎじゃないですか?」
「いいのいいの楽しいだろ!」
年末を家族と過ごしたのは久しぶりだった。
またこういうことはあるだろうか。
笑い声の絶えない家で俺は育ったと思う。
深く考えない両親。
三歩歩けば忘れてる弟妹。
そしてこのばあちゃん。
「スーたんちゃんはどんな子だい?」
「小動物タイプだったな!」
「それはお母さんに怯えてたからだろ」
「由奈ちゃんが意地悪するからよ」
「してないもん!」
「ちょっと天然っぽかったよね」
「拓郎に言われたくないでしょうね」
ばあちゃんが俺を見る。
答えを。
「可愛い子だよ」
そうとしか言い表せなかった。
「そうか」
だけどばあちゃんは満足そうに頷く。
「どんな子かなんて説明出来ないもんだよ。
可愛いと思える子なら大丈夫だ」
顔が可愛い、喋り方や仕草が可愛い、ファッションが可愛いとか、そういうことじゃないんだ。
可愛いんだ。
可愛くて仕方ない。
ばあちゃんの言うこと、わかるよ。
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