ドライブ

次の日、大晦日


玄関の前で悩みつつ、勇気を出して俺はインターホンを押した。


ガチャ


「スズ~起きてた?」


玄関に隙間が開く。

それを入って良しとする合図と思い、俺はドアノブを引く。


「おはよぉこぉきぃ」


「げ!」


静香だった。


「静香さん光輝だった?」

「うん、朝っぱらからストーカー」

ストーカー呼ばわり。

家の奥から顔を出したスズは


ちょんまげーーー!


可愛い


「上がっていいよ光輝、寒いから閉めて」

「あ、うん」

てかなんで静香がいるんだ。


「光輝もご飯食べる?」

「うん」

「あんたは玉ねぎでも剥いてな」

ゴロン

玉ねぎが転がってきた。

「お前何してんの」

「昨日送った後ここで飲み直して泊まってた」

いいな。

「一緒に寝たんだよね~静香さん」

「ちょー楽しかった」

「ご飯食べたら六本木行くの」

「ぎろっぽん」

「マジ?ちょうどよかった

 ネクタイ引っかけて買わなきゃだったんだ」

「何を当然行く気かね君は」

「行くだろ」

「あ!丁度良かったわ!

 あたちもヒールが欲しかったのこぉきぃ」

「へ~買えば?」

「スズちゃんスポンサーゲットよ!」

アハハハハ


キッチンに立ち、しゃかしゃかと何かを混ぜるスズ。

くま柄のふわふわしたパジャマのまま。

可愛い。

「何をにやけとるんじゃ

 早よたまねぎ剥かんかい」

そうしていい匂いがしてきた頃


「はいはいもしもーし」

静香が電話を取る。

「あぁでも今パソコンないわ

 うん…うん…いやそれは二月よ

 え?あぁそうね」

仕事か。


「あ、来る?

 ご飯食べてからぎろっぽん行くわよ、買物」



「スズちゃんスポンサー増えたわよ!

 欲しいもの買ってもらいな」

「誰?」


「神田」


「あぁ、二月のって朝倉のやつか」

「うん」

「え、神田さんも来るの?」

「嫌?」

「ウインナー6本なんだけど」

「あぁご飯はいいわよ、食べて来るでしょ」


そしてできあったご飯。


「うま」

「あんたそれ何本目?」

「え、3本」

「なんで6本しかないのに3本目取ってんのよ!

 あんたが来なけりゃ3本ずつ食べれたのよ」

「はいはいすみませんね」

ウインナーと玉子焼きと玉ねぎの味噌汁。


ご飯が済むと二人は化粧を始め、俺は

「朝霧、水飛ばさないようにしなよ」

「この狭さでどうやって飛ばさないんだよ」

ご飯の後片付けを。


「スズちゃんこれいいわね、色綺麗」

「でしょ?プチプラだけど」

「デパコスやめようかしら

 なんか勿体ない気がしてきた」

「おばさんは肌が耐えられないだろ

 金出せよ、貯め込んでるくせに」

「うっさいわね

 使うヒマがないのよ!」

「俺もなんか投資しようかな」

「神田やばいわね

 資産築いてるわよあいつ」

「面倒くさくて銀行に放置してる俺」

「私も天城くんに相談しようかしら」

「そうか!天城に聞けばいいのか!」


で、化粧が終わると二人してロフトへ上がり


「さすがに短いわこのスカートは」

「え、そうかな~似合うのに」

そんな声が聞こえてくる。

スズの服を借りるらしい。

「おばさん、年相応にしろよ

 一緒に歩くのに恥ずかしいだろ」

「うっさい、おっさんに言われたくない」

「あ、静香さんこれは?

 ウエストゴムだし縛れば大きくないよ」

痩せ細ってるからな、福岡に赴任してから。

「わ、可愛いねこれ」

「GU」

「ちなみにおいくら?お高いんでしょう?」

「1580円」

どうやら静香が言葉を失っているようだ。


「朝霧~神田に電話して」

「は?なんて」

「行き先変更、車で来いって」

「え、六本木ヒルズは?」


「イオンモールに行くわよ!」



程なくして、神田は車でやって来た。

階段を下り、下の通りから乗り込む。


「巧実さんおはよ」

「スーたんおはよう」


二人の空気。

毎朝こうだったんだろうなと想像できる。


「スズちゃん一緒に後ろ乗ろう」

「うん!」


「静香ちゃん見たことある服着てんね」

「似合うでしょ?」

「てかなんで急にイオン?

 こんな大晦日に激混みだと思うけど」

「プチプラ見に行きたいの」

「巧実さん、前に行ったとこがいいんだけど」

「うん、そこの予定だった」

車が発進する。

「光輝のネクタイもあるよね?」

「うん、100円からの取りそろえだと思う」

「朝霧ダイソーでいいでしょ?」

「別にいい気がする」


「光輝、そこに充電器あるの、取って」

「え、ここ?」

「うん」

コードを渡すと、スズは後部座席にあるUSBポートにそれを挿す。

「何にしようかな~

 静香さん何ききたい?」

「あゆ」

「静香、年ばれるぞ」

「あゆ?あゆで出てくる?」

スズがスマホに探しているようだ。

そして流れ出す音楽。


スズが乗ると、スズのスマホに接続されるらしいBluetooth。


そりゃそうだよな。

一緒に暮らしていたんだから、スズは何度も乗っていたはずだ。


車は郊外に向かう。

スズは楽しそうに

「え!知らな〜い!」

「似てるでしょ!」

静香のあゆの歌真似に爆笑する。

「似てないけど妙に捉えてるな」クスクス

「声質は同じ系統だな」


「光輝は?何か聞きたい?」

スズが前に乗り出してくる。

「あ、じゃあGLAYとか聞きたい」

「拓実さんのオハコじゃん」

「オハコではない

 オハコは布施明だから君は薔薇より美しい」

「なにそれ知らなーい」

「親父がよく歌ってたやつな」アハハ

スズが布施明を探す。

「あった!」

Spotifyすげぇな、布施明もあんのか。

「これあれよね瀬戸次長の」

「そうそう」

流れだした布施明を神田が歌う。


「スズちゃんは?聞きたいの流しなよ」

「じゃあミセスにしよ!」


「「「……」」」


「最近の子や」

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