思い出
「だから手は繋がないの!」
「いいじゃん
両思いの友達同士だろ?」
「じゃあアカノタニンになる!」
光輝ってこんなんだったっけ。
こんなにしつこかったっけ。
「何ラーメンにする?
どっか美味い店ないのか?」
「知らない」
「んじゃググるか」
巧実さんはラーメン食べに行ったりしなかった。
基本的にお家ご飯。
行きたいと言えば連れて行ってくれたと思う。
だけど、お家で一緒にご飯の準備して食べるのがよかった。
美味しかったな、ご飯。
「スズ?」
「あ…ううんごめん」
それから光輝は無理に手を繋いだりしなかった。
「うっま~~!」
「うん美味い」
つけ麺屋さんだった。
「スズ煮卵食べた?めちゃうま」
「うそ、食べよう」
「半分あげたら手繋いでいい?」
「嫌」
カウンターに隣同士。
時々光輝が私を見てるのがわかる。
チラッと見ると目が合う。
「つけ麺だから伸びないな」クスクス
記憶の中に蘇る動物公園の広場。
「そうだね」アハハ
あの日私は、光輝のお嫁さんになる宣言をした。
思い出すと笑える。
光輝も思い出したのか笑う。
「スズ、バドミントン下手すぎて引いた」
「そっち?!」
「え、なにが?」
「なんでもない」
お皿は空になる。
伝票を持って立ち上がる光輝。
私は慌ててお財布を出した。
「スズ、デートは男が払うもんだろ」
「デートじゃない。
お友達に奢ってもらわないもん」
「さすが頑固ちゃん」ボソッ
「え、何?」
「何でもない」
映画にちょうどいい時間だった。
映画館はすぐそこ。
天城ちゃんとだったらラーメンじゃなかったな。
美味しいパスタ屋さん見つけたって言ってたからそこだったかも。
てか天城ちゃんいいのかなこの映画。
もらったから誘ってくれただけだよね。
でも主人公のなんとかって人、美人で好きだって言ってた。
私、絶対これが見たい訳じゃないのに…
「スズお待たせ」
「光輝ごめん!」
「え…また?」
「私天城ちゃんに代わってくる!
この映画見たかったかもしれないのに!」
「こらこらこら、待て待て待て」
「すぐ行ってくるから!」
「俺が天城と二人でこれ見るの?」
「私絶対見たいわけじゃないから!」
「大丈夫だって、天城は趣味じゃないからこれ系」
「そうなの?」
「さ、行くぞ」
映画はラブストーリーだった。
光輝と映画を見たことはあったかな。
私は巧実さんと暮らして、日常的に映画を見るようになった。
飲み物を用意して、ブランケットに包まってくっついて。
私が選ぶのは、アニメや日本の映画が多くて、巧実さんは外国のが多かった。
映画の終盤
ウルウルウルウル
今にも涙が落ちそうになった時、手に当たったのは、隣から差し出されたハンカチだった。
巧実さんは私より先に泣くから、いつも私がタオルを渡していた。
ハンカチを目に当てると、ふわっと香る光輝の匂い。
あの頃好きだった柔軟剤と同じ匂い。
また涙が溢れた。
「あ~~面白かった」
「最後良かったね」
「まさかあそこで撃つと思わなかったな」
「あれビックリしたね!
いくら好きでも撃っちゃダメだよね!」
映画の感想を言いながら、外に出て行く列についていく。
光輝はそうしながら時計を見た。
「スズこのあとは?」
「バイト18時から」
「じゃあちょうどいいな
俺もそろそろ戻るか
18時半から約束あるから」
「うん」
映画館を出ると急激に寒い外。
思わず身を小さくした。
光輝が手を向ける。
「ダメ?」
「ダメ」
「じゃあライン」
スマホが向けられる。
「友達ならいいだろ?」
「うん」
思い出す過去
空気、匂い、ぬくもり、幸せ
好きだった気持ち
光輝の気持ち
巧実さんの気持ち
私はどうしたいんだろう。
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