不服な友達契約
あれから3日。
チャンスは巡ってきた。
「では行ってきます」
「うん、頼んだよ」
仙台の案件とは別で東京行きの仕事が舞い込んだ。
「りぃも行きたいーーー!」
「岩本、新幹線間に合う?」
「ギリです。急ぎましょう」
「りぃも行く!」
駄々こねるりぃの背後に、頭を抱える菊川部長が見えたけどスルーだ。
昼には着く新幹線で東京を目指す俺と岩本。
「りぃ大丈夫ですかね」
「部長に申し訳ない」
「朝霧さんはとりま頑張ってください。
一人になりたいとかイミフですよ」
そうは言ってもな。
神田のこともある。
2年って短いようで長い。
いや、長いようで短い。
たった2年でスズは驚くほど大人になっていた。
俺とスズの時間のスピードは違うんだろうな。
どうして別れることを選んでしまったのか。
後悔しかない。
一人になって考えたい、か。
もう一度やり直すことはできるのか。
「朝霧さん、好きだと言ってくれたなら大丈夫ですよ」
「失礼します!お疲れ様です!」
本社エネ開のドアを入り、岩本は緊張したように挨拶をする。
俺も昔はそうだったかもしれない。
「お疲れ様です」
「おう朝霧」
「余田さん来てたんですか?」
「もう帰る」
余田さんは今中国に飛ばされている。
「聞いたよ」ニヤニヤ
「何をですか?」
「神田とバトってんだって?」
「別にバトってませんよ」
ニヤニヤ面白がっている口調だった余田さんは、急に目を伏せ口調が変わる。
「ごめんな、あの時」
「え?」
「別れることなかったのに…
なんかちゃんと考えられなかった。
俺らが冷静に考えられてお前に意見出来てれば
こんなことにならなかったのに。
あの時、みんな異常に口にしなかったよな」
「余田さんたちのせいじゃありません
俺がなんというか焦ってしまったから」
余田さんは神田に視線を移す。
デスクで忙しそうに、電話を肩で挟んでパソコンを睨んでいる。
「どっちにしてもお前らは喧嘩すんなよ。
それがエネ開のためで…」
ふっと力を抜くような少しのため息をつき、俺の肩に手を置く。
「マリアちゃんのためだ」
あの時あの部署にいた全員が後悔しているのかもしれない。
それほどスズは、俺の中にはもちろん、俺の周りにも入り込んでいた。
「朝霧ごめ~ん」
電話を置いた神田が来た。
「トラブル?」
「一旦白紙とかマジ草~」
「笑えねえな」
「来るの早かったな」
「まぁ…」
スズに会いに来たんだけど。
「スーたん?」
「あ…うん」
「遠慮しないんだろ」
そりゃそうだけど。
「俺も昨日会っちゃったし
真田たちと店にご飯行ったから」
「そっか」
「そこの繋がりもあるし、
俺なんだかんだ心配しちゃうからさ、ごめん」
「そんなの俺がどうこう言うことじゃない」
「ま、頑張れよ
あの頑固ちゃんをどう落とすのか」
「それな」
コーヒーをひと口飲み、神田の視線が俺の背後のドアへ向く。
「お、天城お疲れ〜」
「お疲れ様です
朝霧さん来てたんですか?」
「うん、赤坂の契約の件」
「あぁあれですね」
天城は手に持っていたファイルを室長のデスクに置く。
「それ何時ですか?」
「約束は18時」
「んじゃいいものあげます」
スマホを取り出した天城は、手帳型のそれから紙を出した。
「今日スズっころと映画行く約束してたんです。
チケットもらったから」
「え、でも」
「全く俺の趣味じゃない映画なのであげます。
それに俺はいつでも遊べるし」
「確かに天城の趣味じゃないな」
チケットを神田が取る。
「まぁ朝霧の趣味でもないと思うけど
デートしてゲットしてこいよ」
「でもあいつ頑固だからな…
なんか一人で頑張るって息巻いてましたよ」
こうして俺はスズをデートに連れ出すことになった。
神田と天城が紙に書いて教えてくれた音楽学部の講義棟の場所へ。
キャンパスは俺が行ってた大学と違って、伝統のありそうな古い建物に神秘さを感じるほどの茂った木々。
至る所に石像やオブジェがある。
講義棟の前には広場にベンチ、草の茂る池があった。
さすがに真冬、メダカなんかは見えなかった。
キィっとドアの開く音がしてそっちを見ると、スズがこないだのコンサートで一緒だった女の子と一緒に出て来た。
「スズ」
スズは驚きと困惑と、不服で怪訝な表情。
昔は俺を見つけて嬉しそうに笑っていたのに。
「な…なんで?」
「3日経ったからもう一人時間いいかなって」
「いいわけないじゃん
あれ本気で言ってたの?」
「腹減ったな、何食べる?」
「だから困る…なんでここ知ってるの?」
「夜こっちで仕事あって。
さっき会社によったら天城が代わってくれた
ランチからの映画」
すんげぇ嫌な顔してんな。
本当に俺のこと好きなのか?
確かに言ったよな?俺を好きだと。
自信なくなってきた。
「スズ、何食いたい?」
「お腹空いたの吹っ飛んだ…」
「じゃあ俺が決めよう」
がんばれ俺!
怯むな俺!
「行くぞスズ」
スズの手を取って歩き出す。
スズは全力拒否で手をぶんぶん振り払う。
「もぉ!」
「嫌、離さない」
「手繋ぐのおかしい!」
「なんで?デートなのに?」
「デートじゃないもん!彼氏じゃないし!」
「じゃあ彼女になればいいじゃん
好きなんだろう?」
「嫌!彼女にはならないの!」
「彼氏じゃなくてもデートはするだろ?
デートは手を繋ぐ」
「繋がない!」ブンブン!
クスクス
「スズってこんなだったっけ?」
こういうの、あの頃憧れたっけな。
スズは俺にこんな風に怒らなかった。
「こんなに可愛かったっけな」
「……」
お、急に大人しくなった。
「スズ?どした?」
「わかった」
え!わかった?!
「じゃあ彼女に…!」「お友達ね!」
はぁぁぁ?
「俺そんなの望んでません」
「じゃあもう会わない…運命まで待つから」
「それも嫌」
「光輝、私困ってるんだけどわかる?」
「わかるけど嫌」
「じゃあもういい」
スズはクルッと背を向ける。
「わかりました…お友達でお願いします」
ほんと頑固一徹。
会わないより、会ってくれる方が先決。
友達とやらになったろうじゃないか。
「じゃあラーメン!」
あ、可愛い。
やっと笑った。
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