第4章 うらよしまつり(ファンサ付き!?)
第1話 緊急会議
今日の私は結と明奈と一緒に、静河市の中心街にあるショッピングモールの映画館へ映画を観に来た。鑑賞し終わって、お腹を満たしにフードコートに寄ったけれど、お盆休みでも買い物客で賑わっていて席を取るのも一苦労だ。
「というか舞夏。とうとう作者の近藤バイク先生が、浦吉を『なし勇』の町に認めたな!」
ひとしきり感想を言い終わって、思い出したように結が言った。
そう。それは一昨日のことだ。浦吉町の話題が『なし勇』の作者の近藤バイク先生にも伝わって、自身のSNSで「町並みも勇者一行も見間違うほどホンモノだ。ぜひ一度訪れて町で執筆したい」と投稿した。洸太朗からそれを見せられた時、私は飛び上がって喜んだ。その発言をきっかけに、出版社やアニメ公式も浦吉町は『なし勇』の町だと認めて、「公式に認められた半分『なし勇』の町」として更に町の評判が広まっていた。
「まさかオフィシャルに認められるなんて思ってなかったから、めちゃくちゃびっくりしたよ。観光協会のSNSにも先生から直接ポスト来てて、偽者を疑って『本物の近藤先生ですか?』ってリプしたら『本物です(笑)』って返って来たから、踊り出しそうになったもん」
その時の私は興奮状態で、句読点なしで『なし勇』愛を先生にリプライした。一四〇字じゃ収まらなくて五連続でリプして、先生からの感謝の言葉に涙しそうになった。今思い返すとただの迷惑リプだったけど、そんなファンでも「ありがとうございます(^^)」って返してくれる近藤先生、神っ!
「いいなぁ〜。『ライオン嬢』も公式から認めてほしい〜」
「『ライオン嬢』の方は今度、東京のテレビ局が来たらちゃんと取材もされるし、公式から反応があるとしたらそれからじゃない?」
この前の即席撮影会の影響もあって、存在も徐々にファンに広まっている。観光客が増えるのも公式に認知されるのも取材後だ。
「結も、グッズ用のイラスト描いてくれてありがとね。もう出来上がって来たよ。業者も紹介してくれて助かった」
今度の盆踊り祭の時に販売するグッズも昨日、納品された。小西さんたちはまたノーラに頼もうとしていたけれど、さすがに三度目はちゃんと作ろうということになって業者に頼んだのだ。それで、コミケに出る時にノベルティグッズを用意している結に製作会社を紹介してもらった。小西さんたちがお祭に間に合うか心配してたけれど、納品までの早さが魔法でも使ったんじゃないかってくらいだった。
「グッズ今度渡すね」
「いや、いいよ。普通に買いに行く。今週の盆踊り祭で売るんだろ?」
「うん、そう」
すると結は、ある疑問を口にした。
「ちょっと思ったんだけどさ。祭りの日にグッズを売るのはいいんだけど、客は本番の盆踊りの時間までいるのかな」
「どういうこと?」
「グッズ販売も町おこしの一貫なんだろ? 舞夏たちが考えてる通り、グッズ目当てでファンは来る。けど、そのあとだよ。グッズ買ったらそれで満足して帰るんじゃないのか?」
「そっか。盆踊り祭もPRしたいなら、その時間まで引き止めなきゃならないんだね」
「確かにそうだ。ただオリジナルグッズを売るだけじゃなくて、お祭りにも参加してもらわなきゃだよ。そこまで考えてなかった。えらいよ結!」
結に指摘されて、とっても大事なことを失念してたことに私は気が付いた。今回はいつものファンミーティングみたいに目的が一つだけじゃない。グッズも売って、盆踊り祭にも参加してもらわなきゃ意味がない。
「でも、どうしたら盆踊りの時間まで残ってくれるかなぁ……」
「じゃあ考えよ。どうしたらファンを引き止められるか」
私はメモアプリを開いて、結と明奈にも協力してもらって盆踊りの時間まで引き止める作戦を考え始めた。
「当日の販売スケジュールは?」
「グッズ販売が当日のみってことで、必ずゲットしたい人なら早くから来そうだなって考えて、お昼頃から販売開始する予定なんだけど」
「昼から販売で、その前からグッズ購入の列ができる。どのくらい来ると目算してる?」
「この前のファンミの一日の人数が大体五百人だから、その二〜三倍くらいで考えてる。お盆だからそんなに来るかわからないけど」
「とすると、千〜千五百人か。販売するスタッフは何人?」
「十人くらいかな。二人一組での対応で考えてる」
「だとすると、あれこれ適当に計算して、三時間もあれば販売は終わりそうか」
「ということは、午後三時ころには終わっちゃうのか……。オープニングセレモニーが始まるのが午後五時だから、ニ時間前だ」
二時間は十分に帰られてしまう時間だ。これだと目的を達成した人からどんどん帰って、盆踊りが始まる前にはファンは誰もいなくなってしまう。
「そのニ時間のあいだ、どうやって引き止めるかなんだね」
「この際来た全員じゃなくてもいい。一桁台でもいいから残ってもらうためにどうするかだ」
「時間の変更はできるの?」
「販売開始時間の変更は可能だよ。だけど大幅にずらすことはできないかな。こっちの勝手な都合で大幅にずらしたら、不平不満が出ないとも限らないし」
「それを考えると、ずらせるのはせいぜい一時間か……」
「そうすると、終わるのが四時。一時間だけど時間が空いちゃうな……」
「時間指定の予約にするのは?」
明奈が提案した。時間ごとに区切れば、最後に来たお客さんは残ってくれる可能性はある。だけど予約制にしたらしたで、いくつか問題がある。
「それもありかもしれないけど、そのシステムを誰が作るかだよ。ホームページの作り方なんてわかんないし、今から準備しても予約制を告知するのギリギリになっちゃうよ」
「それはそれでクレーム来そうだな」
「じゃあ、SNSでの予約は?」
「それだとSNSやってる人が有利になっちゃうよ。私みたいにやってない人は、買えないって諦めちゃう」
「あ、そっか」
「それに、ホームページを作っても個人情報を気にする人もいるかもしれないし、転売ヤーが名前を変えて重複して申し込みしてくる可能性もあるから見分けるのが難しい」
「それだったら、予定通り来た順に並んでもらって、個数制限設けて購入してもらった方がいいよね」
「それじゃあ、どうしたらいいんだろう……」
予約制もいいアイデアだと思ったけれど、本番までの日にちを考えると少し難しかった。
その後も意見を出し合って、盆踊り会場での販売にすればという案も出たけど、当日は会場の市民センターと隣接する図書館裏の駐車場を全部使うからスペースがない。もういっそのこと販売開始時間を夕方に設定する、という案も出たけど、お客さんのためじゃないと思ったから不採用にした。
他に何かいいアイデアはないかと、食べかけのポテトを摘みながら私たちは頭を絞った。だけどポテトがおいしくて手が止まらない。動かしたいのは頭なのに。
そうして唸りながら結構考え込んだ。ポテトも残り数本まで減っていたその時、再び明奈から提案があった。
「あのさ。グッズを買った人の中から抽選で、推しキャラとお祭デートができるっていうのはどうかな」
「お祭デート?」
「オタクにとって推しキャラと会えるのって夢じゃない? その上しゃべれるなんて、夢を見てるのと同じだよね。しかもデートなんて言ったら、これを最後に死ぬんじゃないかってくらい嬉しいでしょ? その死亡フラグ的な夢を叶えてあげるのはどうかな?」
そのアイデアはまさに、雲間から射した光。天使の梯子が降りて来た瞬間だった。私は周囲の視線も気にせず椅子から立ち上がった。
「それいいっ!」
「いいよ! めちゃくちゃいいアイディアだよ明奈!」
「そ、そうかな」
私と結が前のめりで褒めると、明奈は照れてもじもじした。
「コスプレイヤーだと思われてるけど、完成度がハンパないガチ勢だって大好評でファンミのリピーターもいるくらいだから、みんな食い付くはず!」
「それに。これなら購入した人たち全員にチャンスがあるから、購入した時にチケット渡せば、販売開始時間を調整してもしなくてもその夢のために絶対に残ってくれる。デートの時間を盆踊りの時間まで食い込ませれば、始まる前に帰ることはない!」
このアイデアはまさに、二次元とミックスした浦吉町に相応しい方法だ。推しとちょっと話すだけじゃなく長時間独占できるなんて、推しがいる世界に生まれ変わらなきゃ絶対に不可能。相手がガチレイヤーだったとしてもそれが現実の世界で叶えられるなら、夢を実現したいオタクが飛び付かない訳がない! 私は成功を確信した。
「そのアイデアもらうね、明奈! 明奈がいてくれてよかった! 友達になってくれてありがとーっ!」
私は興奮して明奈に全力ハグした。私や結より乙女脳の明奈じゃければ、こんなアイデアは出なかったかもしれない。『ライオン嬢』のグッズを作った暁には、全種類タダであげなきゃ。ドーヴェルニュ邸宿泊権もプレゼントしよう。そんな交渉リアーヌと一度もしたことないけど。
すぐに浦吉町に帰った私は小西さんに電話して、そのアイデアを話した。そしたらすぐにOKを出してくれて、販売開始時間もついでに話し合って一時間だけ遅らせることになった。
翌日には観光協会のSNSで、「グッズ購入者の中から抽選で『なし勇』の推しキャラとお祭デートができる!」と告知すると、ファンからはすぐに反応があった。
「推しと夏祭りデート?!(✽ ゚д゚ ✽)」
「あのガチコスプレイヤーとデートできるのか!?」
「夢のようなイベント、ありがとうございます!(。>﹏<。)」
「相手があのガチコスプレイヤーなら、本当に推しとデートじゃないか!」
「推しと盆踊りができる世界線が現実に。生きててよかった……(´;ω;`)」
「願いが叶うようにお百度参りするしか」
ファンはリプライや引用でたくさんの喜びの声を上げてくれた。実行する側の私もそそられるイベントなんだから、やっぱり推しとのデートはオタクの願望にドンピシャだった訳だ。これなら当日もうまくいきそうだと、ボランティアのみんなも期待した。
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