第3話 波乱のテレビロケ・前編
そして二日後。地元テレビ局、
『まるシズ』は夕方の情報番組で、月曜〜金曜の各曜日にレギュラー芸能人が街ブラをしたり最新スポットを紹介するコーナーがある。今回浦吉町が紹介されるのは、金曜の『突撃! となりのバズピーポー!』というコーナーだ。
撮影には案内役で一人出演することになっていて、最初はボランティアリーダーの小西さんが出ることになっていたんだけれど、昨日になって突然私にバトンタッチされた。
「なんで私が。みんな出たがってたじゃん!」
「ほらやっぱり、こんなおばさんおじさんが出てもしょんない(※)から」
「ハゲのおじさんが出ても、視聴率上がらないだろうしなぁ」
「ピチピチの高校生の舞夏ちゃんが出た方が、視聴率も上がるでしょ」
「そうだら〜」
「そうだら〜、じゃない!」
まぁ確かに。シニアをディスる訳じゃないけどおじさんおばさんが出ても地味にしか映らなそうだし、私が出た方が華やかさはあるだろうけど。
「でも『なし勇』もだいたい履修したんだから、何か訊かれても答えられるでしょ。それに打ち合わせは小西さんがしてたから、段取りとか私なんにもわかんないよ?」
「大丈夫。カンペ読むだけだから」
「そうそう。楽チンだから」
「わからなくても、堀ちゃんや芸人さんがなんとかしてくれるから」
という具合でごり押しされて、私は首を縦に振ってしまった。そして現在、いつものピンク色の法被を羽織って、番組のコーナーディレクターさんと改めて打ち合わせをしているのである。
小西さんが言っていた通り、私が言うところは全部カンペを出してくれるみたいで安心した。あとは、堀ちゃんと芸人のもりやんが適当にやってくれるらしい。なので私は、カンペを噛まずに一字一句読み間違えないように全身全霊を尽くすことにした。二人からむちゃぶりされてもガン無視しよう。
「宜しくお願いしますー」
「どーもー。宜しくお願いしますー」
ロケ車から、進行の二人が降りて来た。
堀ちゃんこと堀カオルさんは、地元で大人気のおば……お姉さまローカルタレントだ。元は普通の主婦で、偶然番組のロケに出た時にその面白いキャラを買われて、それから番組レギュラーを獲得して県民に長く愛されている。その人気は今や不動のものとなり、県内の企業のCMに片っ端から出まくって荒かせ……めちゃくちゃイメージアップに貢献している。ちなみに私は、ちょっと出過ぎだと思うんだけどね。私は。
そして堀ちゃんと一緒にコーナーを進行する相方が、大活躍中の大人気芸人のもりやんだ。他の曜日にも三組くらい芸人がレギュラーで出ているんだけど、その人たちと比べるまでもなく超売れっ子なのに、よくローカル番組にレギュラーで出られてるなと私は不思議に思っている。
二人は私にも挨拶をしてくれた。もりやん好感度めちゃくちゃいい。堀ちゃんはテレビで観るのと違ってわりと普通な印象で、思っていたよりだいぶ小柄だ。160cmちょっとの私より小さい。
ロケは観光案内所の前から始まる。建物の中から、小西さんや柴田さんや望月さんがこっそり見ていて、周りにも近所の人や観光客がちらほらと見学している。注目されるのは苦手だからあんまり出たくなかったんだけど、もう覚悟を決めるしかない。
まだ出る幕じゃない私は、カメラに映らないところでスタンバイした。
「それでは、宜しくお願いします。タイトルコールまで、5、4、3、2……」
ADさんが手で数字を出しながらカウントがゼロになると、ロケ開始のサインが出された。
「『突撃! となりのバズピーポー!』」
「よっ! バズピーポー!」
いつものように、堀ちゃんの元気いっぱいのタイトルコールにもりやんが合いの手を打って始まった。堀ちゃんはカメラが回るとスイッチが入るタイプみたいで、さっきとキャラが違う。
「このコーナーは、県内の至る所でバズっている人や場所に行ってその秘密を探ろう! というコーナーです」
「堀さん、今日はどこに来たの?」
「今日は、
堀ちゃんのコメントをきっかけに、一台のカメラが周囲にいる観光客を映した。
「凄いなぁ。一見なんにもなさそうなのに!」
「もりやん、失礼だから〜。でもここに、今めちゃくちゃバズってるものがあるんだって。ちょっと話聞いてみよう。浦吉町観光案内所のボランティアで浦吉町宣伝隊長の、
「宣伝隊長」ってなに!? いつの間に勝手にそんな肩書き付けられたの私!
心の中でめちゃくちゃツッコミを入れて超ダッシュで帰りたくなった衝動を抑えながら、私は若干低姿勢になりつつ二人の横に立った。
「宜しくお願いします」
「さっそくなんですけど、笹木さん。この町で何がバズってるんですか?」
「えーっと」
私はカンペを見た。持っているADさんが、私が読む箇所を指してくれる。
「実際に見た方がわかりやすいので、とりあえず行きましょうか」
「えーっ。なんだろー?」
「楽しみだねー、堀ちゃん」
カンペ棒読みの私に負けず劣らず、わざとらしいリアクションをする堀ちゃんともりやん。カットはかからず、私はそのまま二人を案内するテイで連れて歩く。
えーっと。堀ちゃんから質問されるまでは、何も話さなくていいんだよね?
私が頭の中で直前にした打ち合わせの確認をしている最中でも、堀ちゃんともりやんは勝手に進行してくれる。
「ちょっと待って。もりやん、見て! お家がかわいいよ!」
「本当だ! 普通の日本の家じゃなくて、外国の田舎の家みたい。しかも一軒だけじゃなくて、あっちもこっちも!」
二人はそれぞれ指を差して、カメラもその動きに合わせてフレームに収めていく。
「何これー! 笹木さん、一体どういうことなんですか?」
「えっと……実は、夏休みに入った初日に突然、町並みがヨーロッパ風の町とミックスされちゃったんです」
「「えーっ! ミックスされた〜!?」」
二人は同時に一台のカメラに向かって、驚いたリアクションをする。
「はい、OKです!」
ここで一度カットがかかった。ここまで全部、打ち合わせ通りでカンペ通りだ。ロケはこんな感じで、何度か区切ってやるらしい。ちょっと緊張するけど、番組制作の裏側を見られて楽しいかも。
このあとはさらに場所を移動して、
公園に行くと、マリウスたちがフル装備で近所の子供たちと遊んでいた。ちなみに、子供たちと遊んでいるのは番組の演出だ。
ファンミーティングのことを知ったディレクターさんから、事前にぜひマリウスたちのことも撮りたいと要望があったので、出演が決まった。一応少しだけ絡みがあってインタビューもあるけど、コメントをするのはマリウスだけだ。ヴィルヘルムスたちには、簡単な相槌以外は無駄にしゃべらないように言っておいた。
ロケ再開前に、私はみんなに声をかけに行った。
「みんな、宜しくね」
「大丈夫ですわ」
「ノーラたちは、子供たちと遊ぶことに徹するニャ」
「マリウスも、大丈夫?」
「もちろんだ。心の準備はできている」
表情が強張ってる気がするけど、もしかして緊張してる?
ちょっとだけマリウスが心配だったけど、ロケが再開された。堀ちゃんともりやんが、公園で子供たちと戯れるマリウスたちを発見するところから始まる。
「ねぇちょっと、あそこにいる人たち見てよ。凄い格好してるんだけど!」
「本当だ! なんだあれー!」
みんなで遊んでいる様子がカメラに映される。堀ちゃんの「ちょっと行ってみよ!」の一言で二人は側まで近付いて、私も二人のあとに公園に入った。
「笹木さん。この方たちは何なんですか?」
「町おこしに協力して下さっている人たちです。町とミックスされた建物が『運なし勇者』という作品に出てくる町とそっくりなので、勇者一行の格好をして一緒に盛り上げてくれています」
「コスプレイヤーさんてこと? それにしても、衣装凄くないですか?」
予定よりガンガン近付いて行く堀ちゃんともりやん。だけどマリウスたちは、追いかけっこや絵本の読み聞かせをして子供たちの相手に徹していた。今日はファンミーティングじゃないからテントも扇風機もない。みんな猛暑の中で頑張ってくれている。
少し一行の様子を撮影して、マリウスのインタビューのターンになった。一応ヴィルヘルムスたちも後ろにいるんだけど、取り巻き感が出ている。マリウスもちょっと顔色悪いけど、大丈夫だろうか……。
「まずは、お名前訊いていいですか」
「えっと……マリウスです」
「それって、キャラクターの名前じゃありませんでしたっけ?」
「そうなんですが……今日は、マリウスでお願いします」
堀ちゃんももりやんも首を傾げるけど、本名が「マリウス」だから他に答えようがない。堀ちゃんはそのままインタビューを続けた。
「SNSでも大バズリ中みたいなんですけど、みなさんが噂の『運なし勇者』のガチコスプレイヤーさんですね! 私、今日みなさんと会うのでちょっとだけアニメ観たんですけど、本当に二次元からそのまま出て来たかのようにリアルですね!」
「ありがとうございます」
「衣装のクオリティーも凄いですね!」
「ガチ過ぎませんか? 本物みたいじゃないですか! 全部手作りなんですか?」
堀ちゃんともりやんは、コスプレ衣装にしてはクオリティーが超高過ぎる出来にめっちゃいいリアクションをする。これは本当に驚いている時のやつだ。
「どう見ても作りものじゃないよー。ちょっと触ってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
もりやんはマリウスが着けている防具の胴体部分を、ノックするように手の甲で叩いた。ダンボールやプラスチックじゃない本物の音がして、もりやんはわかりやすく「ハッ!」と驚いた。
「すごーい! 堀ちゃん触ってみなよ! めっちゃ本物っぽいよ!」
勧められた堀ちゃんは、もりやんより少しだけ強めに叩いた。
「本当だ! ばか(※)凄い! 本物みたい! ていうか本物じゃないのこれ!?」
テンションが上がりまくりの二人は、打ち合わせをしたことなんて忘れてマリウスのガチ衣装に釘付けになった。
「あの。すみません。インタビューの方を……」
私はインタビューを進めてくれと堀ちゃんともりやんに伝えるが、二人はマリウスの防具を360度から観察し始めた。ディレクターさんに視線を送ると気付いてくれて、二人にインタビューの続きをするように言ってくれて、私はひとまずホッとする……。が。
「みなさん顔立ちが外国人ぽいですけど、地元の人なんですか? 普段は何をしている人なの?」
「えっと。その……」
「どうやってこんな凄い衣装作ったの? どこかに発注したの? 製作費用かなり高かったんじゃないんですか?」
「えっと……そうですね……」
マリウスが顔色を悪くしながら、なんとか話を合わせようとしていた。ところが。
「これは衣装じゃニャ……むぐっ!」
無言に耐えられなくなったノーラが、余計なことを口走りそうになった。だけどそれをティホがプロレス技みたいに腕を回して、ノーラの口元をがっちりホールドした。
ナイスだよティホ!
「コスプレ界では超有名人だったりして?」
「他にはどんなコスプレをしてるんですか? 写真があったらぜひ見てみたいなあ!」
「いや。それは……」
「実は! ファンミーティングもやってるんですよ!」
ADさんがカンペで「インタビュー続き」と出しているのになかなか先に進まず、衣装の質問が富士山の湧き水のごとく途切れそうになかったから、静観していられなくなった私は強引に進行を正常に戻した。
「あ、そうそう! そう言えば聞きましたよ。ファンミーティングもやられているんですよね。このクオリティーなら、ファンの皆さんの反応もすごいんじゃないんですか?」
「はい。先週、一回目のファンミーティングをやったんですが、みなさん喜んでくれていました。午前中と午後合わせて二百人以上も来てくれたので、俺たちも嬉しかったです」
「アイドルのファンミーティングと同じように、キャラクターごとにやったんですよね。誰が一番人気だったんですか?」
「なに訊いてるの、もりやん。大体わかるじゃーん!」
「あ、そっか! 主人公で勇者のマリウスが一位だったんだ!」
訊くまでもない質問だと堀ちゃんがもりやんを小突いて、もりやんは純粋にマリウスが人気一位だと信じた。二人には、私の主観的ファンミーティング人気キャラクターランキングは伝えていなかったので、マリウスも苦笑いする。
「忖度してくれてます?」
「そんなことないですよー。マリウスが主人公なんだし、一番人気だったんですよね?」
「もしかして、違うんですか?」
「……三位です」
口元だけ笑ってなんだか申し訳なさそうに言うマリウスに、哀愁が漂う。微妙な順位に、堀ちゃんともりやんはコメントを返すまでに間を開けた。横で見ていた私は、ちょっと笑いそうになった。
「……そ……そっかー! まぁ、そういうこともありますよね! 偶然、他のキャラ推しのファンが多かっただけかもしれないし! ね。もりやん?」
「そ……そうそう! 他のキャラが一位だったのはマグレ! マリウスのコンディションが悪かっただけかもしれないし! ね。笹木さん?」
「えっ!? ……そ……そうですね。また次回もあるので、今度はリピーターさんがマリウスを選んでくれるかもしれないし……」
と、なぜか私たち三人で傷心するマリウスを励ました。ところが。
「ちょっと待った! 今の言葉は聞き捨てならないな」
「ノーラもこの耳でしっかり聞いたニャ! この二人はマリウスの肩を持ち過ぎニャ!」
安心していた方面から反論の声が上がり、ノーラはビシッ! と堀ちゃんともりやんを指した。この瞬間から、せっかく軌道修正したロケの歯車が狂い始めた。
「ちょ……! ヴィリー! ノーラ!」
「偶然? マグレ? そんははずはない。確かにオレが人気一位の座に君臨した」
「ノーラも、お客さんといっぱい握手もおしゃべりもしたから、二位は間違いないニャ!」
「いや、だから。順位は私の主観でだいたいだって言ったじゃん」
「いや! 確かにオレは一位だった!」
「ノーラも二位は間違いないニャ!」
ノーラの言う主観は、動物の勘的なことじゃないの? と言うか。あの時は二人とも、たかがイベントだ娯楽だって言ってたのに。あの余裕は、マリウスより自分の方が人気者なのが嬉しかったのかな。向こうの世界だと「勇者様、勇者様」って、マリウスが持て囃されがちだからなぁ。実は羨ましかったのかも。
「もしかして舞夏は、大事なイベントなのに手を抜いてたニャ? 主観の順位も適当なのかニャ!?」
「ちょっと待って。人気順位は適当なの? その話詳しく!」
それはどうでもいいとして。余計な発言があったせいで堀ちゃんが食い付き始めた。
「違……くはないかもだけど、深堀りしなくていいです!」
「舞夏は平等にノーラたちの順位を決めたんじゃないのかニャ? だから舞夏もマリウスの肩を持つのかニャ?」
「肩を持つ訳じゃないよ。堀ちゃんともりやんの話に合わせただけで……」
「そうなのか、舞夏? 話を合わせただけなのか!?」
私たちの励ましの言葉が嬉しかったらしいマリウスは、また傷心した。やばい。だいぶ面倒くさいことになってきた。
「笹木さん。宣伝隊長だからって、人気順位の不正を……!?」
「まさか、職権濫用!? 自分の思い通りになるように、イベントは全て笹木さんが牛耳ってるの!?」
「変なこと言わないで下さい!!」
牛耳ってるとしたら、アイデアを出している中野さんじゃないだろうか。だけど、堀ちゃんともりやんから無実のジト目を食らう私。
「ヴィルヘルムス。ノーラ。邪魔をしないという、舞夏との約束を忘れていますわよ。とりあえず落ち着いて下さい」
「落ち着いて……」
見兼ねたヘルディナとティホが助けてくれた。だけど、このまま進められそうにない。
いったん、マリウス以外を離脱させてやり直すしか……。
軌道修正は難しいと判断して、私はディレクターさんにインタビューの仕切り直しを強く申し出た。というか、なんでディレクターさんがめちゃくちゃな現場を腕組んで余裕こいて傍観してるの。
「そうですね。ちょっともったいない気もするけど、そうしましょうかー」
どうやら今のくだり、全部使おうとしてたっぽい……。
それにしても。まさか、こんなことでヴィルヘルムスとノーラにスイッチが入るなんて思わなかった。ロケを見学していた『なし勇』ファンたちも、ちょっとざわついてる。勇者一行の印象、悪くしていなければいいんだけど……。
「なんだあれ」
「すげー。初めて見るわ」
なんだあれ、って。そうだよね。醜態を晒しちゃったもんね。だけど、揉める一行の姿は初めてじゃないと思うけど……。
「こんなの見たことないね」
「本当だよ。あれ馬車だよね?」
でも、そうだね。ちょっと見たことないキャラクターの一面を見せちゃったかも。馬車とかね……。
…………。
………………馬車?
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読んで下さりありがとうございます。
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今回の方言補足はこちら。
↓
・方言補足
「しょんない」…しょうがない、仕方ない
「ばか」…とても
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