第4話迫る影
シンの息が止まる。扉を閉めた後の静寂は、まるで時間が止まったかのように感じられた。背中が冷たく汗ばみ、手のひらには冷や汗がにじんでいる。心臓の鼓動が耳に響き、息を殺す度にその音が不気味に増していった。
あの影。あれが「ソレ」だと直感的に感じ取った。今、シンはただそれだけを思っていた。もしあれに捕まったら、どうなるのか? 想像するだけで、手が震えそうになる。
「……どうして、こんなことに。」
自分に問いかけても、答えはない。ただ、恐怖と無力感が頭の中でぐるぐると回り続ける。ソレがどんな存在なのか、なぜここにいるのか、その理由はまだわからない。しかし、逃げるしかないという現実だけは、シンに確かに突きつけられている。
「音を立てるな……」
シンは呟くように心の中で警告する。音を立てると、それが引き金となって、ソレは追いかけてくる。足音、呼吸、何もかもが敵に気づかれる。何一つとして、無駄な音を立てることができない。
しばらくの間、シンはじっとしていた。恐る恐る息を吸い込み、できるだけ音を立てないように静かに吐き出す。その間、頭の中で次に取るべき行動を考える。どこに行く? どうやって脱出する? ただ、ここに閉じ込められたままだと、ソレに捕まる運命が待っているだけだ。
扉の向こうで、足音がわずかに聞こえる。それは明らかに、シンを探しているものの音だ。壁に耳を当て、音の発生源を突き止めようとするが、館内は予想以上に音を吸収してしまい、何もはっきりとは聞こえない。心の中で必死に推理を働かせるが、ソレがどこにいるのか、その姿さえも掴めない。
そして、突然、後ろからガタガタと音がした。シンは驚いて振り返るが、何もない。何もない空間の中で、ただひとり。
その時、目の前に突然、一本の本が落ちてきた。
シンはその本に目を留めた。ページは開いており、そこに書かれている内容に引き寄せられるように視線を注ぐ。その内容は――。
「音を立てるな。」
その本には、ただ一行の警告が記されていた。それだけだ。それ以外に、特に意味があるとは思えない。ただ、シンはその一言を見た瞬間、何かを感じた。何かが、急に明らかに見えてきたような気がした。
ソレは音を感知する。それだけではない。音を立てた者を、恐れを持って追い詰める存在だ。そして、今この瞬間も、シンが立てたすべての音を、ソレは察知しているのだろう。
本を閉じ、シンはそれをポケットにしまい込んだ。恐怖に支配されつつあった頭を、少しだけ冷静に保とうとする。だが、すぐに耳を澄ませ、静かに立ち上がった。
――出るしかない。
背後の扉を開けると、そこは再び暗闇が広がっている。しかし、このまま隠れているだけでは何も解決しない。ソレが何者で、どうして館にいるのか。そういった謎を解くために、何か手がかりを見つけなければならない。
シンはもう、恐怖に立ち止まっているわけにはいかない。早く行動しなければ、いずれ追いつかれてしまう。
急いで足音を立てぬよう、少しずつ廊下を進む。どこに行けば良いのか、どこに手がかりがあるのか、全く分からない。しかし、シンはどこかに答えがあるはずだと信じている。
目の前の壁に触れると、ふと違和感を感じた。壁が少し凹んでいる――と。手を伸ばして触れてみると、壁が動いた。力を入れて引くと、隠し扉のようにゆっくりと開いた。
シンはそれを見て、もう一度息を呑んだ。扉の向こうには、新たな謎が待っているに違いない。
だが、ここで足を止めるわけにはいかない。恐る恐るその扉をくぐり、暗闇の中へと踏み出す。
どこかで、また音が響く。何かが動いたような気がする。
シンは思わず後ろを振り返る。
その時、背後でひときわ大きな音がした。
「……!」
思わず振り返ると、目の前にソレが現れる。
シンの心臓が跳ね上がる。再び、死に物狂いで走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます