第3話謎の始まり
シンは足元の崩れた床から何とか這い上がり、再び立ち上がった。目を閉じて進むという命令が頭の中でぐるぐると回り続ける。しかし、次第にその命令が彼にとって本当に正しいのか疑問に思えてきた。目を閉じて進むことで、何かが見えないからこそ、その先に進むべき道が見えたような気がしたからだ。
だが、目を開けてはいけないという直感が彼を支配していた。目を開けた瞬間、何かが近づきすぎてしまう気がしてならなかった。音を立ててはいけないというルールも、彼の心を支配し続けていた。逃げ道を探しながら、できる限り音を立てないように、目を閉じて周囲の状況を感じ取ろうとする。
周囲はただ静寂に包まれ、シンの心臓の鼓動だけが響く。だが、ふと足元で何かを感じる。冷たい床に指先が触れた瞬間、心がざわつくような感覚が走った。何かがそこに存在しているような気配を感じたのだ。
シンはその感覚を無視し、足元を確かめながら慎重に歩みを進める。何も見えない状態で進むというのは非常に不安だったが、進むしかなかった。行き止まりになったり、戻れなくなったりすることを恐れて、足を一歩ずつ踏み出していく。
しばらく進んだところで、突然、足元に何かを感じた。柔らかいものが足に触れる。冷たく、ねっとりとした感触。その感覚に驚き、シンは足を引き寄せた。
足元を確かめるべく、手を伸ばしてみると、硬い感触が手に伝わった。何かが置かれている。だが、見えないためにその正体がわからない。
手を伸ばし、物体を触れてみると、それは硬い表面を持つ古びた箱のようだった。箱のふたを触ると、微かな摩擦音が立ち、シンは思わずハッと息を呑んだ。その音が、館の静寂を破る音になったのだ。
「まずい…音を立ててしまった。」
シンは箱から手を離し、さらに目を閉じたまま震えながら周囲の気配を感じ取ろうとする。だが、何も聞こえない。どこからも追跡するような音はない。心臓が鼓動を打つ音だけが強調され、やがて静けさが戻ってきた。
箱を触ったことが影響を及ぼしたのか、それともただの偶然だったのか。それすらもシンにはわからなかった。だが、少なくとも今のところ、何も起こらなかった。
その箱を再び掴み、少し力を入れてみると、箱が少しだけ開いた。中身を確認することができるだろうか? その瞬間、再び思い出したように、あの本に書かれていた言葉が脳裏をよぎった。
「音を立ててはいけない。」
シンは震える手で箱を開ける。中から、古びた紙と何かの鍵のようなものが出てきた。それは鉄のように重く、手に握った瞬間、その冷たさが手のひらに伝わった。紙を取り出し、目を閉じたままそっと広げてみる。
「ここを開けてはいけない。」
シンはその一文を読み、息を呑んだ。開けてはいけない? 開けてしまったことが、何か悪い結果を招くのだろうか?
その時、背後で音がした。微かながら、誰かの足音のような音が、館の空気を震わせていた。シンは思わず立ちすくみ、その場から動けなかった。
その音はすぐに近づき、足音は明らかにシンを狙っているかのように、間違いなくこちらに迫っている。シンの胸は激しく鼓動を打ち、その音が間違いなく追いかけてくる気配を感じさせた。
「音を立ててはいけない、音を立ててはいけない!」
シンは心の中でその言葉を繰り返しながら、できるだけ音を立てないように身を縮め、物音ひとつ立てないように深く息を止めた。その足音は、どんどん近づいてくる。目を閉じていることがどれほど重要か、シンはその瞬間、改めて実感した。
その足音が、今、シンの背後に迫る。数秒後、シンの耳元で「ソレ」と呼ぶべき存在が、冷徹な足音を立てて近づいてきた。しかし、シンが目を閉じて息をひそめている限り、それが何であるかはわからない。
だが、確信していた。それが「ソレ」だということを。何者かが、この館にいて、音を立てる者を狙っているという事実。シンは静かに息を呑んだまま、目を閉じて待つしかなかった。
足音は、わずかに止まった。それでも、シンは動くことなく、ただじっとその場に立ち尽くしていた。
やがて、音が完全に止まった。シンはその静寂の中で深く息をつき、手に握った鍵を再び確かめる。解決策は、まだ見えていない。だが、少しずつ、館の謎が少しずつ浮かび上がってくるような気がしてならなかった。
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