第26話 新しくなったバス会社
赤毛の女がピクリと動く。
それを見たスズが声を上げる。
「い、生き返ったっす!」
いや、元々死んでないから。
さすがに死んだ者は蘇らないからな。
生き返ったんではなくて、傷が癒えて息を吹き返したとでも言おうか。
赤毛の女が急に起き上がる。
「はっ、ここはどこ」
「どうやら気が付いたようだな。君は二足竜でビルに突っ込んだんだよ。覚えてないか?」
「何のこと。そもそもお前達は誰だよ」
おっと、まさかの展開!
一瞬皆が静まり返り、ビルの戦闘音だけが鳴り響く。
そこでスズが口を開く。
「これって、どういうことっすか」
囮から戻って来たリュウが答える。
「記憶の喪失だな」
俺は黙って
う〜む、記憶喪失は想定していなかったな。
これは俺の魔法でも対処出来ないぞ。
困ったな。
何とか誤魔化さないと。
「な、何とか生命はとりとめたよな。まあ、記憶はその内に戻るんじゃないか」
そう、生命を救ったことに意味があるんだよ?
するとスズ。
「まあ、記憶が無くても尻は無事だから問題無いっすね」
ああ、やっぱり目的は赤毛の女の身体だったか。赤毛の女に惚れてたんじゃなくて、尻に惚れてたって訳ね。
「スズ、お前、サイテーだな」
俺が正直な気持ちを伝えたんだが、スズはトボけ顔で返答する。
「へ? なんっすか急に」
取り敢えず赤毛の女に、成り行きを簡単に説明する。
そんなことをしていると、ビル内から悲鳴が耳を突くようになる。味方か敵か分からないがちょっと心配になる。
そこでリュウに声を掛けた。
「リュウ、悪いがモエギ団の加勢をしてやってくれるか。モエモエがやられちまったら寝起きが悪くなるからな」
「それもそうだな。しゃーねえ。ちょっと暴れてくらあ」
そう言ってリュウはビル内へと突撃した。
少しすると悲鳴の数が増えた。
赤毛の女への説明がひと段落する頃、スカル団のビルから歓声が上がり出した。
どうやらモエギ団がスカル団のビルを制圧したらしい。
まあ、あの装備で良くやったと言いたい。それにリュウを行かせたのは正解だったな。
だが、俺達がビル内へと入って行くと、それは凄い有様だった。
スカル団の捕虜が十人程縛られているのだが、その前に立つモエギ団の数が余りに少ない。
バクレンとモエモエ、そしてその他二人、それに加えてリュウ。
え、五人だけ?
後ろの方に横になってる負傷者もいるが、それをいれても十人にも満たない。
出発前にモエギ団のアジト前で整列したのは三十人位。その中で十人はモエギ団ビルの防衛で居残りだったから、遠征に参加したのは二十人ほどだったはず。だが今は十人未満しか見えるところにいない。
まさかと思い、一応聞いてみた。
「なあモエモエ、出る時は二十人はいたよな。だけど今ここには十人もいない。他はどこへ行ったんだ?」
するとモエモエはヤンキーモードで返答した。
「あぁ? そんなの死んだに決まってんだろ」
やっぱりかよ。
こいつらバカなのか?
勝利した側の方が戦死者が多いとか、どう考えてもおかしいだろ。
作戦失敗だろ。
そこでバクレン。
「取り敢えず作戦は大成功だったな。はははは」
意味が分からん。
モエモエの二重人格の原因が、分かった様な気がする。
こんな集団の中で育てば、こうなってもおかしくないか。
さて、ここからはお楽しみの略奪だな。
それでビルをくまなく探索したのだが、倉庫はあったが大した物は入っていなかった。
それに金庫がどこにも無い。
それと整備工場と駐車場はあったが、オートバイが一台とバギーが二台、そして武装バスが一台。
バスが一台足りない!
そこで捕虜の尋問となる。
金庫の場所を聞きだし、バスの行方を聞きだすためだ。
結果、捕虜は拷問をするまでもなく、簡単に洗いざらいを吐いた。
そこで直ぐにビル内を再捜索。
そして隠し金庫は見つかったが中身がショボい。
金は入っていたが、モエギ団と打ち上げでもしたら直ぐに無くなる程度。
まあ、それは良い。
問題は武装バスだ。
武装バスが目の前に一台。
そして捕虜の話によると、荷物の輸送で一台は使用中とのこと。いつ戻って来るかは聞かされていないと言う。
だが、いずれは戻っては来るバスが一台。
ハコバス会社の所有する武装バスが一台。
合計で三台。
『夢の複数武装バスでの会社経営』
何と甘美な言葉だろうか。
行方不明のバスを何としても手に入れたい!
駐車場に停車中のバスは整備中で、直ぐに動かせるような状態ではない。
修理して乗って奪って行きたいが、そんな時間的余裕などあるのだろうか。
スカル団のもう一台のバスが帰ってきたら、もう一悶着起こってしまう。
置いてあったバギーに修理部品を乗せて逃げるという手もあるが、俺としては目の前にあるバスを放って置くというのが、どうにも我慢ならない。
ハッキリ言って、もったいない!
そこでモエギ団はこの後どうするのかと思い、バクレンに聞いてみた。
「ああ、そうだな。モエギ団は壊滅状態だからな。さて、どうするかな……実は全く考えていないよ」
壊滅したのは理解してるらしい。
そこで俺は提案する。
「俺の会社に入らないか?」
バクレンは驚いた顔を見せる。
「会社だと?」
「そうだ。俺はバス会社をやっている。今は三人だが、ここにあるバスが加われば二台、輸送中で外に出ているバスを加えれば、合計三台のバスが手に入り運行出来る。そうなると人手が足りない。だが君らがいればそれも可能なんだよ。モエギ団ビルに残る団員と、今ここにいる君達がいれば、余裕でバスの路線運行が組める。どうだ、やってみないか」
バクレンだけでなく、他のモエギ団員も驚いている。
リュウにスズも驚き顔だった。
驚いていないのは赤毛の女だけだ。キョロキョロと皆の顔を見ている。
早く思い出せよ。
そこでモエモエが口を出す。
「大賛成。私、バスガイドをやりた〜い」
いつものモエモエの人格のようだ。
バクレンは腕を組んで少しの間考えた後、小声で俺に聞いてきた。
「俺の立場はどうなるのだ?」
俺も小声で返す。
「副社長」
すると突然大きな声で話し出すバクレン。
「よおし、良い提案じゃないか。是非ともバス会社をやろうじゃないか。モエギ団はハコザキの会社に入ることに決定だ」
あっさり決まっちまったな。っていうか、団員に意見は聞かないんだな。
こうして俺は新たな社員を確保したのだった。
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