第27話 一騎討ち







 スカル団のビルを占領して、一週間ほどした頃だった。


 一台の武装バスが、スカル団のビルにやって来た。

 

 駐車場の扉を開くと、何の疑いも無く武装バスは入って来た。


 俺の合図で扉は閉められる。


 武装バスは停車するや何の疑いもなく、中からスカル団のメンバーがゾロゾロと出て来た。

 十人ってところだ。

 青い肌の者、目が赤い者、鋭い牙が口元からハミ出ている者など、まともな奴は一人もいない。

 しかしその全員にドクロと番号の入墨があった。

 間違いなくスカル団の団員だ。

 

 その中でも一番若い番号の入墨がある男、そいつの番号は二番。

 四十番台の番号が消された後があるな。

 こいつは団の中で、実力でのし上がった奴のようだ。


 そういえば、一番は既に死んでいると聞いたことがある。

 つまりこいつが実質のナンバーワン、つまり団長と思われる。

 この団長と思われる二番だが、左手が変なのだ。

 肩から先がまるカニの様な手が生えている。

 しかもデカいハサミを持っている。

 ちょっと面白いと思ってしまった。


 全員が降車したところで、スカル団員の一人が敷地内の様子がおかしい事に気が付いたらしい。キョロキョロしながら怒鳴り出した。


「おい、何で誰も出て来ないんだよ!」

 

 う〜ん、仕方無い。出てやるか。

 俺は再び合図をする。


 すると隠れていた者達が姿を現す。

 もちろん全員が、スカル団ビルから奪った武器を手にしている。

 モエギ団のビルからも応援が来ている。

 ハコザキバス会社の新入社員達である。


 慌て出すスカル団の、団員達。


「な、何だてめぇらは!」


 団長以外で一番若い団員は八十番と、下っ端ばかり。見るからに弱そうだ。

 気を付けなければいけないのは、やはり団長だけだろう。


 さて、ここは俺の出番かな。

 俺は一歩前に出るや、声を張って話し出す。


「ここの縄張りは俺達が乗っ取った。死にたくなければ武器を捨てろ。生命は助けてやるっ」


 まあ、生命は助けるが奴隷送りだけどな。ここで生かして逃がしたら、お礼参りくらいしてくる奴らだ。

 情けは必要ない。


 しかし「はいそうですか」とはいかないのがスカル団。


 そこで出てきたのがカニバサミ野郎だ。


「お前、見覚えがあるぞ。確か……武装バス乗りだったか。貴様、ヒクソンの街の支部長をズタズタにしてくれたよな……ん、まさかバンローの街はお前らの仕業か」


 はい、正解。


「だったらどうだって言うんだ?」


 すると左手のハサミを俺に向けて言った。


「俺と一対一での勝負をしろ。貴様が勝てば全てをやる。その代わり俺が勝てばここを返してもらう」


「お前はバカか? この状況でお前らの要求など受ける訳ないだろうが。袋のネズミって言葉知ってるか」


 するとカニ男。


「隠し倉庫の場所を教えてやるぞ」


 何だと?


「中には何が入っているんだ」


「カップ麺、それに缶ビールにヤキトリ缶なんかもあるな」


 お宝じゃねえか!

 ビールが進むじゃねえか!


「ふん、仕方ないな。その勝負、受けて立とうじゃないか!」


 するとスズが言葉を挟む。


「ちょっ、ハコ社長。それって罠っぽいっすよ」


「それがどうした。男のロマンの前ではそんなの無意味だよ」


 リュウやバクレンも大きくうなずいている。っていうか、男連中は全員同感のようだ。

 皆がウンウン言ってる。


 それに対してモエモエは。


「ばっかじゃないの」


 そしてここぞとばかりに、リュウが前に出る。


「よぉし、俺が相手になってやんよ」


 だがカニ男が拒否。


「駄目だ。一騎討ちは頭同士がやるもんだろ。雑魚は黙って見てろ」


 「あんだとっ」とキレそうになるリュウをなだめつつ、俺は言った。


「ルールは?」


「そんなの素手の喧嘩に決まってんだろ」


「はあ?」


 俺が不満そうな返答をすると、カニ男。


「何だ、怖気付いたか?」


 こいつ、自分のハサミが有利な戦いにしようって腹か。


「分かったよ、やってやる。素手なら良いんだろ、素手なら」


 カニ男がニヤリと笑う。


 すると示し合わせたように、俺とカニ男の周囲に空間が作られ、バスも移動させられて行く。


 ここはかつて、このビルの駐車場だった場所。

 地面にはコンクリートがまだ残っているのだが、所々が剥げて無くなっているため平らではない。

 それに得体の知れない植物まで生えている。

 足元には注意が必要だ。


 カニ男がニヤニヤしながら言った。


「さあ、いつでも掛かって来て良いぞ」


 そう言いながら、カニのハサミをシャキシャキ動かし始める。

 しかしこいつ、完全に勝った気でいるな。

 余程カニの手に自信があるんだろう。

 

「そうか、じゃあ始めるぞ」


 一言そう言って、俺は詠唱を始めた。

 どうせ身内ばかりだ、魔法がバレても良いだろう。

 スカル団の奴らは一人も逃がす気は無いしな。


 俺がブツブツ独り言を始めたと思ったのか、カニ男が笑い始めた。


「ひゃははは、ここへきて念仏かよ!」


 だが、俺達を眺めていたスカル団の団員の一人が、気付いてしまった。


「こ、こいつ、スペルキャスターだぞ!」


 それを聞いたカニ男が、目を丸くして叫ぶ。


「くそ、全員でやっちまえ!」


 おいおい、約束と違うじゃねえか。まあ良いけどな。


 そこで俺は魔法を発動させた。


 範囲魔法で「電気鉄条網」と言う魔法だ。

 カニ男とその部下の周囲に、細い雷電をいくつも走らせる。

 あたかも鉄条網のようにだ。

 

「うわっ、何だこれは!」

「うおっ、電気が流れてるぞ」

「危険だ、触れるんじゃねえぞ」


 触れたら危険だと直ぐにバレた。バチバチいってればバレるか。

 だがな、この魔法はそれだけじゃないんだよ。


 幾本もの線状の細い雷電が、ゆっくりと狭まっていく。


「うわあ、迫って来たぞっ」

「おい、どうしたら良いんだよ!」

「く、来るなぁ」


 ははは、狼狽うろたえてる狼狽うろたえてる。

 気絶させてこいつらもまた、奴隷商人に売りつけてやるか。


 しかし苦し紛れに銃をぶっ放した奴がいた。

 それが短機関銃だったもんで、全部は防げなかった。

 何発かは電気網に引っ掛かり防ぐことが出来たのだが、隙間をすり抜けてきた弾丸があった。

 その弾丸は俺のこめかみを掠めた。


「あっぶねえだろうが!」


 俺は思わず力を込めてしまい、電気網を思いっきり狭めてしまった。


 その途端、スカル団の悲鳴が駐車場に響く。


「うわあ、やっちまった……」


 俺は頭を抱えた。

 スカル団員が次々に黒焦げになっていく。

 だがカニ男が、うなりながら俺を睨んでいるのが見えた。


 耐えていやがる。


 奴は仲間を盾代わりにして背中側を防ぎ、正面側は己の巨大バサミで電気網を防いでいた。


「お前、往生際が悪いなあ」


 俺がボソリとそう漏らすと、カニ男が絶叫した。


「ふっざけんじゃねぇぞぉ〜っ!」


 そしてあろうことか、電気鉄条網をハサミで切り落としやがった。


 魔力が飛散して、一瞬で消滅する電気鉄条網。


 カニ野郎は俺に向かって、凄い形相でハサミをガシガシしながら歩み寄る。


卑怯ひきょうなことしやがって〜」


 そんなことを言うカニ男に対し、俺は平然とした態度で言ってやった。


「射撃開始!」


 我が社員達の一斉射撃だ。


 咄嗟とっさにカニ男が身を縮め、頭を自分のハサミでおおった。


 だが頭は防げても、首から下は無防備だ。

 そこへ銃弾が撃ち込まれていく。


 カニのハサミが余程気味悪かったのか、誰もが銃の弾倉が空になるまで撃ち尽くした。


 銃撃音が止まると、服がボロボロになったカニ男が縮こまっていた。

 だがグラリと傾いたかと思ったら、その場にコロンと仰向けに倒れ伏した。


 硝煙の臭いが立ち込める。


 カニ男は倒れたまま、ピクリとも動かない。

 口からは泡を吹き出している。


 まさか、生きてるとか無いよな?


 俺はそれを確かめようと、近くに寄ってカニ男の脇腹を蹴り上げた。

 しかし俺の蹴りが入る直前で、奴のカニの腕が俺の足を防ぐ。


 そしてカニ男が目を見開いて言った。


「こんなんで俺を倒せると思ったか」


 い、生きてやがんのか!?






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