第24話 スカル団ビルを襲え!







 モエモエのおねだりは「ビックランド北半分」だ。

 つまりはスカル団の縄張り全て。

 俺に奴らを滅ぼせと?


 そこでリュウ、スズ、モエモエの三人。


「頼むぜ〜ハコ社長」

「お願っすよ」

「しゃっちょさ〜ん」


 こいつら……


 俺は勢い良く立ち上がり、そのおねだりをピシャリと断わろうとしたのだが――


「何だ、スカル団を潰す話か!」


 酔っ払いのモエギ団員が、大声で余計な事を叫びやがった。


 するとワインの入ったグラスを掲げて他の団員。


「やってやろうぜ!」


 さらにスズがお気に入りの女、赤毛の女団員が立ち上がり、グラスを掲げて叫んだ。


「あたいらはねえ、あんなポンコツ集団には負けないよ!」


 何故か興奮したスズもグラスを天井にかざし、「やってやるっす!」とか言い出す始末。


 慌てて俺が皆を制止しようとするが、そこへモエモエのオヤジさんであるバクレンがしゃしゃり出る。


「皆のもの、聞いたか。娘のモエも奴ら許すなと言ってる。こうなったらハコザキ達と一緒に、北半分の縄張りを手に入れるぞ!」


「「「おお〜〜!」」」


 もはや俺の言葉は、酔っ払いどもの耳には入らない。

 まあ、どうせ酒の席での話だしな。

 明日になったら笑い話。

 





 ――なんて思ってたら翌日、早朝から騒がしくて目が覚めた。


 モエギ団の団員があってへこっちへと、せわしなく動き回っている。


 「何をしているのか」と聞けば、戦いの準備だと言いやがる。

 そこで昨日の酒の席での話が本気だったと知る。

 しかも昨日の今日とはどういうことなんだよ。

 リュウとスズも二日酔いに苦しみながらも寝床から起き上がり、何の疑問も挟まず戦いの準備を始める。


 こいつらも本気かよ。


 そもそもの話、スカル団に勝てんのか?

 どのくらいの戦力があるのかも聞かされてないのに、リュウとスズは何で黙々と戦闘準備なんかしていられるのか。

 確かに殺気立ってるモエギ団を見れば、「戦いは良く無いよ」とか言える雰囲気ではないのだがな。

 俺としてはバスさえ直ればそれで良い。

 これは隙を見て逃げるしかないか。


 取り敢えず周りの流れに乗って荷物をまとめ、持って来た武器を確認する。

 と言っても、俺達が持って来た武器は少ない。

 リュウはマチェットに愛用の大型拳銃。

 弾はそれほどないはず。

 スズは会社の備品のショットガン。

 こちらも弾数は少なく、ノーマル弾が二十発ほど。

 廃虚とはいえ、街中なら比較的安心だと思ったから、武器より食料を優先した。その結果だ。

 

 俺の武器はというと、投石用のスリング革が一本と、スリング用の弾である金属球が三個。

 それと手榴弾が四個だけだ。

 それにコンバットナイフくらいしかない。

 これでスカル団と戦えというには、無理があるだろう。

 せめてバスに戻って武器を調達したいが、よくよく考えると、戻ったところで機関銃の残弾は余り無い。

 本格的な戦闘には少なすぎる弾数。


 そもそも寄り道をさせてもらえる雰囲気ではない。

 団員達は目が血走り殺気に満ちている。

 俺が思うに、まだ酒が残ってるな。


 モエギ団がアジトのビルの前に整列した。

 総勢三十人ってとこだろう。

 武器はボルトアクション式のライフルやショットガンに拳銃、もしくは手作りの槍や弓だ。


 正直ビックリだ。

 この装備と人数でスカル団と本気で戦うつもりらしい。

 よく今まで縄張りを守れたよな?

 

 しかし、彼らには取っておきのモノがあった。

 

 バクレンが一声上げた。


「連れて来い!」


 するとビルの裏の方からズシンズシンと、大型魔物が歩くような地響きが聞こえ出した。


 モエギ団の全員が音の方へと目を向ける。

 俺達も釣られて視線を移す。

 ビルの裏から出て来たのは、二足歩行の竜の様な魔物だった。

 鋭い牙に加えて小さな手にはしっかり爪もあり、身体には防具の様なものを身に着けている。

 背中には騎乗具が着けられており、ライフル銃を持った赤毛の女がまたがっている。

 人馴れした二足竜なんて初めて見たな。

 ましてや騎乗するとか、信じられない。

 団員に聞くと、何でも卵の頃から育てた結果らしい。

 恐らく太古に生存した恐竜の遺伝子を使った、バイオ技術での生物兵器の成れの果てだ。

 どれだけこの竜が強いのか分からないが、少なくても戦力にはなってくれそうだ。

 

 こうして俺達はモエギ団に連れられて、スカル団のアジトへと向かった。


 瓦礫がれきを避けながら街中を歩いて行くのだが、二足竜の機動力が半端ない。

 あの巨体でありながら、障害物を難なく乗り越えて行く。

 何だか頼もしい。


 街中には土竜もぐらの難から逃れ、大して壊されていない場所も結構あり、そこで普通に暮らす人達もいた。

 だが外から入って来た魔物や亜人避けの柵は必須らしく、必ず厳重な柵や壁が造られていた。

 その中で村もあった。

 赤毛の女が村を指して言った。


「あれはリトルランドって言う村だよ」


 スモールランドに続いて、今度はリトルランドかよ。

 そんな廃虚見物をしながら街中を進んだせいか、結局スカル団の村へは一日掛かった。

 団員曰く、もう少し早く到着すると思ったらしい。

 絶対に酔っ払っているせいだろ。

 それで到着したのは夕暮れ時。


 少し離れた所から見た感じは普通の村だが、その中央には三階建ての要塞ビルが見える。

 モエギ団のビルとは違い、機関銃で守られた頑丈そうなビル要塞だった。


 このまま暗くなるのを待ってから攻撃するらしい。

 それまでは近くに監視を置いて、俺達本隊は離れた場所で野営する。

 敵が寝静まった頃合いをみて、夜襲を仕掛ける作戦らしいな。


 俺はもっと情報を知るために、こっそりリュウに斥候を頼んだ。

 しばらくするとリュウは頃合いを見て、暗闇の中へと消えて行く。

 

 それでリュウが戻って来たのは夜中の十二時頃だ。

 そしてリュウから斥候の報告。


「村の周囲は高さ二メートルの柵で囲まれていたぜ。村への侵入は難しくないんだけどよ、中央の要塞ビルがちょっと厄介だな。機関銃で守られていて、出入口は金属扉だったよ。ビル内への突入は難しいと思うぜ」


 これをバクレンに知らせても、恐らく気にしないで攻撃を仕掛けるんだろうな。

 かと言って、良い案など浮かばない。

 魔法を使えばいけるとは思うが、俺の秘密がバレるのは避けたい。

 さて、困ったぞ。







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