第23話 ビックランド勢力図






 リーダーらしき男がモエモエの名前を知っていた。

 モエモエがリーダーの男をオヤジと言っている。

 まさか父娘なのか?

 

 あり得るか。

 ビックランドが故郷とか言ってたしな。

 故郷に家族が居てもおかしくない。


 しかしこのギャング団っぽい連中のリーダーと親子とか、驚きを通り越して呆れてしまう。

 でも元の性格のモエモエだと「嘘だろ⁉」となるが、ヤンキーに変貌したモエモエを見ていると納得出来てしまう。


 しかし、このギャング団に囲まれている状況、モエモエが間に入ってくれないものか。

 そう考えていたら、モエモエが俺に話し掛けてきた。


「おっと、こっちはハコ社長達かよ。ふ〜ん、中々面白い組み合わせだな。あれ? もしかして戦いが始まるのか」


 面白がってんじゃねえよ!


「なあ、モエモエ。そっちの人達と知り合いなら、戦わないで話し合うように説得してくれないか。そうしてくれないとな、俺達はモエモエのオヤジさんを殺すことになるんだよ」


 その俺の言葉にオヤジさんである、リーダーの男の表情がピクリと動いた。


「おう、おう、言ってくれるじゃねえか。たった三人で何が出来るってんだよ」


 マズった。

 正直に言い過ぎたか。


 ギャング団の面々が銃を構える。

 だがそこでモエモエが動いた。

 瓦礫がれきの上からヒョイッと飛び降り、俺とギャング団の間に立った。


「はい、は〜い。喧嘩は終わりだよ。ほら、武器を仕舞えってんだよ!」


 モエモエの強い口調に、オヤジさんは部下に目で合図する。

 すると全員がすんなりと武器を収めた。


 モエモエ、強ええ。


 それを確認するとモエモエは俺の方へ振り返り、表情を和らげて言った。


「紹介するね。あの人が私のお父さんだよ。顔は恐いけどね、心は優しいよ……たぶん」


 “たぶん”なのかよ!


 しかし俺の知っている性格のモエモエに戻ったな。

 だが直ぐにギャング団の方へ振り返り、今度は俺達の紹介を始めた。


「オヤジ〜、あの人はよお、私をここまでバスで運んでくれたんだよ。変な真似すんじゃねえぞ」


 またもやヤンキーモエモエになったな。

 ああ、ややこしい!


 だけどこれで戦闘にならずに済む。


 しばらくモエモエとオヤジさんが話合いをしていたが、話が終わった時点でドカドカと俺の方へオヤジさんが歩いて来て手をかざす。


「あの子の父親でバクレンと呼ばれている。娘を助けてくれた上にここまで運んで来てくれたらしいな。改めて礼を言う」


 手の平返しだなと思いつつも、俺は出された手を握り返す。

 

「俺はバス会社をしている、ハコザキ。何かの縁で彼女が客になっただけの話。礼には及ばない」


「そうか。そろそろ日が暮れる。バスの修理はどうせ明日になるんだろう。それなら今日は我々の家で泊って行かないか。明日になったら俺達もバスの修理を手伝う事も出来る。大したもてなしも出来ないが、どうだ?」


 そこまで言われたら断れないだろ。

 

「そうか。なら、お言葉に甘えるとしよう」


 俺達は暗くなりかけた廃墟の中、彼らの後について行った。

 三十分ほどで彼らのアジトに到着した。


 崩れかけたビルがアジトらしい。

 周囲には鉄条網が張ってあり、多くの見張りがビルの窓から顔を出している。

 いかにもギャング団の棲家すみかっぽい。

 だが今にも崩れそうなビルには、ちょっと恐怖さえ覚える。

 

 俺達は案内されるがままに、朽ちかけたビルへと入って行った。

 ビルの中は外見よりさらに酷く、天井や壁が崩れ掛けていたりする。

 それを見たリュウもたまらず声を発した。


「おいおい、あれ見ろよ。ちょっとヤバくねえか」


 するとスズ。


「分かるっす。あの赤毛の女の尻っすよね。ヤバいっす!」


 スズの視線の先には若い女ギャング団がいた。

 そう言えば、運転席での捕虜に対してのスズの処罰がまだだったな……


 ビルの中は団員宿舎から調理場、それに倉庫やら武器庫まで区分けされていて銃眼もあり、さながら要塞ビルといった感じだ。

 ただしビルは朽ちかけている。


 俺達三人はひとつの部屋に案内された。

 テーブルと椅子しかない部屋で、あとからベットとなるマットと毛布が運ばれて来た。

 唯一有る窓は塞がれていて、カンテラの灯りだけが光源となっている。

 壁にはスプレー文字が書かれていて、誰がどう見てもギャング団のアジトだよな。


 部屋に案内されてしばらくすると、食堂に呼ばれた。

 

 食堂に案内されて入って行くとそこには幹部らしい連中が集められていて、大きなテーブルには土竜もぐら肉の串焼きと酒らしい瓶がいくつも置かれている。


 リーダーのバクレンが「席に座って乾杯しよう」と言ってきたので、俺達三人は指定された席に座る。

 そしてバクレンが俺達の紹介をする。


「彼らは我が娘の命の恩人だ。出来るだけ協力してやってくれ。まずは彼らの団長のハコザキ。それと右腕のリュウに左腕のスズ――」


 しばらくつまらない話が続き、その後やっと乾杯。

 荒くれどもとの晩さん会が始まった。

 串焼きだけかと思ったら、野菜と砂ネズミの串焼きも運ばれてくる。

 出された酒はワインらしいが、正直あまり旨くはない。

 

 酒が入ってくると、団員らの口も軽くなる。

 折角のチャンスだからと、この街について色々聞いてみた。

 まずは街での勢力図を一般団員に質問すると。


「勢力ねえ、まあ俺らが一番強いんけどよお。ちょっとウザいのがあってよお。それがスカル団って言ってな、他の街にも……うい~っぷ」


 まさかのスカル団。

 この街にまで勢力を伸ばしてやがったのか。


 話を聞くとスカル団は、ビックランドに元々あったツルギ団を傘下に治めて、この街での勢力を伸ばしてきたんだそうだ。

 バンローの街のスカル団が本拠地で、この街のスカル団は支部ってとこだな。

 あ、でもバンローの本拠地は潰したから、今じゃここが本拠地になるか。


 しかし酔っぱらってるから何でもしゃべるよな。

 この際だから色々聞いてみるか。

 

「君らは車やバイクは持ってないのか?」


「俺達はなあ、ヒック……遠出はしないから車は持ってないんだよ。でもなあ、スカル団の奴らは武装バスを持ってやがるんだよなあ」


 あいつらに武装バスがあるのかよ。

 トレーラーを潰してやったのに、まだ武装バスもあるとかどんだけ金持ってるんだ。

 

 男はさらに言葉を付け加える。


「しかもよお、武装バスは二台もありやがるんだよ。それでビックランドの北半分は奴らの縄張りだったんだよな。まあ、今じゃ街中は瓦礫がれきで走れねえがな。ワハハハ」


 バス二台だと!


 それはマズい。

 こっちは今の所は無しだからな。

 修理出来ても一台だし。


 街の中なら瓦礫がれきで車が入って来れない。だからといって街の外には出られないから、街の中での行動しか出来なくなったか。

 街の外でバスを修理中にでも見つかったら終わりだからな。

 しかしスカル団の奴ら、二台もバスを持っていたとは……羨ましすぎる!

 いっそのこと、奪ってやるか。


 そこへリュウがホロ酔いで近付いて来て、俺の右隣に座るや、耳元で悪徳業者の誘い文句の様な事を言ってきた。。

 

「ハコ社長、奴らのバスが手に入れば……フフフ。武装バス三台の大所帯。きっと、もうかりまっせ〜」


 うう、欲しい!


 さらに反対側にスズが座り、耳元で甘美な女声でささやいた。

 

「社長さ〜ん、新しいバス、買ってえ〜……っす」


 “っす”が無ければ完璧な誘い文句だったな。

 だが俺は堪えた!


 しかし、もう一人の刺客が俺の背中側から攻めてきた。


「しゃっちょさ〜ん。わたし〜、欲しい物があるの〜」


 いつもの柔らかい感じの方のモエモエだな。

 思わず俺も釣られて答えてしまう。


「何が欲しいんだい」


「ビックランドの北半分〜」


「は?」


「北半分が欲しいの〜」


 こ、こいつ……




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