第22話 盗賊団とモエモエ






 外からは建物で見えなかったのだが、村の中は思った以上に賑わいを見せていた。

 露店が所狭しと乱立し、人の通りもかなり多い。


 露店のオバちゃんに話を聞くと、街崩壊の原因はやはり土竜もぐらの群れによる通過だった。

 その際に多数の死者が出たようで、生き残った者のほとんどは街を出て行ったそうだ。

 この難民村に残ったのは、年寄りや体力の無い者やその家族だ。

 このスモールランド以外にも難民村がいくつかあるらしく、村によって売っている物に特色があるという。

 それでお互いの村を行き来して、足りない物をおぎなっているそうだ。


 一応だがモエ・モエギと言う名前に心当たりがないか聞いてみた。

 その返答は「さあ、知らないねえ」だった。

 元々ビックランドは、大きな街で住んでいる人も多かったのだ。

 知らなくて当然か。

 

 露店の品揃えを見るに、この村は水も食料も豊富なようだ。

 ただし売っている食料というのは、土竜もぐらの塩漬け肉や燻製くんせい肉が殆どで、ここではかなりの量が出回っている。

 群れの通過で戦った時に仕留めたのだろう。

 

 一通り露店を見たのだが、バスの修理パーツなど売っている店などなかった。

 この村の露店は食料と生活必需品、それに武器である小火器類の取り扱う店が多い。

 小火器は拳銃とライフル銃程度で、たまにアサルトライフルが売られているが弾薬はあまり売られていない。

 全部の露店を見て歩いたが、その中で自動車部品等を取り扱う店は全くなかった。

 

 こうなったら廃墟の街の中から探すしかない。

 街が崩壊してからまだ数ヶ月らしいから、大型車両のパーツなら残っていそうな気がする。


 仕方なく廃虚の街を彷徨うろついて、必要なパーツを探し始めた。

 意外と荒らされていない場所が多く残っている。

 バスがあれば根こそぎ持って行くんだが、徒歩ではそれも出来ない。


 村の人に車の整備場があった場所を聞いて、かなり歩き回ってみたが中々見つからない。

 元々の街をあまり知らない俺達が、廃墟と化した街を探すのにも限度があるか。


 それと街中をしばらく彷徨うろついて分かったのだが、怪しい奴らが多い。

 通常は街の外にいるはずの亜人や魔物が、ここぞとばかりに街中にまで入り込んでいる。

 余程のことが無い限り、リュウとスズが何とかしてくれると思うが、待ち伏せや罠が恐い。

 現に古典的な罠も発見したからな。

 ゴブリンがよく仕掛ける罠で、落とし穴の底に尖ったスパイクが仕掛けてある罠だ。

 

 罠にも警戒しなくちゃいけないとなると、進む速度も遅くなる。

 

 しばらくしてやっと車両整備工場を発見した。

 整備工場自体は半壊状態だが、予備パーツくらいは残っていそうだ。


 リュウには外で見張りを頼み、俺とスズの二人で中へと入る。

 狭い隙間から建物の中へと腹ばいで進み、砂だらけに成りながらも、何とか整備工場内へと潜入した。

 

 中は中腰でなら立てる空間があり、これはラッキーとか思っていたのだが、しばらくその状態で動き回ったらかなり腰が辛い。

 その甲斐あってか、欲しかったパーツを手に入れられた。

 これでバスが修理出来ると、意気揚々に建物から出たのだが、そのタイミングで多数の人間に囲まれた。


 俺達が出て来た建物を背に、半円状に包囲されている。

 見えているだけで八人。

 それ以外にも、倒壊した建物に隠れている奴もいるな。

 もちろん全員が武器を持っている。


 どうやら俺とスズが中へと入ったのを見て、それを全て知った上で待ち伏せしていたか。

 それで金目のモノを持って来たところでお出ましか。


 俺はリュウとスズに小声で伝えた。


「変に手を出すな。相手の出方を見る」


 まだ敵対するとは決まって無いからな。


 見れば奴らの身なりはあまり良く無い。

 見るからに盗賊っぽい。

 女も数人混じっている。

 少なくとも、真っ当な奴らじゃなさそうだ。

 

 そこでリーダーらしい男が大声で伝えてきた。

 距離にして十メートルほど。


「悪いがこの辺りは俺達の縄張りだ。盗ったもんは置いてってもらおうか!」


 やはりそういう事か。

 ヤクザやギャングのたぐいだろう。


 だが相手にするには、さすがに人数が多い。

 それに物陰に隠れている者がいる。

 中々用心深い奴らだ。


「仕方無い。スズ、持って来た物を出すんだ」


 するとリュウが小声で文句を言ってきた。


「こいつらの言いなりかよ」


 俺も小声で返す。


「多勢に無勢だ。二人とも、取り敢えず手出しはするなよ。少なくとも俺が手を出すまではな」


 リュウは渋々だが武器をしまい、ゆっくりと両手を挙げる。


 スズも整備場でもらって来た物を地面に投げ捨た。


 するとリーダーが言葉を付け加える。


「おい、おい。それだけじゃないだろ。武器も置いて行くんだよ!」


 やはりそうきたか。

 武器を取り上げられたら成す術が無くなる。

 そうなると俺達は生きたまま捕らえられて、奴隷商にでも売り飛ばされそうだな。


 仕方無い。


 俺は詠唱する。


 だが一度に魔法を掛けるには、相手が多すぎるし離れ過ぎる。

 

 ヤバそうな奴を選ぶ。

 リーダーを真っ先に潰すのは定石だ。

 それに装備が比較的に良さそうな奴。


 スズとリュウもそれに気が付いて、わざとらしい動きとなる。

 時間稼ぎだ。


 リュウが大声を出す。


「仕方ねえな。命は大切だからな〜」


 スズも声を張る。


「そうっすね〜。降参するっすよ〜!」


 そして俺が魔法を発動しようとした時だった。


 女の声。


「ああ〜、こんなとこにいたんだ〜。やだな〜、私一人だけ除け者なんてえ。ハコ社長~~」


 声のする方を見ると、瓦礫がれきの山の上に立つ少女が一人。

 防弾シールドと警棒を手にした見知った少女。


 それを見た俺は、思わず言葉にして叫んでしまった。


「バカッ、出て来るな、モエモエッ!」


 とは言ったものの、既に出て来ているんだよな。


 俺が叫んでしまった結果、魔法詠唱は遮断。

 

 しかしそこで予想外の展開が待ち受けていた。


 リーダーの男がモエモエを見て言った。


「まさか……モエなのか?」


 一瞬俺の頭の中で「何を言ってやがるのかな、このおっさん」と言う言葉が思い浮かぶが、それは口に出さずにこらえた。


 そしてモエモエがリーダーの男を見た途端だった。


「何だよ、オヤジじゃねえか。しぶとく生き残ってやがったのかよ〜」


 モエモエの言葉遣いと表情が変わった瞬間だった。





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