第21話 スモールランド





 モエモエが警棒の振動魔法が呪符されたカートリッジを使って、俺を助けてくれたようだ。


 だがモエモエの様子がいつもと違う。

 凶悪な表情をしている。

 それに言葉遣いもいつもと違う。


「モエモエ、助かったよ。で、いつもと雰囲気が違うような気がするんだが」


 そう質問してみたのだが、返ってきた言葉でさらに驚かせられた。


「はあ? うるせぇんだよ。てめえには関係ねえだろうが」


 返す言葉もありません。


 モエモエはそのまま防弾シールドと警棒を構え、武装トレーラーの方へ行ってしまった。


 俺は自分に治癒魔法を掛けて立ち上がる。

 そしてまずは、車内のスズと変異人の二人を見に行く。


 車内に入ると変異人の二人は、床に座れるまでには回復していた。

 軽く声を掛けた後、次に運転席のドアを開けた。

 

「スズ、大丈夫だったか……ってお前、何やってんだよ」


 運転席の狭い個室には、スズの他にもう一人居た。

 スカル団のメンバーだ。

 だが男ではなく女の団員だった。

 手は後出に縛られ猿ぐつわまでされ、その顔には恐怖の表情が張り付いている。


 縛られているってことは、恐らく捕虜なんだろうが、目の前にいるスズの行動があまりにおかしい。


 スズはと言うと肩の高さで両手を広げ、その指をいやらしくクネクネと動かし、今まさに捕虜の女に飛び掛かかろうとしている様にしか見えない。

 そのタイミングで俺がドアを開けてしまった構図だ。


 スズは一瞬固まったのだが、恐る恐る俺の方へ首を回し目を見開く。

 そしてそのまま身動きしなくなった。


「もう一度聞くが、ここで何をやってるんだ、スズさん?」


 追い打ちを掛けたのだが、スズは壊れた機械人形のように動かない。

 しばらく沈黙が続いたのだが、敢えて俺は黙って返答を待った。

 するとスズは何とか重い口を開く。


「あ、あ、あのっすね……こ、これはその……あれっす……説明がムズいっていうか……」


 少しいじめてやるか。


「理由があるなら聞いてやるぞ」


「て、敵が何人いるか聞こうと……」


「その両手の動きはそれに関係するのか?」


「うっ……こ、これは……その……そう、くすぐって吐かせようと……」


「ほほう、それならその下半身はどう説明する。膝までズボンを下ろす必要があるのか?」


 もちろん見えてる下着は女物。


「うっ……」


 スズのコメカミに汗が流れ、目が泳いでいる。


 もう少しお灸をすえたい所だが、スカル団の残党がまだ近くにいる。

 あまりゆっくりしてる場合でもないからな。

 それに新たな追手が来る可能性もある。


「……まあ良い。スズ、バスは捨てる。取り敢えずビックランドに逃げ込むぞ。直ぐに必要なものをまとめろ」


 するとスズが返答する。


「え、でもこいつはどうするっすか?」


 縛られた女、つまりスカル団の捕虜の事だ。


「外に転がしておけ!」


「マジっすか。もったいない……」


 その言葉、言っちゃうか。





 俺は変異人の二人とスズを連れて、ビックランドへと向かった。

 途中リュウが合流したのだが、モエモエは見掛けてていないという。


 ビックランドの壊れた防壁門をくぐると、廃墟と化した街が広がっている。


 俺が瓦礫がれきを調べてみると、壊れてからそれほど日にちは経っていないようだ。

 それに破壊のされ方に特長がある。

 俺は辺りを調べながらつぶやいた。


土竜もぐらの仕業だよ。それも一匹じゃなく群れだな」


 巨大化した土竜もぐらの仕業だろう。

 たまに大きな群れを作って行動したりする。

 巨大化した魔物が群れなんて作ったら、人間の建物なんてひとたまりもない。

 群れが通り過ぎるだけで崩壊する。

 群れの数によっては、街だって崩壊するのだ。


 しかしだ。

 街の住人全員が全滅とかはないだろ。

 どこかに生存者がいるはずだ。

 そうやって人間は、この世界で生き残って来たんだからな。


「良し皆、まずはバスの修理に使えるパーツを探す。それと生存者が居れば、色々と情報を聞けるかもしれない。まずは街の奥へと行ってみるか」

 

 そう俺が声を掛けると、リュウが怪訝けげんそうな顔で聞いてきた。


「モエモエは放っておいて良いのかよ」


「仕方あるまい。それに約束のビックランドまでは届けたからな」


 ビックランドへ届けるのが、モエモエとの契約。

 街がどんな状態だろうが、俺が乗客を目的地まで届けたことに意味がある。

 

「まあ、そりゃそうだけどよお。モエモエを一人にして大丈夫なのかよ」


 もっともな意見だ。


「それがな、あいつ恐らく二重人格なんだよ。そのもう一つの人格がヤンキー姉ちゃんでな。あのモエモエがだぞ、俺の目の前でスカル団の男をぶっ殺したんだよ」

 

 皆が信じられないといった表情をする。

 だがこの世界、そういう奴も少なくはない。

 逆に言えば、そう言う奴じゃないと、この世界は生き残れない。


 誰からも返答がないようなので、俺は歩き出す。

 今の俺にとっては、モエモエよりもバスの修理の方が優先するのだ。

 そして俺達は街の奥へと歩き出した。


 土竜もぐらの群れは防壁をくぐり抜け、街中を横切って行ったようだ。

 場所によっては、地形が恐ろしく変化している。


 しばらく歩くと、破壊されていない場所が見えて来た。

 街の壁際のほんの一画だけだが、そこには建物が残っている。

 煙も上がり、人の気配がある。

 建物以外に多数のテントま見えた。

 見た感じは難民村と言ったところか。


 近付いてみると、自衛団らしき人達が、その難民村を守っているのが見えた。

 

「おい、そこで止まれ!」

 

 近付いたら警告されてしまった。


「待て。俺達は怪しい者じゃない。バス会社をやっているんだが、街の入口近くで故障したんだ。バスの修理がしたいだけだ」


 そうは言っても、直ぐに警戒は解いてはくれない。

 自衛団の男がライフルを構えつつ指示を出す。


「両手を挙げてゆっくりこっちへ来い。変な真似しててみろ、即撃ち殺すからな!」


 近付くと急に「待て、止まれ!」と怒鳴られた。

 さらに言葉が続く。


「変異人がいるじゃねえか。その二人は中へは入れないぞ」

 

 そういうことか。

 変異人の二人を見ると、頷いて手を振りながら遠ざかって行く。

 どうやら変異人の二人とも、ここでお別れのようだ。

 元々この二人も、目的場所はビックランドだしな。

 俺達はちゃんと乗客を目的地まで送り届けた。

 問題無い。

 しかし呆気ないお別れだ。


 となると、リュウとスズと俺のいつもの三人だな。


 俺がバス会社の運行証明を見せると、自衛団の男達はころりと態度が変わった。

 そして俺達三人は、簡単な質問と入街税を支払い、難民村へと入る事が出来た。


 武器は取り上げられなかったのはちょっと驚いた。

 まあ大した武器は持って来てないがな。

 ライフル銃とショットガンとピストル程度だ。

 グレネード・ランチャーは持って行こうか迷ったのだが、水と食料を優先した。

 置いてきた荷物の殆どは、貨物室に入れてカギを掛けてきたが、盗もうと思えば盗まれてしまうだろう。


 この難民村の入口には看板が掛けられていて、そこには『スモールランド』と書かれていた。


 



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