第16話 ビル地下
俺は砂が落ちていく箇所に、そっと近付いた。
その下に空間があるなら、下手したら俺も落下の恐れがある。
良く観察すると、確かに下に空間がある時の砂の落ち方だ。
サラサラと砂が隙間へと落ちていく。
だが落ちていった場所が、魔物の巣の可能性もある。
「リュウ、ロープを持って来てくれるか」
ロープを確かめながらリュウに質問する。
「リュウ、行けそうか?」
リュウは砂の落ちて行く場所を慎重に確認しながら答える。
「ああ、任せておけ」
こういう時には、身体能力の高いリュウが適任だ。
俺はロープをリュウの腰に巻き付け、もう片方のロープの先を近くの
他の者は周囲の警戒だ。
リュウが徐々に穴へと近付き、砂を手で掻き分け始める。
そして動きが止まった。
「リュウ、どうした!」
俺が叫ぶとリュウ。
「社長、ビンゴだ!」
そんな言葉が返ってきた。
何か発見したんだろう。
「何がある?」
「ああ、コンクリートの建物だな。ちょっと待ってくれ。入れそうだ……」
コンクリートの建物、つまり過去の遺物という訳だ。
俺の「気をつけろよ」の言葉を待たずに、スルリと砂の中へ消えて行った。
ロープが急速に伸びていく。
俺は慌てて握っていたロープに力を込める。
変異人の二人も手伝ってくれ、何とかリュウが落下するのを防ぐ。
リュウめ、相変わらず無茶しやがる。
俺達は徐々にロープを下げていく。
しばらくすると、握っていたロープが緩む。
底に降り立ったみたいだ。
そしてリュウの声が響く。
「ハコ社長〜、デカいライト持って来てくれよ〜」
俺は大急ぎでライトの他にも、探索道具一式をバックパックに詰め込んで、砂の下にいるだろうリュウに投げ渡した。
穴の空いた砂から、灯りが漏れる。
そしてリュウの声が響いた。
「安全みたいだ〜、降りて来ても平気だぜ〜」
俺にも来いってことか。
ロープの番を変異人に任せて、俺もリュウの後を追って、砂の中へと入っていった。
地面に足を着くと、直ぐにライトで周囲を照らす。
「何だ、ここは……」
思わず声に出してしまうほどに、異常な光景だった。
朽ちかけた壁、所々は崩れていている箇所もある。
蜘蛛の巣がそこら中に張っている。
天井も崩れかかっていて、今にも落ちてきそうな雰囲気でもある。
ここは建物の中なのは間違いなさそうだ。
恐らく何かのビルの地下一階なんだろう。
その証拠に壁には“地下一階”の文字がある。
それは一階から上は消失しているという事だ。
リュウが周囲をライトで照らしながら言った。
「地下一階からスタートのビルらしいぜ。中々楽しそうなシュチュエーションだと思わねえか」
「ああ、そうだな。初めてのパターンだな。それに、手付かずだ。期待出来るかもしれないな」
俺は頭上の穴に向かって叫んだ。
「俺達は奥へ入るっ、上は頼んだぞ〜」
「はい、は〜い。任されたよ〜」
モエモエの声だ。
「リュウ、まずはこの階層から探索するぞ」
「ああ、分かってる。まずはこれを見てくれよ」
そう言いながらリュウは壁を指差す。
その壁にはこの階の見取り図が描かれていた。
手て見取り図を拭って汚れを取ると、ハッキリと地下一階と書かれている。
それによるとここは、地下一階にあるエレベーターホールらしい。
もちろんエレベーターは動かない。
その横にある一階に続く階段も、崩れていて使えない。
行ける所というと、この先にある通路だ。
ここから通路が伸びていて、その通路沿いに部屋が三つある。
ライトで照らすと確かに通路が続いている。
その突き当りが階段と描かれていた。
「リュウ、それじゃあ行ってみるか」
するとリュウは手で“お先にどうぞ”と合図する。
俺も負けずに両手で“お先にどうぞ”する。
無言の攻防を二、三回やったあと、お互いに後ろを向く。
「「じゃんけんホイ!」」
グーを出した俺の負けだ。
「くっそお、仕方ない。後方は任せたぞリュウ」
そう言って俺は、ポンプアクション式ショットガンにライトを固定すると、構えながら通路を進んだ。
まずは最初の部屋からだ。
こういう所にはネズミ系の魔物がよくいる。
病気を持っていたりするから注意が必要だが、熱処理すれば食料にもなる。
怖いのは魔物化した巨大生物や亜人。
俺は慎重に扉を少しだけ開けて、ショットガンを構えながら部屋の中をライトで照らす。
直ぐに閉められる体勢だ。
魔物が居れば、ライトの明かりに驚いて動くはず。
「動きはない。入るぞ」
そう言って俺は部屋の中へと入って行く。
目ぼしい物は何もなさそうだ。
代わりに糞がいくつもある。
ネズミ系魔物だろう。
どこから入ったのだろうか。
この部屋は諦めて通路に戻り、次の部屋を目指す。
次の部屋の扉が開いていた。
これは期待薄だな。
開いた扉に近付き、部屋の中をライトで照らす。
さっきの部屋よりも酷い有り様だった。
この部屋には魔物の糞だけでなく、何らかの骨が散乱している。
俺は部屋の中に入らずに、通路の先へ行こうとすると、リュウが声を掛けてきた。
「部屋ん中には入らないのかよ」
「あの骨が人間だった場合な、細菌とか、化学兵器による結果だとしたら、俺達も危険になるだろ。冒険はしたくないんだよ」
放射能は端末で探知出来るが、生物、化学兵器とかは無理だからだ。
それでリュウも納得したらしく「な〜るほど」と言って、再び俺の後ろを歩き出した。
そして三つ目の部屋。
扉は閉まっていた。
これは期待がもてるか。
しかし扉が開かない。
古くてガタがきてる感じではない。
そこで俺はニヤついてしまった。
後ろからリュウが俺を小突いてきた。
「ハコ社長、何ニヤついてんだよ。キモいぜ」
俺はショットガンを構えながら言った。
「この部屋、カギが掛けられてる」
リュウの返答を待たずに、俺はショットガンを連続でぶっ放した。
カギを破壊するためだ。
三発ほど叩き込んでから、扉を勢い良く蹴り飛ばす。
その勢いのまま、部屋の中へ突入した。
突入して直ぐ、入って左の壁に背を付ける。
後に続くリュウは右の壁に背を付けた。
部屋の仲を二人してライトで照らす。
毛布の上に人骨が横たわっていた。
周囲には空のペットボトルや、空き缶が散乱していた。
「食料が尽きたんだろうな……嫌なもんを見たな」
骨の大部分が変異している。
つまり変異人だ。
ここまで変異していると、街には入れない。
ここで一人寂しく朽ち果てたんだな。
リュウが漁り始めたのを見て声を掛けた。
「リュウ、放っておけ。細菌をもらいたいのか、先へ進むぞ」
リュウは舌打ちしつつも、俺の後に付いて来る。
通路に戻り階段口を目指す。
階段口の扉は直ぐだった。
扉には『備蓄庫階段』と書かれていた。
俺はリュウと顔を合わせてニンマリした。
「ビンゴだな」
「大当たりだぜ」
備蓄庫への階段ってことは、この先には保存食という宝の山があるってこと。
二人して早足で階段を降りる。
降りた所はエレベーターホール。
エレベーター以外に扉があり、閉まっている。
ってことは手付かずの可能性が大だ。
いつになく動きが良いリュウが、ライトでエレベーターホールをくまなく照らし「クリアー!」と宣言。
早く備蓄庫に行けと言っているのが、ビンビンに伝わってくる。
俺が扉の左に立つと、リュウが反対側に立つ。
扉に書かれた看板を手でこすると“備蓄庫”と書かれている。
二人してニンマリと笑った。
俺が手を延ばして扉の取っ手を捻る。
カギが掛かっている。
確実に手付かずのお宝が中にあると確信し、俺とリュウは再び目を合わせてニヤついた。
「リュウ、準備は良いか」
「とっくに出来てるぜ」
こうして俺達は、備蓄庫に突入するのだった。
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