第14話 突入









 俺はこの街にそう詳しい訳では無い。

 ましてや路地裏なんかは、もっと詳しくは無い。

 しかし、一つだけ分かる通りがある。

 下水通りという路地だ。


 下水通りは昔来た時に、高い金を払って教わった抜け道だ。

 あくまでも緊急時用だ。

 緊急時用だから、それはもう酷い所を通る。


「良し、ここを通るぞ。覚悟しておけよ」


 するとリュウとスズが顔をしかめる。


「くっせ〜ぞ、本当にここ通るのかよ。勘弁してくれよなあ」


 そうリュウが言えば、続いてスズも文句を垂れる。


「オエ〜、吐きそうっす。ここはマジで無理っすよお」


 リュウの背中から降りたモエモエも、その強烈な臭いに鼻を摘まむ。


「無理〜〜、オオエッ」


「文句言うな。ここを通れば安全だからな。ほれ、行くぞ……オエェッ」


 俺だって辛いのだ。


 この下水通りというのは、通り沿いに汚水や糞尿が流れる下水があり、その臭いが通りにも充満しているのである。

 それでついた名前が下水通りである。

 そういった状態な為に、この通り沿いは貧民街となっている。


 そんな道を通る者は、貧民街に住む者くらいだから安全という訳だ。

 ここを通れば、ハコバスの近くにショートカット出来る。


 しかし、この臭いの中で良く暮らせるものだ。

 俺だったら、食べ物が喉を通らないよ。


 文句を垂れながらも、何とか下水通りを抜けてメイン通りに出た。

 ハコバスは目の前だ。

 だがそう上手く事が進むはずもなく、あと少しというところで行く手を阻まれる。


「待て、スカル団がいる」


 数人のスカル団のメンバーが、駐車場を見張っているのが見える。

 恐らく殆どの駐車場に、部下を行かせて見張らせているのだろう。


 スカル団には、俺達の乗り物がバスというのは知られてはいないのだが、この街でバスは目立つ。

 駐車場にはトラックなどの大型車両が駐車していて、今は陰になってあまり目立たないが、出発しようものなら必ず確認されるだろう。

 だからといって、このまま隠れていたらいずれは見つかる。

 だったら強引に押し通るまでだ。


「リュウ、スズ、モエモエ、今から通りを渡る。渡ったらそのままバスまで走れ。俺は時間を稼ぐから駐車場を出た所で拾ってくれ。言っとくが、これは業務命令だ」


 すると業務命令というワードが効いたみたいだ。


「チッ、業務命令じゃあ仕方ねえ。モエモエは俺が連れて行くぜ」


 そうリュウが言えばスズも。


「了解っす。ハコ社長、気を付けてくださいっすね」

 

 素直に従ってくれた。


 そして頃合いを見て「良し、行けっ」と声を掛けた。


 スズとモエモエが目立たない様にと、うつ向いて通りを渡って行く。

 リュウは出来ない口笛を吹きながら、両手を頭の後ろで組み、そっぽを向きながら通りを渡る。


 リュウの演技は最低だな。

 逆に目立つじゃねえか。


 案の定、通りを渡る三人に目を向けるスカル団の見張り。


 そこで俺は直ぐに行動に出る。


 一度使うと制限が効かなくなるもので、ここでまた魔法を使ってしまった。


 見張りの足元をわずかに陥没させた。

 突然の出来事に慌てる見張り達。


「うわっ、あっぶねえ」

「おおっと、気を付けろ、陥没したぞ」


 魔法陣は小さかったからか、魔法だとは気付かれていない。

 その隙に通りを渡り切る三人。


 そして三人が乗り込むとバスは発進した。


「あれを見ろ!」

「やっぱりあのバスか」

「止めるんだ!」


 見張りは遂に銃を抜く。


 バスが発進しただけで、銃を抜くのかよ。


 見張り達が、大声を上げながらバスを止めようとする。

 見張りの一人が無線機を使って、仲間に連絡してやがる。

 くそ、これは最悪の展開になりそうだ。


 バスは制止を振り切り加速する。

 そこへ見張り達からの銃撃がバスを襲う。


 ああ、俺のバスがどんどんボロボロになっていく……


 俺は細道を抜けて先回りしてバスを待っていると、激しい銃撃を喰らいながらもバスが俺に近付く。

 速度を緩めたバスの取手に俺の手が掴まるや、バスのエンジンが唸りを上げて加速する。


 車内に入ると俺はヘッドセットを装着し、無線機に向かって言った。


「スズ、行き先変更。行き先はスカル団本部だ」


 スズが『は?』と口にするが直ぐに笑顔に変わり、無線を車内放送に切り替えて言った。


『次はスカル団本部、スカル団本部っす〜、お降りのお客様は停車ボタンを押して下さいっす』


 すると直ぐに停車ボタンが押された。


 モエモエだ。


 変異人の二人も、何故か武器の準備をしている。

 そして後部銃座にいるリュウから無線が入る。


『早く新しい機関銃を試させろや!』


 やる気満々だな。


 街中をバスが走ると、物凄い注目を浴びる。

 だがそんなことよりも今の俺は、スカル団に一泡吹かせたい。





 スカル団の本部は、昔と変わらない場所にあった。


 バスに気が付いたスカル団のメンバーが、こちらを指差して血相を変えている。

 短無線でバスの事を聞いたんだろう。

 俺は前部銃座から、その本部へ機関銃を乱射してやった。


 街中での機関銃の乱射は、さすがにこの街でも珍しいらしい。

 近隣住民らはパニックだ。

 だがもっとパニックなのは、スカル団本部にいた奴らだろう。

 まさかこっちから攻撃してくるとは思ってないだろうからな。


 そこでスカル団の敷地内にある、大きな倉庫が目に付いた。


「スズ、本部建物の隣りの倉庫へ突っ込め!」


『了解っす!』


 運転手のスズの嬉しそうな返事と共に、バスの進路が変わる。

 そしてバスが倉庫の薄壁をぶち破って、倉庫内へ侵入した。

 バスの正面が少し変形したが、正面装甲板とグリルガードのおかげで大分軽減している。


 倉庫内では荷物の整理をしていたのか、大量の荷物が積み上がっていた。

 そこで作業していた者は、バスの突入に驚いて逃げ出す。

 武器は持ってない様だから、そいつらは無視。

 近くにいた武器を持つ、スカル団メンバーに機関銃の照準を合わせる。


 俺より先にリュウが撃ち始めた。

 俺も負けずと引き金を引く。

 倉庫内に硝煙が立ち込める。

 ほとんど一方的な結末となった。

 敵は武器を使う前に倒されていく。


「今のうちだ、援護するから荷物を頂け!」


 俺の言葉に『ひゃっほ〜!』と言いながら、リュウが飛び降りる。

 そして逃げる敵に向けて、愛用の銃をぶっ放す。

 続いてモエモエと変異人の二人が降り立ち、手当たり次第に荷物の木箱をバスへと待ち込む。


「リュウッ、荷物を全部積み込めねーと、給料を払わねーぞ!」


 その俺の言葉で、やっとリュウが荷物の木箱に手を着ける。

 だがここで時間を掛けると、当然敵が集まって来る。

 仕方なく撤収の声を掛けた。


「そこまでだ。撤収、バスに乗れ!」


 俺の合図と同時にスカル団の新手が出現。

 機関銃で牽制射撃しつつ、全員が乗り込むと同時にバスは急発進した。










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