第13話 スペルキャスター









 いくら待ってもリュウ達三人は戻って来ない。

 どうせ露店回りでもしているんだろう。

 仕方ない、バスに戻って待つか。


 俺はそう考えて、バスの駐車スペースへと向かう。


 購入した機関銃を運ぶため、台車を借りた。

 使い終わったら駐車スペースに置いておけば、後で回収してくれるという。

 常連の特権だな。


 台車を引っ張りながら、何気なく周囲を觀察していたのだが、来る時より少し騒がしいことに気が付く。

 しかしこの街では珍しいことではない。


 あまり気にせず先を進んでいると、顔面が血だらけで、右足があらぬ方向へ曲がってしまっている男が視界に入る。

 そんな傷にも関わらず、ヘラヘラと笑いながら歩いている、頭のおかしな奴か。


 そのまま通り過ぎようとして、その男の頬に彫られたドクロが目に入った。


 スカル団だ。


 俺は目立たない様に人混みに紛れる。

 そいつが歩いて来た方向を見ると、人集ひとだかりが出来ている。

 

 ちょっと見てみますか。


 人を掻き分けてその中心へと進むと、スカル団の男が二人倒れている。

 一人は腹が引き裂かれ、内蔵をエグリ取られている。

 もう一人は手首を潰され、鼻をへし折られている。

 一人は確実に死んでいて、もう一人も瀕死状態だ。

 そんな事が出来る奴は一人しかいない。


 スズだ。

 

 スズの手は硬化する。

 まるで金属の様に。

 そして握力もロボットなみだ。

 間違いないな。

 って事は、スカル団に見つかったって事か。

 最悪の展開だ。


 今はとにかく、一刻も早くこの街を出るのが先決だ。

 俺は急ぎ足で通りを抜ける。

 時間との勝負になる。

 スカル団はきっとスズ達を探しているはずだ。

 リュウも一緒のはずだから、そう簡単にはやられはしないだろうが、モエモエがいる。

 モエモエは乗客だ。

 客に怪我をさせる訳にはいかない。


 俺は一旦バスに戻り、変異人の二人には事情を話して警戒してもらう。

 俺はというと、装備を整え再び街中へと向かった。


 しばらく探しているとスカル団のメンバー三人が、小走りでどこかに向うのを発見した。

 それに付いて行けば、モエモエのいる所にたどり着ける。

 俺はスカル団の後を付けて行った。


 すると、大通りに人集ひとだかりがあるのを見つけた。

 スカル団はそこへ向かっている。

 

 確定だな。

 あの騒ぎの中にいる。

 問題は、あの中からどうやって救い出すかだ。

 まずは状況を確認しないと。


 



  ◆ ◆ ◆





 その頃リュウ達は、大通りの真ん中でスカル団に囲まれていた。

 街の地理に乏しいリュウ達は、結局は多数の敵から逃げ切れなかったのだ。


「なあスズ、この状況ってよお、あれだな……俺達って、詰んでねえか?」


 珍しくリュウが弱気な発言をする。

 というのも、通りの前後をスカル団に塞がれているからだ。

 それも敵の数は一人や二人ではなく、軽く十五人を超えている。

 それもまだまだ集まって来ている。


 するとスズ。


「何を弱気な事言ってんすか。私達、無敵っすよ」


「なあ、スズ。俺の背中のモエモエ、忘れてねえか」


「あ……」


 するとモエモエ。


「ごめんなさいっ、足手まといだよね……」


 落ち込むモエモエにスズがフォローする。


「何言ってんすか。モエモエはハコバスの乗客っすよ。守るのが私達の役目っすからね」


 敵は全員が刃物や鈍器を手に持っている。

 人混みで銃は使えない。

 他の組連中に流れ弾が当たり、敵を増やすことを避ける為だ。


 そこでスカル団が動き始めた。

 後方の八人が距離を詰めると、それに合わせるように前方の八人もリュウ達に近付いて行く。


 完全に挟み撃ちだ。


 そして敵が前後数メートルの距離に迫る。

 リュウとスズは覚悟を決めて、背中合わせに構える。

 最悪は銃を使う覚悟だった。

 だがその時は、相手も銃を使う事になる。


 その時だった。


 後方から迫るスカル団の足元に、魔法陣が浮かんだ。

 

「な、なんだ」

「魔法陣じゃねえか!」

「どういう事だ!」


 突然の事にスカル団は慌てふためく。

 次の瞬間、魔法陣が発動した。


「うわっ」

「な、何だこれは!」

「ひゃあ、助けてくれ!」


 地面が突然陥没し、後方のスカル団の下半身が地中に嵌まってしまったのだ。


 野次馬達がザワつき始める。


 少しの間を置いてリュウが声を上げる。


「これって、ハコ社長の魔法だよな」

 

 続いてスズも叫ぶ。


「私もそう思ったっす!」


 前方から迫るスカル団は、見たこと無い光景に足が止まる。


 彼らの一人がつぶやいた。


「スペルキャスターがいやがる……」


 魔法の発動には魔法陣を描いてそこに魔力を注ぐのだが、基本的には魔法陣は手描きである。

 それを描かずに詠唱だけで魔法陣を発現出来る者は、ほとんどいない。

 その詠唱という方法で魔法行使出来る者を“スペルキャスター”と呼んでいる。

 その非常に珍しい存在の一人が、ハコ社長と呼ばれているヤマト・ハコザキだった。


 前方のスカル団はスペルキャスターという言葉で、もはや前に進む事が出来なくなる。

 前に出れば、地面に下半身を埋められた仲間の二の舞、もしかするとそれ以上の惨劇が待っているかもしれない。

 それ程までに、スペルキャスターという存在は恐れられている。

 せめて姿が見えれば対応出来るのだが、スペルキャスターの姿は見物人の中に紛れて判別がつかない。


 つまりお手上げという訳だ。


「スズ、今がチャンスだ。逃げるぞ!」


 リュウ達は、下半身が埋まって大騒ぎするスカル団の横を通り抜ける。

 抜け出す事に必死な彼らは、横を通るリュウ達に構う余裕などない。


 その先には「こっちだ!」と手を振るハコ社長がいた。


「ありがてえ!」

「助かったっす!」

「へえ、ハコ社長って凄い人だったんだぁ」





  ◆ ◆ ◆





 何とか上手くいったようだ。


 スペルキャスターは狙われるから、あまり人前での魔法は避けなければいけない。

 スペルキャスターという存在を生け捕りにすれば、いくらでも買い手がいるからだ。

 だがそう簡単に生け捕りには出来ない。

 なんたって、言葉を発するだけで魔法が使えるのだから。


 あとはこの街から逃げ出すだけだ。


「リュウ、スズ、付いて来い!」


 俺達は近道をする為に、路地裏へと入って行った。









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