第10話 無法者の街バンロー
バンローの街が見えて来た。
この街に立ち寄るバスなど聞いたことない。
それくらい危険な街だ。
そのかわり物騒な物を買いたい時は、この街が一番重宝する。
大抵の物は手に入るし、安い上に品揃えも多い。
この街に来る者は、自前の乗り物で来るのが定番となっている為、俺達のバスは非常に目立つ。
この街には定期バスは来ないからだ。
その代わりトラックの出入りは激しい。
といってもバンローの街専用のトラックが殆んどだ。
車体にはバンローのマークがデカデカと描かれている。
このマークの車両を襲う者は誰もいない。
襲ったが最後、ろくな死に方をしない。
つまりあらゆる方法を駆使して殺される。
というのも、この街へ流れる輸送物資の殆んどが、街で勢力を持つ団体の所有物だからだ。
そんな物資に手を出したら最後という訳だ。
俺達はそんな街へと入って行った。
人の数は結構多い。
やはりバスは珍しいらしく、かなり注目を浴びた。
バスは一旦駐停車場へと預ける。
もちろん金は取られるのだが、それでも無人にして置けるほど治安はよろしくない。
特にこのバスにはバンローのマークが描かれていないからな。
止まっていたら真っ先に狙われる。
幸いな事に、変異人の二人はバスに残ってくれるという。
あの二人なら俺も安心出来る。
俺とリュウ、スズ、モエモエの四人がバスから降りると、直ぐに怪しそうな男達がバスに近付いて行った。
バスのパーツを剥ぎ取って売りさばこうとする奴等だろう。
そこへ変異人の二人が屋根の上に上がり、周囲に睨みを効かせる。
すると「ちっ」と舌打ちをして男達は居なくなった。
大丈夫そうだ。
変異人は一般人にしてみたら脅威の存在だ。
だから忌み嫌われるが、見張りにはもってこいだ。
しかし一難去ってまた一難ってやつだ。
今度は俺達が目を付けられた。
通りを歩いていると、ハゲ頭の厳つい野郎が四人、ニヤニヤしながら近付いて来る。
絶対にイチャモンを付けてきて、恐喝や強盗をしてくるギャング団のチンピラだ。
街の外の人間は、こういった奴らに直ぐ目を付けられるのだ。
俺はリュウとスズに小声で告げる。
「面倒な事になるから、この街で騒ぎは起こすなよ」
「はいはいっ」
「分かってるっすよ」
一応ハゲ頭達を大きく避けて道の端に寄ってみた。
すると奴らも同じ方向に寄る。
俺としてはトラブルは避けたい。
特にこの街ではだ。
だから再び避けて通ろうとする。
しかし奴らの一人が「おおっと」とかいいながら、ふらついて俺に近付いて来た。
恐らく自分からぶつかってきて、イチャモンをつけてくるつもりだろう。
だが、俺にぶつかる前にそいつは「ふげっ」とか言いながら吹っ飛ぶ。
「てめぇ、目障りなんだよっ」
リュウである。
飛び蹴りを放ったのだ。
騒ぎを起こすなと、忠告したばかりなのにこれである。
ハゲ頭の男三人はそれが想定外だったようで、
まさか先に手を出して来るとは思ってなかったようだ。
しかし直ぐに我に返り、二人が吹っ飛ばされた男を助け起こす。
一応仲間の事を思いやる気持ちはあるようだ。
残った一人の男がリュウに向かって怒鳴りつけた。
「いきなり何しやがる!」
「はあ? やられる前に行動するなんてよお、ごく当たり前のことだろ。殺された後には攻撃は出来ないだろうが。だからお前らが喧嘩吹っ掛けて来る前によお、先制攻撃をしただけだろ。くだくだ騒ぐんじゃねえよ。俺、間違ったこと言ってるか?」
図星だったのだろう。
それでもハゲ頭の男達はおさまりが着かない様子だ。
当然だよな。
俺達が先に手を出しているんだからな。
これは間違いなく喧嘩が起こる流れだ。
その前に俺は一言リュウに言っておく。
「リュウ、分かってるとは思うが殺しは無しだ。忘れんなよ、ここはバンローの街だ」
リュウは舌打ちをしてから「分かったよ」と返答。
そして男達に向き合う。
「あまり時間を掛けたくねえ。さっさとやり合おうぜ」
そう言ってリュウは棒立ちのまま、指をクイクイッと動かし挑発した。
「てめえっ、舐めてんじゃねえぞ!」
男の一人がリュウに殴り掛かる。
しかしリュウは戦闘態勢もとらないまま、肩を引く様に軽く体を捻った。
「うおっと、っと」
殴り掛かった男の拳は
「ゲス男が汚い手で触るんじゃないっすよ!」
そう怒鳴りながらスズの
「ぐぎっ」
アゴを破壊された男は、その場にしゃがみ込むように倒れる。
それを笑いながらリュウは言った。
「面白いやられ方だな。ちょっと気に入ったぜ」
それを見た二人の男がこれはマズいと見たのか、気を失っている二人を抱えて逃げ出した。
「くそ、その顔、忘れねえからな!」
こうやって敵が増えていく。
リュウとスズを雇ってからは、身の安全と引き換えに、敵が増えるというデメリットがあるんだよな。
仕方ないか。
俺達の周囲に空間が出来ていたが、それも直ぐに通りの人々に埋め尽くされる。
まるで何も無かったかのように。
殺しはさすがに駄目だが、この程度の喧嘩はバンローの街では日常の出来事だ。
だけど来て早々にトラブルか。
まいったね。
「リュウ、スズ、あまり騒ぎを起こすな。目を付けられる」
するとスズ。
「え~、でもっすよ。向こうから仕掛けてこようとしたっすよ?」
そこでモエモエまでが呼応する。
「そうそう、ぜーったいにあっちが悪いよね」
そしてリュウ。
「ハコ社長、大丈夫だよ。俺が見たところだと、周囲に“あいつら”はいなかったぜ。安心しな」
「ふん、なら良いんだがな」
俺がそう返すと、不思議に思ったモエモエが疑問を口にした。
「ね、ね、“あいつら”って誰のこと?」
そこで簡単に説明する。
「この街ではな、関わっちゃいけない連中が幾つかあるんだがけどな。特に俺達を目の敵にしてる奴らがいるんだよ。それがドクロのタトゥーを入れてる奴らでな。そいつらに見つかると厄介なんだよ」
「ふ~ん、でもこっちが何もしなくてもだよ、さっきみたいに向こうから何かやってきたらさあ、どうしようもないじゃん」
「ああ、そうだな。だけど逃げるという手があるだろ。わざわざ喧嘩しなくても逃げられるなら、それが最善の策って事もあるんだよ」
「ええ~、でもだよ。さっきのツルン頭の人達の場合はどうやって逃げるの?」
うーん、確かにそうだよな。
リュウが手を出さなかったら、俺がどうにかしてたかもしれないよな。
「そうだな、あいつらは別に逃げなくても大丈夫な連中だからな。あんなユスリやタカリを仕掛けて来るような奴らは、下っ端のギャング団だからな。多少ボコっても問題ない。早い話が、ドクロのタトゥー連中に見つからなければ良いんだよ」
そんな話をしながら歩いている内に、目的の場所に到着した。
露店が立ち並ぶ広場だ。
それもこの場所は、武器類専門の露店しかない場所である。
だが気を付けないといけないのは、ここで売られている武器はピンキリということ。
見る目が無いと下手な物を掴まされる。
当然のことながら、買った後のクレームなどは受け付けてくれない。
だからある程度の武器への知識が必要なのと、どの露店の品が良いか悪いかを知って置く必要がある。
俺はもう何度もここに来ていてそれが分かっているから、馴染みの露天商へと真直ぐに向かう。
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