第11話 迷子とスカル団
露店が建ち並ぶ中を歩いて行くと、前に来た時よりも店数が多くなっていた。
その証拠に、露店同士の間隔が狭くなっている。
それに客も増えて賑わっている。
だがどの露店も、似たり寄ったりの品揃えだ。
一目見て粗悪品だと分かる銃を売っている露店も、結構目立つように増えている。
リボルバー拳銃だけを置く店。
散弾銃専門の店。
ナイフ専門の店。
ここは武器の宝庫といっても良い。
そんな一画にある馴染みの露店を
「よお、バーバラ婆さん」
俺が店の人物に声を掛けると、ハッとした様子でこちらを見た。
老齢の白髪の女性だ。
ブカブカのローブの様なワンピースを着ているのだが、おとぎ話に出て来る魔法使いの婆さんのようにも見える。
驚きで丸くなった目で俺を凝視するその婆さんは、俺の若い頃を知る人物でもあり、色々と世話になった恩人でもある。
「ヤマトなのかい?」
「ああ、久しぶりだな」
「まあまあ、何年ぶりかねえ。元気にしてたかい」
「何とか元気にやってるよ。そっちも元気そうだな。それでな、今日は買い物に来てやったぞ」
「あんた、まさかまた賞金稼ぎでも始めたんじゃないだろうね」
俺は以前に、賞金稼ぎをやっていたことがあった。
何度も死にかけ、この婆さんに助けられた過去がある。
一見優しそうなこのバーバラ婆さんだが、こな辺ではマシンガン・バーバラなどと呼ばれていて、怒らすとマシンガンを乱射する事で有名だ。
その名前に違わず、この露店では機関銃を専門で取り扱っている。
機関銃に関してなら、揃わない物はないといえる。
それに関してのルートに顔が利くため、どんな品でも仕入れてくるのだ。
「賞金稼ぎはもうやってないよ。今日はバスに取り付ける機関銃を買いに来たんだよ。前にも言ったけど、今はバス会社をやってるんだって」
「ああ、そうかい、そうかい。そうだったねえ。なら、ちょうど良いのがあるよ」
そう言って見せられたのは、口径が12.7mmの重機関銃だ。
確かにこの類の機関銃は、もの凄い威力がある。
軽装甲の相手だったとしても、十分に対抗出来てしまう程である。
欲しい。
しかし値札を見て
「……ええと、そうだな。確かにそいつも悪くはない。だけどな、今日買いに来たのは7.7mm口径クラスの普通の機関銃なんだよ」
すると婆さんは「そうかい、そうかい」と言いながらも、大きな箱のフタを開けて見せた。
「ほれ、口径7.62mmのベルト給弾式の機関銃だよ。どうだい?」
値札を見れば高級品である。
ボケてるのかワザとやっているのか、判断がとても難しい。
年齢的にもボケていてもおかしくないし、ワザとやっていてもこの婆さんなら有り得る。
俺は店にある機関銃をざっと見回し、値段的にも手頃な品を指差す。
「婆さん、これなんかはよさそうだが、どうなんだ?」
俺は選んだのは構造が比較的簡単で、コピーし易い銃だ。
この世界にオリジナル品などもう無い。
全ての銃は職人の手作りの、いわばワンオフ品だ。
それは元々あった品のコピーなので、コピーし易く構造が簡単な品の方が失敗が少いのだ。
すると婆さんは小さく「ちっ」と舌打ちしたかと思ったら、笑顔で答えた。
「そうだね、さすがヤマトだね。見る目は衰えちゃいないねえ。作った職人もベテランだよ。たげど箱型弾倉って欠点があるけどねえ。まあ値段も安いし、良いと思うよ」
婆さんのお墨付きだ。
色々とイジらせてもらったが、特に問題なさそうだ。
予備の箱弾倉と一緒に購入した。
最後に婆さんに質問する。
「何だか客と露店が増えたよな。何かあったのか?」
すると婆さん。
「ああ、この街の近くでトゲネズミの群れが発生してねえ。ハンター達が集まって、この街も少し潤い始めたんだよ」
トゲネズミの肉は高く売れる。
それを嗅ぎつけたハンター共が、こぞって集まって来たようだ。
この辺りに街はここしかないからな。
無ければこんな街でも人は集まる。
俺達もそのトゲネズミを狩っていきたいところだが、ただでさえ予定よりも運行が遅れている。
道草を食っている暇はない。
「情報助かるよ。じゃあまたな」
そう言って店を立ち去ろうと振り返るのだが、そこには誰もいない。
そこにいるはずの、部下である社員がいない。
「リュウにスズめ、どこ行きやがった」
乗車客であるモエモエもいない。
危険な街だってのに、困った奴らだ。
◆ ◆ ◆
その頃三人はというと。
「スズさん、本当に大丈夫なんだよねえ?」
モエモエが心配そうにスズに聞いたのだが、当のスズの返答は歯切れが悪い。
「う〜ん、こっちだったはずなんすけどねえ」
たまらずリュウも口を挟む。
「おいスズ、まさか迷ったとか言うんじゃねえだろうな」
はっきり言って三人は、道に迷っているのだ。
そんなスズがリュウに反論する。
「元はと言えばっすよ、リュウが拳銃が見たいとか言うからっすよね〜」
「なに人のせいにしやがってんだよ。初めに甘い物食いたいとか言い出したのはよお、そこのお嬢ちゃんだぞ」
リュウがアゴでモエモエを差す。
すると一瞬ビクンとするモエモエだが、直ぐに反論する。
「え〜、待ってって。違う、違う。先にスズさんが若い娘のグラビア本売ってないか探すっす、とか言ったんだよ」
罪のなすり合いの堂々巡りだ。
そして三人は同時に「はぁ〜」と大きな溜め息をつくのだった。
そんな時、十字路に差し掛かった所で、出会い頭にモエモエが一人の男とぶつかる。
「あいたっ、ご、ごめんなさい」
鼻っ面を押さえながら謝るモエモエ。
すると男が上からモエモエを睨み付ける。
「ちゃんと前見て歩けよ、嬢ちゃん」
男はぶつかった相手が少女だったからか、特に問題なく立ち去ろうとした。
リュウやスズも、特に何も考えずに先を行こうと歩き出すのだが、男が急に振り向いて声を発した。
「おい、待てよ。そこの兄ちゃん」
声を掛けられて振り向く三人。
男達は全部で四人。
強面の人間種だが、この街ではどこにでもいる類の人種だ。
ただその内の何人かは、細菌兵器の影響だろうか、皮膚が変色したり、骨格が変形したりしている。
ただ、四人には共通点があった。
――――“ドクロのタトゥー”
声を掛けた男の左頬には、真っ赤なドクロの入れ墨があった。
「おい、そこの兄ちゃん、どっかで俺と会ったことねえか」
リュウとスズに緊張が走る。
この街で絶対に出会ってはいけない相手、“スカル”団のメンバーの印だ。
他のメンバーも、首から上にドクロのタトゥーがある。
そのドクロにはすべて番号が入っていて、話し掛けて来た男の番号が一番若く、二十五番と入っていた。
他のメンバーはすぺて百番以降だ。
一番ビビってるのはモエモエなのだが、そういった時の逃げ方は上手い。
モエモエはゆっくりとした自然な動作で、リュウの後ろへとそっと隠れた。
そしてリュウはこの場をどうやって切り抜けるか、必死に考えていた。
騒ぎを起こせば、自分達がこの街に居ることがバレるからだ。
もしバレたら、多数いるスカル団メンバーから追われる事になる。
それがマズいってことくらいは、さすがのリュウでも理解している。
いつもは喧嘩早いリュウだが、この場面では思考を巡らす。
そしてスズもこの状況に対し、真剣な表情で考えを巡らしていた。
そこでリュウが男の質問に答える。
「会ったことはねえと思うぜ。少なくとも俺はあんたに初めて会う」
すると二十五番の男。
「おまえじゃない、そっちの兄ちゃんだ」
そう言ってスズを指差す。
男の恰好をしているスズが、少年だと思っているのだ。
だがスズがしゃべれば女とバレる。
男の恰好をした女となると、そうそういるもんじゃない。
そうなると、この男が何か思い出す可能性が高い。
そう考えてリュウが、スズの代わりに会話に割り込もうとした時だった。
「あんたなんか知らないっすよ」
リュウより先に、スズが声を発していた。
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