第8話 ドラゴンブレス
投げ込まれた手榴弾に気が付いたリュウが、横っ飛びに銃座から離れた。
「くそがっ!」
その途端、手榴弾が炸裂した。
リュウは何とか生きてるようだが、銃座とそこに据えてある機関銃は使い物にはならなくなった。
賊達は大喜びだ。
だがこれで終わりではない。
奴らにとって、これは手始めだ。
俺のいる前方銃座は後方へ撃てない。
奴等はそれが分かっていて、オートバイは次々にバスの後方へと移動する。
バスの後部には貨物室を設けているから、客席からも射撃できない。
死角となってしまった訳だ。
俺は銃座から乗り出し、リュウに向かって大声を上げる。
「リュウ、無事か!」
「ああ、何とかな!」
「奴等、次は乗り込んで来るぞ。備えておけよ!」
恐らくオートバイで接近して来て、タンデムシートに座る片割れが、バスの後方から乗り移って来る作戦だろう。
だが俺は前方を走る機動車両のおかげで、銃座からは離れられない。
敵が運転席には撃ってこないところをみると、積み荷だけでなくバス自体を手に入れようとしているのか。
そこへ思った通りオートバイが一台、後方から接近して来た。
そしてやはり接近して直ぐに、一人がバスに乗り移る。
「ヒャッハー、一番乗りだぜえ!」
乗り移って来たのは、髪を赤く染めたモヒカン男だ。
そいつは直ぐに腰から大きなスパナを取り出し、バスの前方へと歩き出した。
だがその前に、リュウがモヒカン男の前に立ちはだかる。
「おいおいおいおい、俺の事を無視すんじゃねえよ、モヒカン野郎」
するとモヒカン男はおどけてみせた。
「おっと、まだ生きてたか。そりぁすまん。なら直ぐに楽にさせてやるよ、死ね!」
モヒカン男がスパナを振り上げた。
だがリュウの方が断然早い。
リュウは振り下ろされたスパナを難なく避けた。
そしてモヒカン男の目の前にヒョッコリ現れる。
「ふぁっ、ち、近っ!」
「残念だったな、これで終わりだぜ」
そう言ってリュウは、モヒカン男に向かって息を吹きかけた。
いや、息なんてものじゃない。
「ぐわっ!」
悲鳴を上げたかと思えば、モヒカン男の顔が溶け始めた。
ちょうどそのタイミングで、別のオートバイから男が乗り込んできた。
今度は青い髪のモヒカン野郎だ。
その青モヒカン、顔が溶けてバスから落ちていく仲間を見てつぶやく。
「“竜の息吹き”のリュウじゃねえか……」
そう、リュウのもうひとつの呼名が“竜の息吹き《ドラゴンブレス》”だ。
リュウはミュータントとして生まれた特殊能力者だ。
まるでおとぎ話のドラゴンブレスのような事ができる、バトルジャンキーなのだ。
「何だ青モヒカンのくせによお、俺の事知ってんのかよ」
そう言いながらリュウは腰の短剣に手を伸ばす。
ミュータントな上にバトルジャンキーとか、こいつは魔物以上な存在だ。
青モヒカンはリュウの存在を知って、完全に腰が引けてしまっている。
そして怯えた表情で言った。
「何てお前がいるんだよ、そんなの聞いてないぞ」
しかしそこへ三台目のオートバイが接近し、賊の一人が乗り移って来た。
今度は金色に髪を染めたモヒカン男だ。
「おっと、そこにいるのは“竜の息吹き”じゃねえか」
金モヒカンは
金モヒカンを見ながらリュウが答える。
「てめえ、生きてやがったのか」
その言葉で俺も思い出した。
前にもこいつは別の賊の集団で、このバスを襲ったのだ。
その時は、唯一バスに乗り移って来た男をリュウが叩き落として、逆に全滅させてやったのだ。
その時に叩き落とされた男が、今ここにいる金モヒカンだ。
「おうよ、生きてたんだよ。大変だったんだぜ? 見ろよ、お前のそのブレスで溶かされたこの腕をよ」
金モヒカンは左腕の袖をまくって見せた。
だが普通の義手ではない。
その証拠に魔方陣が描かれている。
それを見たリュウが、ヘラヘラしながら返答した。
「へっへっへっ。中々どうして、似合ってんじゃねえかそのオモチャ」
「言ってくれんじゃねえか。この負傷した体で荒野を三日も
「ほ~、そいつ面白いな。何を貰えるんだ?」
「けっ、ヘラヘラしてられんのも今のうちだぞ。こいつを受けてみろっ!」
そう叫んだ金モヒカンは、義手をリュウに向けた。
魔方陣の描かれた義手、何か魔法攻撃をしてくるに違いない。
「ふごっ!」
しかし、金モヒカンは何もせずに白目を剥いて、その場に倒れ込んだ。
俺がスリングで放った鉄球が、金モヒカンのアゴを直撃したからだ。
「お前ら、話が長いんだよっ」
俺はそうリュウを怒鳴りつけて、スリングの革をしまう。
二人のやり取りが長過ぎて、我慢できなかったのだ。
そして再び前方の銃座に入り、機動車に視線を合わせる。
俺の特技はスリング投石での攻撃だ。
銃は余り上手くはないが、スリングは得意なのだ。
ただしスリングの射程は短い。
リュウは余計な事をと言いたげにタメ息を突く。
そして金モヒカンに止めを差そうと近付く。
そこでバスが激しく揺れた。
「おっ、あっぶなえっての!」
リュウはしゃがみこんで何とかバランスを保つが、倒れたままの金モヒカンは、その揺れでバスから転がり落ちた。
リュウがつぶやく。
「また逃がしちまったじゃねえか……」
だが金モヒカンが排除されたからか、賊の車両らは徐々に遠ざかって行く。
俺は改めて後部の破壊された機関銃座を眺めながらつぶやく。
「修理に幾らかかるんだか。頭が痛くなってきたよ」
するとリュウ。
「この際だからよお、もっと強力な武器を積もうぜ。巡航ミサイルとか」
「そんな金はねえ!」
安全な場所まで移動した所で、バスの点検をすることにした、
防弾はしているとはいえ、かなりの敵弾を受けたからだ。
バスを一端止めて被害状況を調べたところ、冷却装置に被害があり、この場では完全に直らないと判明。
それでバスは修理の為、一番近くの街を目指す事になってしまった。
これで到着予定時間が変わってしまうな。
だがそれを気にする者は誰もいない。
バスなんて、そんなものだからだ。
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