第7話 賊の襲撃









 まずは獲物を解体しなくちゃいけない。

 全員で手分けして解体した。


 解体中の血の匂いに誘われて、魔物達が集まるのを追い払うのも一苦労だ。

 これにはお客である変異人の二人がやってくれた。


 肉は痛まないように表面を焼いていく。

 焚き火などする余裕もないから、それは魔道具の火炎放射器を使う。

 魔道具の火炎放射器ならば火力を微妙に加減できるから、こういった用途にも使えて便利だ。

 しかしこれにはテクニックが必要で、慣れないと丸焦げとなる。

 これもリュウに任せとけば安心である。


 数時間掛りで何とか処理と積み込みを終えて、バスは何事もなかったかの様に走り出した。


 再び退屈な時間の始まりだ。


 ただし、土竜もぐらの肉が大量にあるのだ。

 肉は食い放題にした。

 どうせ空気に触れている所から順に痛んでくる。

 腐る前に食べるに限る。

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 それも一日で飽きた。


 誰もが飽きて無口になってきた頃だった。

 後方銃座のリュウが無線で告げてきた。


『何かが近づいて来るな』


 俺が振り返って後方を見ると、確かに地面の上を走る砂埃が幾つも見える。

 考えられるのは輸送トラックとその護衛車両群。

 もうひとつ考えられるのは、車両を使う盗賊グループだ。


 後者の場合はかなりまずい状況となる。


 直ぐに車内放送で皆に知らせた。

 それと変異人の二人にも貨物室に預けさせた武器を解禁する。

 奴らの様な盗賊群は、車両に加えて銃などの飛び道具を持っている。

 追いつかれたら厄介この上ない。

 ここは客にも手を借りるのがベスト。

 あの変異人二人なら十分に戦力になる。


 しかしこういった場合、逃げ切れるはずもないのが現実だ。

 武装が施された大型車両が、小型軽量の車両を振り切れるほどの速度が出るはずもない。

 徐々に見えて来たのはオートバイが四台と自動車が二両。

 オートバイは二人乗りで、タンデムシートに乗る奴が乗り移ってきたり、攻撃を仕掛けて来るのが定番だ。

 

 先に追いついたオートバイは、バスの左右に分かれて行く。

 しかしオートバイはバスとの距離を十分に取りつつ、さらには上手く地形を利用して隠れながら追走してくる。


 リュウが時々銃座から牽制射撃を放つが、敵は戦い慣れているのか全く怯まない。


『くっそ、忌々しい奴らだ。ありゃあ盗賊稼業専門の奴らだな。ちょっと気を付けた方が良いぜ』


 あのリュウがそんな事を言うほどだ。

 と言う事は、奴らはベテラン盗賊。


 後方に付いていた車二台が接近して来た。

 遂に仕掛けてくる気だ。


 一台はピックアップトラック型で、荷台に機関銃を積んでいる。

 もう一台は軍隊仕様の機動車両っぽいが、搭載武器は見えない。

 しかし軍隊仕様なら、防弾装備もある可能性が高い。


 その軍隊仕様の機動車両が一気に速度を上げる。


 バスの側面から前に出る気なんだろう。


 それをリュウが黙って見逃すはずもない。


 リュウがその機動車両に機関銃を撃ち始めた。

 しかしほぼ同時に、後方に付いていたピックアップトラックの機関銃が、リュウのいる機関銃座に向かって唸りを上げた。


 機関銃座の周囲に張り巡らした防護版に敵弾が当たり、幾つもの火花を飛ばす。


『うっわ、これじゃ頭を上げられねえぞ!』


 無線からリュウの声が響く。


 これは出し惜しみは出来ないな。

 そう判断した俺は、タイミングをはかって武器制御ボタンのひとつを押した。


 するとバスの後尾の箱の蓋が開く。


 箱の中からは丸い物体が幾つも転がり落ちる。

 地面に放たれたのは手の平サイズのもの。


 後方のピックアップトラックは、慌ててそれを避けようと試みる。


 しかし無駄だ。


 破裂音と共にピックアップトラックの車輪がひとつ吹き飛んだ。


 さらに爆発音は続く。


 箱から放ったのは地雷だ。

 ただしセンサー付き地雷。

 踏まなくても車が近づくだけで反応する地雷である。


 車輪をひとつ無くしたピックアップトラックは、車体を派手に横転させながら遠ざかって行く。

 さらに爆発は響き、ピックアップトラックから火の手が上がった。


『ひゃっほー! さすがハコ社長だぜ!』


 リュウが機関銃をぶっ放しながら伝えて来た。


 それで盗賊どもが怯んで逃げてくれれば良いのだが、どうやら残ったオートバイと機動車両で攻めて来るようだ。

 往生際が悪い奴らだ。


 盗賊の機動車両が大回りにバスの前に出る。


 機関銃で牽制射撃をしたが、残念ながらそれを防げなかった。

 バスの前を盗賊の機動車両が走る。


 これで頭を抑えられた訳だ。

 そうなると、速度を敵にコントロールされてしまうな。


 両側に散っていたオートバイがバスに接近して来る。

 前を走る機動車両も徐々に速度を落としてバスに近づく。

 

 こうなったら弾丸の節約をしている場合じゃない。


「リュウ、弾数は気にするな、撃ちまくれ!」


『その言葉、待ってたぜ!』


 俺の言葉にリュウが即座に反応、側面から来るオートバイに向かって機関銃を撃ちまくる。

 だが遮蔽物がある上に両車共に動いている。 

 そう簡単には当たらない。

 当たっても車両自体は当然防弾処理をしている。

 それでも接近はかなり防げる。


 たまらずオートバイからも射撃が始まった。


 バスの側面に銃弾が当たり、バンバンと音を立てる。

 今の所それらの銃弾は、全て防弾版で防げている。

 問題はそれがどこまで耐えられるかだ。

 重量の問題で、防弾されていない所もあるからだ。


 前方を走る敵の機動車両が、何かをばらき始めた。

 金属製のクサビだ。

 バスのタイヤを駄目にしようというのだろう。

 だがこのバスのタイヤは、全てノーパンクタイヤを装備している。

 タイヤの中身はエアーじゃなく、特殊ゴムが詰まっているのだ。

 パンクなどはしない。

 しかし金属片がタイヤに刺されば、走行性能に関わる。

 止まって除去する訳にもいかず、しばらくはそれで走る続けることになる。


 リュウが突然叫ぶ。


『くそ、リロード!』


 弾倉の弾切れを知らせる合図だ。

 新しい弾倉に交換する間、後方機関銃座が使えず、後方の防備が薄くなる。


 それを察知したのか、オートバイがバスの後方に集まりだす。


 窓から変異人の二人が自前の銃で応戦する。

 すると一台のオートバイが突然爆発した。

 樹皮の方の変異人が、喜びの雄叫びを上げる。

 どうやら変異人の撃った弾が、オートバイの燃料パイプに命中したらしい。

 燃料爆発だ。


 これで奴等があきらめてくれれば良かったのだが、盗賊連中は「ひゃっはー」とか叫んで、なおもバスの後方から接近して来た。

 

 こういったバカが敵なのが一番やりにくい。

 しかし人の事は言えないか。

 ふと、リュウに視線を送ったら何故か無線。


『ハコ社長、何か用か?』


「あ、ああ、油断するな!」


 タンデムシートの男が何かを投げ付けてきた。


 それは空中で煙を吐き出しながら、くるくると回転しながらバスに飛んでくる。


 俺はありったけの声で叫んだ。


「グレネード!」


 手榴弾だ。


 リュウのいる銃座に投げ込まれたのだ。







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