第5話 二人の変異人






 ビッグランドへは順調に行けば、5日程で到着出来るはずだ。

 折角だから積み荷と乗客を募集した。

 すると募集して直ぐに、二人の乗客の申し込みがあった。

 しかも二人は途中下車ではなく、終点のビッグランドまで行くという。

 これはラッキーである。

 ただ、前回の乗客に化けたバスジャック犯の事があるから、少し不安がある。

 それで今回は、武器の携帯は一切認めないという条件にした。

 武器は全て貨物室預かりだ。


 それでも構わないという二人。

 そうであれば、快く受け入れたいのだが……


 スズ曰く。


「あれはヤバいっす、断った方が良いっすよ」


 リュウが言う。


「俺には分かる。あの目は何人も殺してる目だ。ハコバスには乗せねえ方がいいぜ」


 そしてモエモエ。


「私、毒の作り方知ってますよ」


モエモエ、お前もか!


「うるさい奴らだなあ。あの二人は俺が招いた客だからな。失礼な態度は取るんじゃねえぞ、いいな!」


 その二人というのは、魔物に成りかけの客なのだ。

 汚染された水を、かなり長期間かけて飲んだのだろうな。

 身体の各部分が変異してしまっている。

 この世界では『変異人』と呼ばれてたりする。


 一人はフード付きマントで隠してはいるが、身体のかなりの部分がうろこに覆われている。

 もう一人は肌が、植物の樹皮の様に変異しているところがある。

 あまりの変異で、二人の性別さえ不明だ。

 それにあの風貌ふうぼうだと、街の中では気味悪がられる。

 荒野に出ても下手したら、ハンターに魔物と間違われて襲われる。

それを考えたら、良く今まで生き残ってきたと思う。

 ちょっと同情する。


 必要な荷物を積み込み、バスはその日の内に出発させた。


 街には三日目に一度寄るだけで、荒野の中をひたすら走る。

 時々燃料補給の為に、道の駅に寄るくらいだ。


 こんな長距離の連続走行はほとんど経験がない。

 何が起きるか不安ばかりだな。


 そんな不安とは裏腹に暇である。


 見える景色は建物の残骸や荒野ばかり。

 高層ビルだった建物も、今じゃ半分くらいが土や砂に埋まっている。

 時々魔物が見えるくらいで、あとはほとんどが岩とたまに見かける変異した植物だ。


 そんな中、魔物の群れに出くわした。

 角の生えたウサキ系の魔物だ。

 通称ホーンラビット。

 肉は魔物にしては旨い方だ。


 数十匹の食用肉の群れ。

 そう考えたら放っておくのはもったいない。


 そこで、真っ先に車内無線で知らせてきたのがリュウだ。


『ハコ社長、あのウサキ、撃っていいか!』


 多分だが、他の人達とは撃つ目的が違う。

 それにこいつは機関銃で撃つ気だ。

 そんな事したら肉がミンチになっちまう。


「なら暇つぶしにでもバスを止めてホーンラビット狩りでもするか。ただしお客さん次第だが……」


 すると変異人の二人はサムズアップする。

 どうやらOKらしいな。


『よし、リュウ、散弾銃を持って来い!』

 

 俺の一言で変異人以外が大盛り上がり。

 変異人の二人は、あまり感情を表に出さないらしい。


 しかし!

 うろこの方の変異人が手を出した。

 もしかして一番手をやりたいのか?

 俺が手に持っている散弾銃を指差して「これか?」と聞いてみた。

 すると大きく頭を縦に振る。


 俺はわざとらしくニヤリとして、手に持った散弾銃をそいつの前にずいっと差し出す。

 するとうろこの変異人の口元から白い歯が見えた。


 今のはもしかして、笑い返したのか?!

 俺とのやり取りがなかったら、全然分からなかったぞ。


 俺が渡した散弾銃はかなり古いもので、中折れ式の水平二連の散弾銃で、二発しか弾が入らない。

 その代わり、色々な種類の弾丸を撃つことが出来る。

 何より安く手に入る。


 その散弾銃を受けとるや否や、手馴れた感じで装填されている弾種を確認するうろこの変異人。

 弾丸が装填されていない事が分かると、俺に無言で手のひらを差し出した。

 弾丸をよこせって事だろう。

 

 だが、そんなことよりも驚いたのが、そいつの手だった。


 指の間に水カキがある。


 思わずジッと見てしまった。


 それに気がついたのか、スッと手を引っ込めるうろこの変異人。

 俺は慌てて弾を取り出す。


「ああ、悪い。ほら、散弾だ。一人二発だ」


 そう言って散弾二発を渡した。

 この弾は鳥用の威力の低い散弾で、ホーンラビット相手なら十分な威力のはずだ。


 うろこの変異人は、その弾を手馴れた手つきで散弾銃に装填する。

 そしてバスが停車する寸前に、外に飛び出した。


 地面に着地すると散弾銃を直ぐに構える。

 銃の反動を抑える為なのか、前方にやや体重を掛けた独特の構え。

 だがこの散弾銃は、そこまで反動が強い銃ではない。


 ホーンラビットは危険を察知してか、ジグザグに走り始める。


 ハコバスにいる全員が興味あり気にうろこの変異人に注目する。


 そして続けざまに二発を撃った。


 撃ち終わると直ぐに空の薬莢を排出し、ポケットに手を突っこむと、予備弾が無い事を思い出したように「ちっ」と舌打ちする。


「凄い、ガチじゃん。二発とも命中してるよ!」


 そうモエモエが叫んだ。

 ホーンラビットの二匹が、荒野の真ん中でヒクヒクと倒れているのだ。


 ちょっと怖くなった。

 

 最初にスズやリュウが言った言葉を思い出す。

 だ、大丈夫だよな?

 モエモエに毒の作り方、教えてもらうかな。


 続いてもう一人、植物の樹皮のような肌の変異人。

 バスを走らせて、再びホーンラビットの群れに接近する。


 近付いたところで二発の散弾を手渡す。

 

 水かきは無かったが、人差し指と中指が引っ付いていた。

 その内に同化して指は四本になりそうな感じだ。

 それで引き金は引けるのかと思ったら、薬指を使う様だ。

 見てるとやりづらそうだが、意外と慣れた手つき。


 受け取った二発の散弾を、その変わった手で器用に散弾銃に込める。


 一方、バスはホーンラビットの群れに追い付き、群れと並行して走っている。

 

 そのホーンラビットも大分疲れてきたようで、動きがかなり鈍くなっている。

 

 バスがホーンラビットの群れに近付くと、突然樹皮の変異人がバスから飛び降りた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る