第3話 地下へ続く道
リュウが放ったライフル弾は対魔物用の特殊な弾丸だ。
パラライズ魔法が呪符されたちょっと高価な弾丸だが、呪符された拳銃弾よりは安い。
魔法呪文の呪符は、対象物に手書きで魔法陣を書き込む。
だから小さければそれだけ難易度が高くなり、値段も高くなる。
しかも命中しなかったら意味がない。
そもそも一般人が気軽に使えるほど安くはない。
このライフル弾は会社の経費で買った弾丸で、リュウの腰の個人的な銃とは違う。
それでも高価な品である。
そしてその高価な弾丸はというと、禿(は)げ鷲(わし)の翼(つばさ)に命中したようだ。
見事にパラライズ魔法が発動し、禿(は)げ鷲(わし)は痙攣(けいれん)しながら地面へと落下した。
「リュウ、ナイスショットだ!」
「リュウさん、さすがっす!」
俺とスズの誉め言葉にリュウは照れ気味に答える。
「た、大したことねえよ。これくらい、楽勝だぜっ」
バトルジャンキーはこういうのに弱い。
ある意味扱い易い。
落下した禿(は)げ鷲(わし)にとどめを差し、血抜きや肉さばきは部下の二人に任せて、俺はバスの銃座で周囲の警戒をする。
実はこういったタイミンクが、一番危なかったりする。
盗賊どもが出て来るからだ。
奴等は獲物を狩り終え、肉をさばいた所を狙って襲って来る。
そのタイミンクで奪えば、余計な手間は掛からずに、さばき終えた肉が手に入る訳だ。
この辺は土地が平坦ではなく岩も多く、幾らでも隠れる場所はある。
いつ襲われてもおかしくない地形だ。
特に一箇所が気にかかる。
大型自動車の残額だ。
その周囲には岩や機械の残骸もある。
身を潜めるには格好の場所じゃないだろうか。
俺はそこに銃口を向けたまま動かさない。
「ハコ社長、あとは積み込むだけっす」
スズがそう言った瞬間だった。
大型自動車の陰から何かが飛来した。
矢だ。
久しぶりに見るな。
俺は叫んだ。
「ゴブリンッ、大自動車の陰!」
弓矢を使うのは、“ゴブリン”と呼んでいる変異生物しかいない。
詳しくは知らないが、昔の神話に出て来る妖精に似ているとか。
身長は子供程度しかなく、ほとんどの個体は緑色っぽい肌をしている。
そのゴブリンが複数で攻撃をかけてきた。
俺は大型自動車の周辺に機関銃を掃射する。
驚いたゴブリンが数匹、慌てて車の影から逃げ出すが俺はそれを逃がしはしない。
逃げるゴブリンの背中に容赦なく銃弾を叩き込んだ。
しかししぶとく矢を射るゴブリンが、まだ何匹か残骸の影に隠れていやがる。
そこで俺はグレネード・ランチャーを取り出した。
口径40ミリの各種弾頭を飛ばす武器。
この大きさの弾頭ならば、呪符がなくてもそこそこの威力が見込める。
俺はそのグレネード・ランチャーで、40ミリ破片弾を発射した。
着弾地点の周囲に無数の破片を撒き散らす弾頭だ。
40ミリの破片弾は狙い違わす、弓矢を引くゴブリン達が隠れる場所の直ぐ横に着弾した。
爆発音と共にゴブリンの悲鳴が聞こえる。
ゴブリン程度ならば、直撃しなくても破片で倒せる。
そこへバトルジャンキーのリュウが突撃した。
「おらおらおらおらー、俺と勝負する奴はいねえか!」
瀕死のゴブリンに向かって、マチェット振るうリュウ。
知らない奴が今のリュウの姿を見たら恐怖するだろう。
返り血を浴びた魔物にしか見えない。
動く者が居なくなった所で、やっとリュウがバスに戻って来た。
「あれ? スズはどうした」
そう俺が聞くとリュウ。
「知るかよ、そこら辺でゴブリンの戦利品でも漁ってるんじゃないのか」
「リュウ、スズを探せ。ゴブリンがまだ隠れてるかもしれないからな」
スズ一人じゃ危ないだろ、などと思いながら俺はライフル銃を持ってバスを降りた。
俺とリュウで反対方向を探す。
銃を構えながらスズが居た辺りを探る。
どこにもいない。
「スズ~、どこにいる~!」
返事は全くない。
なおも捜索していると、違和感のある場所を発見した。
不自然に壊れた電化製品が積まれている。
俺は十分に警戒しながら、足で冷蔵庫らしき物体をどかしてみた。
すると地面に穴が空いている。
「リュウっ、穴が空いた場所があるっ、こっち来てくれるか!」
俺の声かけで、面倒臭そうにリュウがやって来た。
そこで俺が穴を指差すと、リュウがニヤリとして言った。
「こりゃあ、ゴブリンの巣じゃねえのか、俺に任せろ」
そう言ってリュウはライトを取り出して、さっさと穴の中へと入って行く。
穴は地中へと下って行くようだ。
俺は後ろからリュウに付いて行く。
穴は直ぐに広い場所へとつながった。
俺達はその開けた場所に降り立つと、二人してライトで周囲を照らす。
「ここは古い建物の中みたいだな。ゴブリンが棲(す)みかにしていたんだろうな。リュウ、何か使える物が有るかもしれないぞ、見逃すな」
「ヘイヘイ、スズは後回しか?」
そこで悲鳴が聞こえた。
人間の悲鳴。
しかも女の悲鳴だ。
だが、スズじゃない。
ってことは……
「リュウ、付いてこい!」
俺は悲鳴が聞こえた方向へ足を早めた。
階段を降りて行くと、明かりが灯る部屋がある。
そこへ銃を構えて近付くと、部屋の中から声がする。
「へっ、へっ、へっ、大人しくしてれば直ぐに終わる。ほら、こっちへ来い」
「イヤッ、お願い、さ、触らないでっ」
これはあれだ、汚らしい盗賊が若い女性を襲おうとしている場面だな。
俺は「そこまでだ!」と叫びながら部屋の中へ突入した。
後からリュウも続く。
そして突入した俺達の目の前には両手を肩まで挙げて、今まさに襲い掛かろうとするスズがいた。
そのスズの目の前には、若い女性が震えながらしゃがみ込んでいる。
この状況、誰が見ても言い逃れ出来ないよな?
スズは俺達の存在に気が付いたのか、まるで機械人形の様にその場で固まっている。
俺が「おい、スズ!」と声をかけると、ギギギと音が聞こえるんじゃないかという様な動きでこちらに顔を向けた。
俺と視線が合ったスズの顔が、「な、何でここに?」っとでも言いたげに、驚愕の表情を作る。
「こんなとこで何をやってるんだ、スズ」
俺が改めて質問すると、やっと状況を飲み込めたらしいスズが、ゆっくりと挙げていた両手を降ろして言った。
「ちょ、ちょっと散歩に……っす」
あまりに苦しい言い訳だ。
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