第2話 カレーライス
客がいなくなったハコバスは、ガラクタ地帯も無事に通りすぎた。
まさか乗車してた客全員が、バスジャックの犯人だとは驚きだった。
ヒソヒソ話とか、怪しげな行動をしてたのは確かだ。
ガラクタ地帯で隠れていた盗賊は、そいつらの仲間だったんだろうと思う。
あのタイミングで運転手席に乗り込んで、バスジャックを狙ったんだろうな。
だけどね、甘いよ、甘い。
俺が雇っているこの二人、ただもんじゃないからな。
性格には問題あるかもだが、用心棒としては桁外れに強い。
このたった二人のおかげで、このバスは長い間無事で運行している。
そういった意味でなら、二人には感謝しかない。
しばらく走ったところで建物と、それを囲う壁が見えてきた。
ドライバーの休憩所である道の駅だ。
バス・ストップとかトラック・ストップとか呼ばれていたりもする。
レストランや宿泊施設に加え、燃料補給や修理も出来る施設を完備している。
この道の駅にはいつも、食事のために立ち寄ることにしている。
ここのカレーライスが絶品なのだ。
このカレーライスを食うがために、わざわざ遠回りまでしてこの道の駅に立ち寄るのだ。
ただし、旨いだけあって値段はべらぼうに高い。
ここの道の駅の名称は『カレン』っていうのだが、その由来はここのオーナーの名前からきている。
オーナーの名前はカレン・ラスカ。
ここが出来た当時は彼女もまだ若々しく、美人で人気があったらしいが、今じゃ見る影もない。
若作りはしているが、それも限界というものがある。
婆さんと呼べる年齢なのだが、髪の毛はピンク色に染めて、しわくちゃな顔に化粧を塗りたくっている。
だけどな、カレーライスを作る腕前は誰にも負けない。
その為だけにここ、道の駅『カレン』に来る奴は多い。
そこで常連客は皆それを『カレンライス』と呼んでいる。
そんなカレンライスを俺達三人は頬張っている。
「ああ、ほんと美味い。これなら毎日食ってもいいよな」
そんな言葉をポロッと言おうものなら大変だ。
俺は直ぐに口をつむぐがもう遅い。
「あ~ら、それってプロポーズの申し込みかしら~?」
勘弁してほしいぜ。
折角のカレーライスの味が
だがそんな事を口にしたら最後、二度とここでカレーライスが食えなくなる。
俺はそうなった野郎を何人も知ってる。
この道の駅『カレン』でのルール。
決してカレン嬢を馬鹿にするような言動をしてはならない。
カレン嬢が奥へ行った隙にスズが聞いてきた。
「カレン嬢ってそんなに強いっすか?」
こいつは強さというものが、戦いだけのものだと思ってやがるな。
そこで俺は真剣な表情で話を始めた。
「以前な、カレン嬢をババア呼ばわりした怖いもの知らずがいたんだよ。その時な、カレン嬢は冗談を言うように“私を呼ぶ時はカレンさんだろ?”って笑いながら言ってたんだよ。あのカレン嬢がだぞ?」
リュウはこの話を知っているらしく、ニヤニヤしながら聞いている。
「それのどこが怖いんすかね」
「ああ、それだけ聞いたら普通の会話だよな。だけどその後が問題なんだよ。男はそれでもババアと連呼したんだ。それでカレン嬢がどうしたと思う」
カレーのスプーンをカチカチと皿に当てながらスズが答える。
「ええ、その後っすか。ウ~ンそうっすね。カレーのレードルで、そいつの頭を叩いたとかっすかね」
「ちょっと違うな。カレン嬢はな、“あんた面白いね”って言ってな、その男にウィスキーをご馳走したんだよ。男はそのウィスキーを喜んで飲んだよ。だがな、それを飲み干した途端だよ、口から泡を吹き出してな。そこでカレン嬢はさ、その苦しむ男を見ながら言ったんだよ。“面白い男は嫌いなんだよ”ってな」
「それってマジっすか」
「ほら、店の裏に石が幾つもあるだろ。あれってそういう奴等の墓だって知らないのかよ」
スズの表情が一瞬で恐怖に染まった。
スズはカレーライスをさっさと口の中にかっ込むと、早足でバスの中に乗り込んでいた。
ちょっと脅し過ぎたかな。
店裏の石は墓に間違いないが、あれはここの防衛で死んでいった仲間の墓だ。
カレン嬢に殺された奴の墓というのは嘘だ。
だけど毒入りウイスキーの話は本当だから恐い。
さて、乗客が居なくなってしまった訳だが、そうなると寄り道が出来る。
ただし積み荷の納期には遅れない程度だが。
多少の遅れならば、バスジャック未遂を理由にすれば問題ない。
そこで寄り道する場所というのは、狩り場である。
普通はハンター達が行くところだ。
だからといって俺達が行っても問題ない。
何を狩るかといえば、それは『魔物』である。
ただし金になる魔物。
金になる魔物というのは、結局は食えるか食えないかで決まる。
中には滋養強壮なんかの薬になる魔物もいるが、そんな魔物は滅多に現れない。
そしてちょっと寄り道して、狩場と呼ばれる場所の近くでバスを停めた。
バスで直ぐに逃げられる様に、スズは運転席で待機させる。
俺も異常事態に備えて銃座で待機。
リュウが一人で狩猟用ライフル銃を持って、物影で魔物の出現を待つ。
しかし何もしないで待っても中々現れない。
そこでエサをまくのだが、血の匂いのする物が効果的。
今回は道の駅で買ったモグラネズミにする。
値段は安いが肉は不味く、こうして魔物のエサにするのが最善の方法だ。
そして待つ事15分。
そいつは現れた。
一見すると
通常の鷲の3倍から4倍の大きさはある。
エサの上空を何度か回った後、突如急降下。
モグラネズミをその鋭い
しかしそこでリュウが、ライフル銃で狙い撃ちした。
荒野に響く一発の銃声。
果たして結果は……
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