荒廃した地を武装バスが行く
犬尾剣聖
第1話 バス会社
「えー、本日は当バスをご利用頂きましてありがとうございます。ボルンへの到着は15時を予定しています」
悲しいことに客は4人しかいない。
普通なら赤字なんだが、今回は輸送依頼の荷物がある。
そのおかげで今日の運行は、なんとか黒字に持っていける。
「それではお待たせしました。ボルン行きのバス、発車しまーす」
運転手はスズ・キシダ、後部銃座はリュウ・カワサキで、二人ともまだ若く10代である。
そして前部銃座に座るのが、このバス会社の社長である俺だ。
名前はヤマト・ハコザキ、ハコ社長って呼ばれている。
ギリギリまだ20代である。
会社名はハコザキバス会社、通称『ハコバス』だ。
朝9時にボラレの街を出発してボルンの街には6時間後に到着予定だ。
これはあくまでも予定である。
途中に魔物や盗賊の襲撃、そしてバスの故障なんかは当たり前。
時間通りに到着なんてまずない。
それでも街から街への移動には、こういった武装バスが一番安くて便利なのだ。
ボラレの街の外壁門を出ると、外は荒れ果てた土地が広がっている。
この荒野と呼ばれる場所には、遺伝子変異した野生動物がいる。
俺達はそれを魔物と呼ぶ。
この魔物が時々バスを襲ってくるのだが、それよりも怖いのが盗賊だ。
かつて人間だった変異生物達。
そいつらが盗賊と化して襲ってくる。
そんな敵性生物に対抗するために、どのバスも武装している。
もちろん俺のバスも武装化して防御を固めている。
主要部分は装甲を張り、ピストル弾や軽い破片くらいならば防げる。
屋根上に通路を渡し、その前後二ヶ所に機関銃座を装備。
煙幕弾やグレネード・ランチャーもある。
重武装とまではいかないが、これで大抵の敵は追い払える。
街を出てしばらく行くと、如何にも誰かが潜んでいそうなガラクタ地帯に出くわした。
そこで運転手のスズが車内無線で疑問を口にする。
『ハコ社長、前回来た時と形が変わってるっすね。怪しいっすよ。気を付けた方がいいっす』
このスズは服装は男物だし、髪型はショートカット。
遠くから見たら男?ってなる。
しかし声は完全に女。
近くで見ると、身体の凹凸もしっかり女だ。
ただ、そんなスズの恋愛対象は男ではなく女である。
しかし女だといって
それは良いとして、そのスズの怪しいと言う言葉に、後部銃座のリュウが真っ先に反応する。
『適当にグレネード・ランチャー撃ち込むか?』
こいつは好戦的な性格の持ち主だ。
直ぐに戦いで勝負を着けようとする、バトルジャンキーである。
「待て、まずは客に知らせるのが先だ」
こういう時にはまず、車内放送を流すのがセオリーだ。
『えー、乗客の皆様にお知らせがあります。前方に怪しげな場所が見られます。万が一戦闘になっても、窓から顔を出さない様に御願いします』
これでよし。
バスが通れる場所はここしかない。
ここを避けて通るとなると、少なくても3時間は余計にかかる。
そして何時でも反撃出来る準備をして、バスを走らせる。
客の4人は知り合いなのか、何やらヒソヒソと話をしている。
全く怖がってはいないようだ。
そしてガラクタが散らばる中を真っ直ぐに突っ切る。
車体が激しく上下左右へと揺れる。
揺れる中、何かが潜んでいそうな場所へと必死に銃口を向ける。
特に何もないまま、ガラクタ地帯の半分ほどを進んだ辺りだろうか。
突然バトルジャンキーのリュウが、機関銃をぶっぱなし始めやがった。
『ひゃっはー、皆殺しにしてくれるぜ!』
車内無線からバトルジャンキーの狂った声が響く。
俺は文句を言おうとした時だ。
運転手のスズが叫んだ。
『待ち伏せっす!』
一瞬だけ戸惑う。
が、直ぐにリュウが射撃する方向を確認する。
本当にいた。
盗賊グループだ。
数ヶ所に拠点を作って、そこから攻撃してくる。
とは言っても、主な武器はライフル銃みたいだ。
それなら負ける訳がない。
『リュウ、奴等を蹴散らせ!』
俺の命令に、
俺も負けじと撃ちまくる。
ライフル銃程度ではこのバスは停められない。
襲撃者は次々に倒れていった。
そして楽勝かと思っていた矢先、客席が何だか騒がしい。
俺は銃座に
すると見えたのは、客の4人が運転手席へ通じる扉にバールをねじ込んで、こじ開けようとしているところだった。
俺は直ぐに車内無線で連絡する。
「スズっ、客がお前の後ろの扉をこじ開けようとしてしてるぞ!」
真っ先に反応したのは後部銃座のリュウだ。
『俺に任せろっ!』
天井の扉を開けて、リュウが「ひゃはー」とか言いながら車内へと躍り出た。
手には変わった形の大型リボルバー拳銃。
リュウのお気に入りの銃だ。
車内に降り立つや否や、その大型拳銃を
相当に威力がある拳銃で、反動で銃口が跳ねる。
まず始めに狙われたのは拳銃を持つ男。
リュウの大型拳銃の弾丸の威力は凄まじく、命中した途端に男の頭が弾ける様に消し飛んだ。
彼の弾丸は特注品で、弾頭に爆裂魔法の呪符がされている。
拳銃弾のように小さな物に呪符を施せる呪符師は、そういるものではなく、非常に高価な拳銃弾であることは間違いない。
そんな特別弾を惜しげもなく、こんなチンピラに使ってしまうのもリュウらしい。
次に標的になったのは、隣にいたバールで扉をこじ開けようとしていた男。
そいつは胸に大穴を二つ空けて倒れた。
残るは二人。
あっという間の事に、残った二人は何も出来ずに立ち尽くす。
だがリュウは、敢えてそこで引き金を止めてニヤリと微笑む。
「さあ、ここで問題だ。降参するのと最後まで抵抗するのと、どっちが生き残る確率が高いでしょうかっ」
そう言って、大型拳銃を腰のホルスターにしまうリュウ。
生き残った二人はお互いの顔を見合わせる。
悩んでいるようだ。
二人の持つ武器は、鉄パイプから作った手製銃。
二人で同時に撃てば勝てるかもしれない、なんて考えているんだろうな。
だけどね、甘いよ、君達。
「はーい、時間切れ~」
慌てて銃を構えようとする二人。
しかしリュウは既に、ホルスターから銃を抜いていた。
何も出来ないで固まる二人。
リュウは何の
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