第11話
スマホに表示された地点を車のナビに入れた。
『✕✕工業』と書いてあるがおそらく廃墟だろう。あとはスマホと一緒に若葉も居てくれる事を願うだけだ。それが置き去りにされてたら、もう追う術がない…。
どうか無事でいて下さい。
声にも顔にも出さなかったが、相原はその事だけを懸命に祈りながら車を走らせる。
どこでサボってるのか監視するためにこっそりと起動させて置いたGPS機能が、まさかこんな非常事態に役立つとは思ってもみなかった。
車に搭載された地図を眺めていたサラサが、ふとある事に気がついた。どうしようかと迷ったが、思い切って相原に伝えた。
「あの、すみません。ここへ寄っていただけますか」
彼女が示したのは特に何かの施設でもないようだ。急いでいるところだがともかく彼女の言う事に従い、ハンドルを操作した。
そこは何かの跡地のようだった。
だがそれよりも相原が驚愕したのは、そこに無数のバイクがたむろしていた事だ。指示された場所を間違えたのかと彼女は思ったが、サラサは「ここで停めて下さい」と言い、車を降りて行った。
ちょっ、ちょっと何してんの。これから危険
な所に向かおうって時に、負けず劣らず危険
そうな場所に乗り込んで…。
相原は固唾を飲んで彼女の行動を見守った。
梟の群れに、子リスが迷い込んだ。
そんな感じの可愛らしい娘の乱入にあるものは好奇の目を浮べ、あるものは警戒した。
可愛い子リスは真っ直ぐに総長の座る場所へ向かう。
ギラついた目を光らせていた梟のアタマは、彼女が来るなり仲間には見せた事のない穏やかで優しい表情に急変した。
「おお〜。まさか本当にこんなとこまで来てくれるなんて」
彼は嬉しい反面、何か起きたんだと察した。そのため笑顔ではあったが目は笑っていなかった。
「あ…の、大事な人をこれから助けに行きます。もう会えないかも知れません。だから最後にお礼を言いたくて。その…」
サラサはたまらずグレに抱きついた。
「さようなら。ありがとうございました」
ヒュウ〜ッと周りから声が上がる。
「るせぇっ!」
総長の恫喝で、一瞬にしてみんな静まり返った。
グレは、彼女を抱き締めたい思いにかられた。
今ここで、力いっぱいこの子を抱き締められたら他には何もいらない、そう思えた。
だがギリギリのところで思いとどまり、サラサの頭を撫でてそっと告げる。
「……せいや。俺の本当の名前は、誠哉だ」
サラサは顔を上げた。
「セイヤ、さん。素敵なお名前ですね」
彼女はそっと腕を離し、悲しそうに未練を残しながら、停めていた相原の車に乗り込んだ。
車は急いで転回して去って行く。
誠哉は遠ざかっていくテールランプを見つめながら、「おい、フウジン」とそばの男に声を掛けた。
「あの車追っかけて行き先知らせろ」
風神と呼ばれた男は「押忍」と返事をし、名の通り風の様な速さで車を追った。
誠哉はもう一人の仲間にも指示を飛ばす。
「ジャキ。仲間全員集めろ。今から祭りに行くって伝えろや」
邪鬼はギザギザの歯をニタリとさせて「了解」とスマホで電話をかけ始めた。
誠哉、いやグレはそのギラついた目を光らせて呟いた。
「さぁ、久しぶりにド派手におっ始めようや。俺達の大好きな『血祭り』ってやつをよぉ」
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