第2話
ひとまずは融資を受けれそうな金融機関をあらたに模索するしかない。地元の信用金庫でも協同組合でもどこでもいい。とにかく助けて欲しい。
若葉はアポ取りのためにまずは手当たり次第電話をかけようと電話帳を引っ張り出した。
入口でコトッと音がしたと思って見ると、相原が戻って来たようだ。 今日はやけに早い。それにチラシもまだ残ってる。完遂主義の彼女にしては珍しい事だった。
「おかえり。ずいぶん早かったね?」 体調でもすぐれないのかと尋ねようとした時、
「あの、お仕事を依頼したいという方がいらっしゃるんですが…」
と口にした。
なぬっ?!仕事の依頼!? ああ、何と言う
素晴らしい響きだろう…。
若葉はもう一度言ってと頼もうかと思ったが、仮にも所長だ。ここは堂々と構えなければと平静を装った。
「そうか。電話が入ったのかね?」
彼女には仕事用のスマホを渡してある。クライアントとのやり取り以外にも、出先で直接依頼が入る事もあるからだ。
平静を装ったつもりだが嬉しくて鼻の穴がヒクヒクする。
「あ、いえ電話ではなくて。出てしばらく歩いていたら『この辺りに探偵事務所はありますか』と聞かれたもので…」
でかした。良くやった。いくらド天然 でも
スマホでよそを検索する様な事はしなかった
ようだ。いや、そこまでしたらもう転職の意
思が在るとしか思えないが…。
「それで、先方はどちらに?」
「今、外でお待たせしていますので、お呼びしますね」
相原は急いで入口へ向かった。
う~む。やはり彼女は手放せない。仕事を
寄せ付ける天使でもあったとは。 給料は
上げれないが、今度寿司でもご馳走しよう。
回る方の。
「どうぞ」
彼女が声をかけると、車椅子の若い女性とその介助と思われる、こちらも更に若そうな女性が連れ立って入って来た。
まずビックリしたのは、その日本人ばなれした美貌と上品な雰囲気だった。
これは…、カネの匂いがする!
若葉は至って冷静に、鼻をヒクヒクさせながら応接テーブルに二人を案内した。
相原はすぐキッチン(狭い)に立ってお茶の用意を始める。
出来る助手だ。離したくない。
お茶を勧めながら若葉は軽く自己紹介をした。
「私はこの探偵事務所で所長をやっております若葉 透と申します。まぁ、見ての通り小さな事務所ですがね。はっはっはっ」
車椅子の女性は室内を見廻して「そうですね」と答えた。
(おおっと。なかなかはっきり物を申す人だ…そこは日本人なら軽く包んで「いえそんな事は」と返すのが常ってもんでぃ!…んんやぁ?この日本人ばなれしたお二人、もしや外国の方では…)
若葉は改めて尋ねてみた。
「あー、アーユージャパニーズ?」
後ろで相原が、はぁ~っと手のひらで額を押さえる。
「いえ。私たちは日本国外から参りました。諸外国にある、小さな島国です。おそらく日本の国土の半分にも満たないかと」
車椅子の女性は流暢(りゅうちょう)な日本語で応えた。
「なるほど!そうでしたか。どおりでお二人とも日本人にはないお美しがお有りだと思いました」
ありがとうございますと自然に答える女性に、若葉はいささか気後れしそうになっていた。
相原がたまらず口を挟む。
「所長。ご挨拶はそれぐらいにして、クライアント様のご依頼をお伺いしましょう」
「おーそうだ。今日はどういった様なご要件で?」
車椅子の女性と介助の若い女性は顔を見合わせて、
「実は、しばらく身を置く場所を探しております」と伝えた。
若葉はちょっと面食らった。
(いやいやちょっと待て。それなら不動産に聞いたほうが早いじゃないか。向こうの方がスキルもあるし、なぜそれを探偵社に?日本に馴染めてないのだろうか)
若葉は一人で悶々としていたが、せっかく舞い込んだ大事な仕事だ。この際どんな依頼でも受けようと心に決めた。
「…え〜とそれで、お客様はどういった物件をお探しでしょうか?」
まるで不動産屋のセリフだ。
車椅子の女性が条件を伝える。
「まず、人目にはあまりつかない事。それから身元を特定されないよう、配慮していただく事。そして10日間は安全に過ごせる場所である事。以上が基本的な条件です」
…………これは確かに、不動産屋では無理だ。まずもって身分を証明出来ないと契約は交わせない。そして、10日間?なぜそんな短期間の滞在なんだ?旅行ならホテルに泊まればいい訳だし。
若葉はもっと詳しく事情を聞く必要があると思った。
それを察したかのように、車椅子の女性が先に詳細を語る。
「私どもは、とある組織に追われています。国絡みの問題で、10日間は身を隠さなければなりません」
彼女は続けて言った。
「私はその島国の王族の娘、カラン。こちらの者は私の身の回りの世話をする、従者です」
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