第16話

「普通勤務中に来る?」


慌てて廊下へ真夏を連れ出して、誰もいないフリースペースで立ち話をする私たち。


「このフロアに用事があったついでだもん。で、誰?」


絶対に後者が本題のくせに。



「絶対誰にも言わない?」


「当たり前でしょ、私が口堅いの一番知ってるの葵だよ。」


「…五十嵐君。」


思わず目を逸らしながらポツリと呟いた。



「…まじ!?」


そこは予想していなかったのか、目をまん丸に見開いてキラキラ輝かせた真夏はこれ以上ないくらいに嬉しそう。



「うわー、五十嵐君って葵狙いだったんだ。」


「狙いとかじゃなくて!」


「どうりで誰にもなびかないわけよ。」


「だから違くて!ただのお詫びのランチだから!」


それ以上でもそれ以下でもない…はず。



「お詫びって?」


「今朝、電車でぶつかってYシャツ汚しちゃったの。だからランチご馳走するって話。」


弁解する私にさらに目を光らせながら、


「本当にそれだけ?」


何かを悟ったような雰囲気。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る