第13話

「同じ電車だったんですね。」


「そうみたい…。」


気まずさからか目を合わせることができない。



でも、


「本当にごめんなさい。営業の人にとってYシャツも大事な仕事道具なのに。」


この上ないほどに、申し訳なさが私を追い込む。


綺麗にアイロンがけされたそれはきっとコンビニなんかで売ってるような安価なものじゃ代えにはならないはずだ。



「大丈夫です。何着か会社のロッカーにありますから。」


爽やかな笑顔に見惚れそうになる自分に心の中で平手打ち。


今はそんなこと考えている場合じゃない。



「でも…」


「そんなに気にすることじゃないですよ。」


「するよ!だって…」


Yシャツを汚してしまったこともそうだけれど、会社で着替えるまでの間これで歩かなきゃいけないなんて。


申し訳ないどころではない。



「別に気にしませんけど…でも、じゃあ今日のランチご馳走してくれませんか?」


「へ…?」


良い案だ、とでも言いたげにまたしても爽やかな笑顔を見せる彼に、私は流されてしまったのだろうか。


気づけば首を縦に振ってしまっていたんだから。

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