第9話

「葵は本当に変わらないな。その無邪気さに何人の男が落ちてたか知らないだろ。」


「えー?そんなのありません。藤宮さんじゃないんですから。」


「はいはい、それはまぁ自覚してます。」



自他共に認めるモテっぷりってこと。


あぁ、楽しいな。


職場ではもちろん、こんなに砕けた話題は出せない。


二人きりのこの空間だからこそ、できる話がたくさんあって、七瀬ではなく葵と呼ばれるのもすごくすごく嬉しかった。



「ここは牛タンが有名なんだと。」


店内は遅い時間にもかかわらず、ひどく賑やかだった。



「私牛タンがいちばん好きです。というか、カルビとかもう重く感じちゃって。」


「まぁわかる。…って、葵はまだ20代だろ?」


「もう今年…早生まれなんで来年ですけど30歳の代ですから。」


「なんでドヤ顔なんだよ。」



満面の笑みを見せてくれて、おまけに私の頭をくしゃっと優しく撫でてくれて、目の前から伸びて来たその腕を思わず掴みそうになった。


包容力の塊みたいな人。



少し忙しい時期が続きすぎたせいで、誰かに甘えたくなってしまっているのかもしれない。

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