第8話

「嬉しいです。藤宮さんとご飯なんて、歓送迎会以来ですよね。」


エレベーターに乗り込んで、鏡に映った自分を横目で見ながら、もう少し綺麗な服で来ればよかったと少しだけ後悔した。


今日に限って着回しのきく黒いシンプルなパンツにこれまたシンプルなジャケット。


買ったばかりのブランド物の洋服を頭に浮かべて、思わずもれそうになったため息を飲み込んだ。


「もう遅い時間だけど七瀬は何か食べたいものある?ガッツリ?」


「ガッツリで!」



当然!と拳を握った私を見てクスクス笑った藤宮さんに、私もつられて笑う。



今年30歳になる私の体は、もう昔と違って食べたら食べた分だけしっかり体のお肉になることを自覚している。


…明日のランチはサラダだな。


なんて頭で考えていると、



「じゃあ焼肉でも行くか。駅前のところ、遅くまでやってるはず。」


「やったー!!」


藤宮さんといると大学生の頃に戻ったみたいだ。


まだお互いに若かったあの時代。


田舎から出てきた私は都会の街並みも人々も全てが新鮮で楽しかったなぁ。


その中心でキラキラ輝いていた藤宮さんはやっぱり主人公のような人。

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